【第25話『的場雪の過去 前編』】
【5月21日(木)・16時10分『横浜開業学園・本校舎3階空き教室』】
【光司視点⇒雪視点】
光司君達と別れてから、僕は再び3階へ足を運んだ。
先生に呼び出されたと嘘をついたから、職員室の方の東側階段から登ってきたのは良いけど……何だか良心が痛むな。
皆にバレたくなかったとは言え、嘘をついちゃったもんね……自分を偽るのは1年振りだよね。……よく考えると、あれから1年も経ったんだよね。
僕は昔のことを思い返す。
━━━僕が私で、私が始めて光司君と会話した日の事を。
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~1年前~
【5月30日(火)・9時00分『横浜開業学園・本校舎2階1-A』】
【雪視点⇒全体視点】
「はーい、皆さんに嬉しいお知らせがありまーす」
テンション高めで教卓に両手をつく高津先生。昔から1-Aは高津先生が担任である。
すると教卓の前の席である一之瀬光司(16歳)は、手を上げて高津先生の言葉を潰す。
「転校生を紹介します……でしょ?」
「えぇ!?な、なぜそれを一之瀬君が…っ!?」
当時、妹の千晴が入学していなかった為、高津先生は光司の事を一之瀬君と呼んでいた。
ちなみにこの頃から光司は、高津先生の授業をサボる常習犯であった。
「いや、そこに」
光司が戸惑った様子で、高津の真横に人差し指を向ける。
そこで横を見ると少女がいた。開業の制服の上にパーカーを着て、頭から付属の帽子を被っている。
帽子の隙間から見える青白いショートヘアーに、透き通るような蒼白の瞳。見た目も幼さの残る体躯でありながらも、可愛らしい顔と良くマッチしている美少女。
クラスの男子はざわつく。それはそうだろう。この1-Aには可愛い女の子は居れども美少女はいない。
騒ぎたくもなる。これからが大変なんだろうな、と光司は転校生らしき美少女の心配をする。
「っていつの間に入って来たんですか!?」
「高津先生が教室に入った時と同時でしたよ」
光司の右隣の席の彩香が促した。続いて左隣の席に座る慶太が小バカにした感じで笑う。
「友江ちゃん、相変わらず鈍いよね」
「に、鈍くないです!的場さんが気配ないだけです!それと梶間君、私を名前で呼ぶの止めて下さいっ」
「いや、それよりも転校生の名前、先に答えちゃダメでしょ、友江ちゃん」
そこで自分の失態に気付いた高津先生が、転校生の的場に向かってぺこぺこと頭を上げ下げする。
「ああっ、ごめんなさいごめんなさい!せっかくの的場さんの見せ場を~!」
「いや、また言ってるし……的場って」
今度は光司が指摘した。
「あぁっ!?ど、どうしたらいいのでしょう!?」
『俺らに聞くなよ!?』
光司と慶太のダブルツッコミが炸裂し、クラスからは笑い声が溢れた。
「構わない。私は的場雪。宜しく。それで先生?私はどこに座ればいいの?」
転校生に対して少しでも笑ってくれるかな━━━と期待していたクラスの皆は、雪の反応にただ黙り、教室に静寂が満たすことしか出来なかった。
冷たく、無反応。
それが教室での的場雪と言われる美少女の第一印象となった。
【7月10日(金)・12時30分『横浜開業学園・中庭』】
雪が転入してきた2ヶ月近くが経とうとしていた。
最初の1週間はクラスの皆も、雪に話し掛けたり、遊びに誘ったり、連絡先交換しようとしたりしていたのだが、そのどれもを雪は断った。
「話せる事なんてない……」「悪いけど、忙しいから寄り道は出来ない」「携帯は仕事の時にしか見ないから遠慮しておくよ」等と、冷たく断ってきたせいか、転入1週間余りで雪はクラスで孤立した。
構わないでオーラと、冷たい反応から、冷徹な雪女と嫌がらせを含んだあだ名がつけられた。それが2週間めの出来事だ。
