【第27話『的場雪の過去 後編』】
【11月8日(火)・16時30分『横浜開業学園・本校舎2階会議室』】
光司は考える。
━━━泣いていた。今まで決して見せることのなかった雪の本当の表情。
あのパーカーにどれだけの価値があるかは光司には分からない。
しかし、破かれた雪は泣いたんだ。誰もいないとはいえ、教室で声を大にして泣いた。
普段の雪ならそれすらも有り得ないだろう。それだけ大事な物だったと言うことだ。
だからこそ光司は怒った。それはもう止めようもないぐらいに。
始めにパーカーを破り捨てた三人のクラスメイトを保険室送りにした。
気力こそ使わなかったが、幼少の頃より八卦無天流道場で鍛え上げた光司の攻撃はさぞ重かったのだろう。
三人の男子は一撃ノックアウトだった。
次に光司は会議室に向かった。それは、今日会議室にて放課後、職員会議が行われると言うことを知っていたからだ。
下を変えるなら上からだ!
光司はその決意を胸に動いた。そして現在━━━
「キミ、今は会議中だよ!なんだね、いきなり押し掛けてきて!」
先生の一人が光司に注意をしてきた。
光司は知っている。いま注意してきた先生は、雪に対して良くない印象を持っている内の一人だ。
「失礼は重々で言わせて貰います」
光司は会議室のホワイトボードの前に移動した。周りを見回すと、高津や谷口もいて━━━その奥には生徒が二人ほど座っていた。
(何で生徒が職員会議に出ているんだ?)
疑問に感じたが、光司は直ぐにモードを切り替えた。
「本日ここに押し掛けたのは、ある話をしに来たからです」
「な、何を言っているんだね!話なら後で聞くから出ていきなさい!」
「断ります!皆さんが集まってるこの場だからこそ俺は来たんです!」
「いい加減にしろ!一之瀬、内申点を下げられたいのか!」
「そうだぞ、君は早く下校しなさい。そもそもに何を話そうというんだい」
今度は別の先生が怒鳴ってくる。同時に他の先生方も非常識だの意味が分からないだの口々に言葉を漏らし始める。
聞く気のない姿勢。そうやって生徒に耳を貸さず体裁ばっかり気にしているから不良(ひねくれ者)や雪のようないじめの被害に会う奴が出てくるんだっ…!
「的場雪についてです!」
さっき別の先生が投げた言葉に返事を返した。
その名前を聞くと、騒いでいた教師陣が少し黙ってくれた。
だが抑えきれない怒りもあるせいか、光司から徐々に殺気のような気配が漏れだす。
教師陣には察知は出来ないが、生徒会の二人は違った。生徒会会長兼粛正委員会委員長・海藤玲子、生徒会副会長・天草荘司は、開業の裏組織“統制理事会”に所属する武術家だ。
特に第103代目会長の海藤玲子は、歴代生徒会長の中で最強を誇る実力者として称えられている。
そんな彼女が光司のわずかな気の変動を見逃す筈もない。
(……あの子……中々面白い素質を持っているわね)
ニヤッと笑う玲子を見た荘司は悪寒を感じていた。
(玲子さんが笑っているやと……!てことはあの一之瀬ゆーんは、相当な武芸者なんか…俺も興味出てきたは)
「話ぐらいは聞いてあげても良いんじゃないか?」
肯定してくれたのは谷口だった。化学狂師の異名を持つ谷口が、化学以外の事に目を向けたのは始めての事だった。
「私からもお願いします。一之瀬君の話……聞いてあげるべきかと思います」
次に高津先生が味方をしてくれた。開業の良心と親しみを込めて呼ばれる、優しく生徒想いな先生の発言は誰もが否定の言葉を述べれなくする。
しかし、このままではマズイと感じている教師もいた。そいつらは主に、雪に対してイビりのような嫌がらせをしてきた連中だった。
度が過ぎた事もやっていたりしていたので、校長や他の先生方がいるこの場で光司に雪関連のことを話されるのは阻止をしたい所なのである。
その一部の教師陣が口を挟んでこようとしたら、突如生徒会長の海藤玲子が口を継ぐんだ。
