【第24話『手料理に増す料理無し』】
【5月21日(木)・12時58分『横浜開業学園・本校舎東側非常階段』】
雪の手を引っ張って時計塔から離れていると、突如雪が動きを止めた。
「どうした?」
「あ、うん……ごめんね、なんか足が思ったように動かないみたいで……」
雪の足に注意を向けると、小刻みに震えているのが分かった。
いや、急いで引っ張って来たから気付けなかったけど、雪は足だけではなく手も震えていた。
震えが手を握っている俺の右手を通して伝わってくるんだ。
同時に雪の心境も伝わってきた……。俺は勘違いしていたんだ。五十嵐をフッた時も、こうして俺に手を引っ張られてる時も、いつもと変わらない明るい表情を見せていたから、真の気持ちを見逃していた。
━━━怖かったんだ。自分より一回りも二回りも大きい相手、しかも、それが開業の有名な不良ともなればフるだけで何をされるか分かったもんじゃない。
雪だからこそ表情も変えず、ハッキリと断ることが出来たが、これが普通の女の子なら断りたくても断れないだろう。
俺は雪に対して失礼な事をした━━━だからこそ謝罪をしたい。
「ごめんな……」
「え…え? ど、どうして光司君が謝るのさ。謝らないといけないのは僕なのに……」
俺は重ねて「ごめん」と謝った。
雪を普通とは違う存在と見ていて……。他の人より少し心が強いからって、雪なら大丈夫と変に安心していた。
雪の恐怖心に気付いてあげれなかった。雪も普通の女の子なんだ。不良に絡まれば怖く感じるし、何か哀しい事があれば泣きたくもなる。
ただ雪は、そういった感情を隠すのが上手かっただけなんだ。
今までに何回、雪の気持ちに気付いてあげれなかった?━━━そんな感情が、雪に謝罪をしなければいけないと言う気持ちになる。
「雪、今後もし何かあったら俺を頼ってくれて良いからな? 俺が絶対助けてみせるから」
今までの事を悔いても仕方ない。大事なのはこれからだ。現状の難に悩み、過ぎた事で止まるぐらいなら、今からでも雪を守ってやればいい。大事なのはこれからなんだ。
俺は心にそう誓って、雪の頭にぽんっと右手を置いて、笑顔で撫でてあげた。
「……もう助けられたよ、充分に……」ボソッ
雪が何か言っていたように見えたが聞き取れなかった。
それから、雪の震えが収まるまで談笑してから教室に戻った。
次の授業担当だった高津先生は「こ、光司君が来ました!時間になっても教室に居ないからサボタージュかと思ったのにちゃんと来てくれました!20分の遅刻ですけど来てくれましたぁ♪」と、普段おとなしい性格のハズなのに、やたらとテンション高めで俺に握手を求めてきた。
……もうサボるのはよそう。そう何度目か分からない決意に立った俺だった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【5月21日(木)・15時30分『横浜開業学園・本校舎下駄箱』】
午後の授業も終わった放課後、生徒は部活に行ったり・寄り道したり・帰宅したりとそれぞれ好きな場所に散っていった。
俺も現在帰宅しようと下駄箱で靴に履き替えようとしている所だ。
横には九条と雪がいた。
今日は慶太が天王洲さんの街案内をすると言う事で、またしても俺は孤独な気持ちで帰宅かと思ったけど、今日は意外にも雪が一緒に帰ろうと誘ってくれ、しかも九条も部活が休みで一緒に帰れることになった。
現在は千晴を待っている感じだ。
「空気が湿って来てるね……これは一雨降るかな?」
雪が外を眺めながら呟いた。確かに曇ってきている。しかも、黒く厚い雲だ。
もしかして荒れるんじゃないだろうな……。
そう考えていると千晴がトタタっとかけてくる。
「お兄ちゃん、ごめんね。待たせちゃったかな……?」
「いや、まだ2~3分しか待ってないよ」
「そっかー。よかったよー」
のほほんとした笑顔を見せると、千晴は雪の方へ歩いていき頭をぺこりと下げた。
「雪さん、今日は朝ご飯作ってくれてありがとうございます。すっごく美味しかったです♪」
「いいってことよ。雪さんは料理と光司君で遊ぶのが好きだからね♪」
「流石です」
「ちょっと待とうか?雪の趣味に意義を唱えたい。そして千晴は、なに真面目な顔で感心したように答えているんだ?」
千晴に料理趣味がなくて本当に良かったと思う。
心底安心していると、誰かが俺の袖を引っ張ってくる。