光司や九条も良くないとは思いつつも、自業自得感があったので口を出さなかった。
「なあ光司。的場さん、このままで良いのか?」
「良くはないだろうな……的場が何を考えているか分からないけど、態度を改めないことには……」
【11月8日(火)・9時00分『横浜開業学園・本校舎2階1-A』】
間もなく半年が経とうとしていたある日。事件は起きた。
「きゃあ!」
朝のHL、雪が突如として叫び声を上げた。
光司や九条は何かと思い、雪の方に目をやると雪が椅子ごと後ろへ倒れていた。
その歳に雪は軽く後頭部を床にぶつけていて、たんこぶが出来るほどだった。
「大丈夫か!?」
「……大丈夫、いつもの…事だから……」
いつもの事━━━。それは普段雪が受けているいじめの事だ。
孤立しても尚、態度を改めない雪はクラス中から悪口中傷をされていたり、軽くぶたれたりしていたのだ。
その事は光司・彩香・慶太も気付いていて、影で止めるように促していたのだが、止まったのは一部の者のみで全てを止めるには至っていなかった。
そこにきて今回の事件。雪はただ倒れたのではなく、あらかじめ椅子のネジを緩めていて、座ると同時にネジが外れ椅子が崩れるように仕組まれていたのである。
それに気付いた光司は、雪がふらふらしながら保健室へ向かったのを確認すると、ガタンと立ち上がり教卓の方へ歩いていく。
そして、バンッと教卓を両手で叩いた。ビクッとクラスの皆は光司に注目した。
この時、光司はキレていた。今回のはいくらなんでもやりすぎだ。
去り際の雪を見ていれば分かる!軽い脳震盪を起こしている者の動きだった。
当たりどころが悪かったのだろう。
「……誰だ」
クラスの皆は黙る。いま光司が言おうとしている事が何か分かっているのだろう。
分かってるのに答えない。やり過ぎたと思っているのに、知らぬ存ぜぬを決め込む。そこに光司は更に腹を立てる。
空気がピリッとざわつく。
「誰だって聴いてんだよ!雪の椅子に小細工をした奴は!」
いつもと口調の違う光司。それにクラスの皆は驚きつつ、同時に恐怖を感じた。
今の一之瀬の眼を見ていると寒気がする。それが皆の反応だった。
その寒気の原因は光司の殺気だった。無意識の内に殺気が怒りによって現れていたのだ。
「良いじゃねぇか……あんな冷徹女がどうなったって……」
誰かがそう呟いた。その瞬間、黙って他の連中も口々に反論の声をあげる。
「そうだ!あの女がわりぃんだ!」
「最初に無視をしたのはあいつだもんな!」
「私達はただやられたことをやりかえしてるだけよ!」
「お前あいつの味方すんのかよ?」
「サイテー、皆を裏切るの?」
それぞれが吐く罵倒に呆れそうになった。その時、どこからか鉛筆が投げ込まれた。
だが光司には当たらない。それどころか、飛んできた鉛筆を人差し指と中指で白羽取りをしていた。
「……分かった。お前らと話すことは何もないよ」
穏やかに、しかしどこか興味無さ気にクラスの皆の顔を見渡してから、白羽取りした鉛筆を黒板にカッと指した。
光司は教室から出ていった。それを慶太と九条が追って出ていく。
残された皆は、黒板に綺麗に刺さった鉛筆を見て、改めて恐怖感を覚える。
鉛筆が壊れることもなく、黒板にヒビを入れることもなく、ただ綺麗に真っ直ぐと鉛筆は黒板に突き刺さっていたのだ。
どういう角度と力でやったらこうなるのか、それは分からない。……けど、クラスの何人かは今までとは違う感情を抱いていたようだ。
それは、光司が最後に見せた怒ってるのでも、見下しているのでもない、ただ純粋に興味を無くした目……。
それが何よりも怖かった━━━。
次回へ続く!!
昨日の挽回です!今日は投稿できました!
そこで早速なのですが、僕はこれより次の話を創り出すので後書きは終了します。
次の投稿は明日を目指します!