「話を聞きましょう。話してみなさい。そして私を楽しま━━━」
「ゴホン。玲子さん?」
「とにかく話してみなさい」
海藤会長の一言で、会議室は完全に静まり返った。
それだけ生徒会長の権限と言うのは、開業において最高のものだった。途中、失言をしようとしていた海藤会長に、天草副会長が咳払いで注意を促していたが、それは同じ生徒会だから出来る指摘である。
光司は感謝をしつつ説明を始めた。
━━━同時刻、1-A教室ではさっきまで泣いていた雪が、今は切り裂かれたパーカーを綺麗に、大事そうに畳みながらカバンに締まっていた。
そこに教室の扉が開かれた。入って来たのは、九条彩香だった。
「……九条さん…?」
「ごめんね、ちょっと、お話し良いかな……?」
それから彩香と雪は話し合った。
それから30分後、会議室では光司の居なくなった後、何人かの先生達が動揺していた。
海藤玲子は考える。光司の話は予想していたより面白くなかった。
だが玲子は上機嫌だった。その理由は光司の話ではなく、その行動力と情報にあったからだ。
まず的場雪と言う少女のこと。頭の良い玲子は、すぐに雪は常人からかけ離れた超天才の逸材と言うのを見破った。
同時に彼女達生徒会の裏の顔は粛正委員会、つまり雪を虐めてきた教師達のような存在が居たことを知れたのは得なことだった。
玲子はなに食わない顔で、その教師達に目をやる。
「一之瀬光司君か。中々面白い子だったわね。あなた達の悪事をこの職員会議と言う場を利用して申告してくるなんて。あ、そうそう、一之瀬光司君が言ってた的場雪に危害を加えたあなた方、明日から来なくて良いわ」
『━━━!?』
「なっ!なぜ……!」
「ふざけるな!何の権限があって!」
「そうよ!私はあの子がまともに授業を参加しないから厳しくしただけよ!」
教師達の文句を聞いていた玲子は、突如表情を変えた。それは冷たく、まるで虫けらを見るような瞳。同時にそこから紛れもない、武の心得すらない一般人にも判るほどの殺気が特定の教師達のみを襲う。
ゾクゾクッと背筋が震え上がる。
「生徒会……いえ、粛正委員会として通達。あなた方、退職よ」
その言葉に逆らえる者は居なかった。
その言葉は廊下にいた雪と彩香も聞いていた。
雪は彩香から全ての事情を聞いて、光司が今まで雪のために味方をしてくれていたことを、その為に職員会議に乗り込んで先生達に怒鳴った事を。
それらを聞くと不思議と心が柔らかい気持ちになり、今まで閉じてきた寒い心の中に、日が射し込むような暖かさが充満し出す。
同時に眼から熱い何かが零れ落ちる。
今まで虐めてきた教師が処罰されたことに喜んだのではない。光司と言う男子が自分の為に四方八方に手を回してくれた事が何よりも嬉しかったのだ。
胸が熱くなる。頭の中には光司の事でいっぱいになる。
「うぅ……うわぁぁぁん」
泣き出した雪の頭を、彩香が優しく撫でてくれた。
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翌日。雪は1-Aの教室前に立っていた。
「……すーはー……」
雪は深呼吸をして、そして両頬を叩いた気合いを入れた。
ガラッ
扉を開けて入る。雪はそこで、いつもと違う表情を見せた。それは誰もがホワァと来るように暖かく優しい笑顔。
その笑顔のままに言葉に紡いだ。
「コホン……よしっ。おっはよー!みんなー♪」
クラスの皆は戸惑った様子だったが、その中から光司・彩香・慶太が席を立って、不安そうな雪の眼を見て言った。
「おはよう♪」
パァァ「うんっ、おはよー♪」
それから、割と短い期間で雪は皆と打ち解けるようになり、進級する頃には今のような人間関係が出来上がっていた。
次回へ続く!!
どもども、焔伽 蒼です!
次回からは話を現在に戻します。
ちなみに的場雪篇そのものは、あと2~4話で終わります。