振り向くと九条がいた。顔を赤らめ、何かを小さい声で言っている。
「私も料理得意だよ……」
今度は耳を済ましていたから聞こえた。
何が理由でその発言をしてきたのかよく分からないが、九条の料理か……。
子供の頃、俺が風邪惹いた時に作ってくれたお粥は美味しかったよな~。
でも、あれから一度も口をしたことのなかった九条の手料理……うむ、中々に興味があるな。
久しぶりに食べてみたいな。頼んでみるか。ただ正直に言うのは恥ずかしいから遠回しに……。
「手料理ってのは市販では味会えない美味さがあるからな。雪のような誰かが作る手料理を食べてみたいもんだよ」
「お兄ちゃん、それなら私が━━━」
「と、思ったけどやっぱり料理は自分で作るのが醍醐味だよ。うん。真の味は我が手に有りなのだよ、チハチ~」
「お兄ちゃん?何でいきなり意見をかえるの?特に最後のことば名言っぽく言ってたけど意味わかんないよ。あと何で雪さんと同じような愛称で呼んだの?」
「ただいま一ノ瀬光司は留守にしております。ご用のある方はお諦め下さい」
「一ノ瀬君、それじゃ何のための留守録か分からないよ」
俺と千晴のコントに、九条がもっともな意見を言ってきた。
千晴も雪も苦笑している。
だ、だが、最悪の事態は免れた……!まさか、九条に然り気無く手料理を作って貰おうと要求しようと餌を張ったら、釣れたのが鮪ではなく鮫とは……。
俺は戦々恐々とした。
だけど、鮪は予想外なとこで釣れた。
「一ノ瀬君……自分に酔うのも良いけど、他の人の味も知っといた方がいいよ?」
冗談等ではなく心の底から心配している目だった。
ま、待ってくれ!誤解なんだ!俺はそんなイタい奴ではないんだ!
「だから、今日私が何か作ってあげるね♪」
うぉっ!まぶしっ!?九条の優しい笑顔が眩しいよ!誤解を解こうにも、その優しい笑顔を見たら「ま、いいか……」な気分になってきたよ……!
しかし、誤解を解かないと……だけど、その笑顔は反則だ……。……。……くそ。
「作ってくれるのか。悪いな、助かるよ」
……笑顔には勝てなかった。ついでに言うと、興味もあったから余計に抵抗力は弱まっていたんだ。
と言うわけで、九条が今日の晩御飯を作ってくれることになった。
2日連続で女性に(しかも別々の)ご飯を作ってもらうなんて、普通ならウハウハな事この上ないのだろう。
だけど俺は少し違うんだよな~。雪は親友みたいなものだし、九条も幼なじみだから友達のような感じだ。……いや、九条の場合は家族に近いかもな。昔から一緒だし、よく遊んでたからな~。
「雪ちゃんも来る?ご馳走するよ♪」
「俺の家+食材だがな。だけど、九条の言う通り雪もどうだ?」
「サヤヤンの料理か~。うん、凄く興味あるよ!お邪魔してもいいの?」
「ああ」
「勿論だよー」
俺と千晴はそれぞれ了承した。
「それじゃあ雨降りだす前に帰ろー」
千晴の先導に従い、まだ靴に履き替えていない俺や九条・雪は下駄箱を開けて靴を出す。
俺も九条も靴に履き替えて、上履きを下駄箱に戻すとある事に気付く。
雪が下駄箱を開けたまま、硬直していたんだ。
何か驚いているような、脅えているような普通じゃ見れない表情をしていた。
俺は気になり雪の方へ歩いていくと━━━
「!」
雪はあわてて下駄箱から何かを取り出して、ポケットにしまったような素振りを見せると、再び上履きに履き替えた。
「光司君、サヤヤン、チハチ~、ごめんねー。先に行ってて貰えるかな?私、先生に呼び出しされていたんだったよ」
「そうなのか?待っててもいいんだぞ?」
「大丈夫大丈夫。それに一時間ぐらい掛かるかもだから、待たせるのは悪いよ。雨も降ってきちゃうし」
「そうか……?なら、先に行って待ってるな」
「うん、ありがとね」
そこで俺達は別れた。雪は職員室の方へと行き、俺達は校門へと向かった。
次回へ続く!!
どもども、焔伽 蒼です!
今回は僕が後書きをやります。
ここで本編の補足なのですが、光司と日暮が校舎で戦った際に壊れた窓や壁などですが、生徒会の茜が修復しました。お金の力で。流石は生徒会会計ですね。
さて次回ですが、雪篇の物語が少し進みます。配信は明日の今ぐらいです!
あと感想をくれた読者様、誠にありがとうございます!一人でも多く、見てる人全員を楽しんで貰える様な作品にしていきますので、今後も宜しくお願いします!




