【第20話『的場雪の裏事情』】
【彩香視点⇒千晴視点】
【5月21日(木)・9時00分『横浜開業学園・1-A』】
わたしは思い返していた。
雪さんが開業へ来て間もない頃の話を。
彩香さんが言ってた。
最初、的場雪と言う娘は無口で無感情なクールな女の子だった。
だから転校してきた当日も、色んな生徒から声をかけられてきたけど雪ちゃんは返事をしなかった。
常に上の空な感じで机に肘を置いてボーッとしていた。それは授業中もで、退屈そうにただ話を聞いているだけでノートもかかず教科書すら開かなかった。
だけど成績はいつも学年一位を叩き出し、だれも雪ちゃんに文句は言えなく、それが気に入らなくなったのか先生達や生徒達は次第に雪ちゃんを目の敵にするようになったの。
詳しいことは省くけど、結構酷かったんだよ?あの虐めは……。私達も何人かで止めたんだけど、限界があって……。
そんなある日にね、雪ちゃんがいつも大事そうに着ていたパーカーがビリビリに裂かれる事件が起きたの。
体育の日に先生からキツく言われてパーカーを脱ぐことになったみたいで、多分その間に……。
あれが始めてだったんじゃないかな……。雪ちゃんが泣いたのって。
何でそこまで大事なのかまでは知らないんだけど、それは本当に大切なものだったんだよ。誰も居なくなった放課後で、涙を流して泣いている姿を見たら誰でも分かることだもん。
だけどね、それからだったかな。急に雪ちゃんに対する虐めが止まったの。それもピタリとね……。
私はどうしてだろうと思って、1年生の頃の担任だった高津先生に聞いてみたの。
そうしたら、光司君が朝の職員会議の時に会議室まで乗り込んできて先生達に向かって抗議をしたんだって。
ここからは後から聞いた話なんだけど、生徒にもそれぞれ声をかけて仲裁していき、中には殴りかかってくる人も居たみたいだけど、それでも手を出さず雪ちゃんの虐めをやめろと良い続けたみたいなの……。昔から優しいから、光司君…。
そんな風に雪さんのことを話してくれた彩香さん。だからこそ彩香さんは、雪さんがお兄ちゃんに好意を抱いていると思っているみたいなんだけどー……。
わたしの考えはやっぱ違うかなー。雪さんは確かにお兄ちゃんに好意を持っている。それは間違いないんだけど……あくまで友達━━━親友としての意味が大きい気がするんだよねー。もしくは、私がお兄ちゃんに抱くような……こう頼りになる人?みたいな感じの……。
あぅ~、考えれば考えるほど訳が解らなくなるよ~。
パシッ
「あうっ」
痛い……誰かに叩かれたぁー。
わたしは頭をさすりながら、叩かれた方を見ると高津先生がいた。
高津先生、わたしのクラスの先生でとても優しい人。わたしが大好きな先生。その先生が今にも涙を流しそうな顔をしている。
どうしたんだろう?す、凄く心配だよぅ。わたしに出来ることはないかな!
「一之瀬千晴さん?貴女が私の為に何かをしてくれようとしているのは判ります。顔や手に動きが出てますから」
すごい、さすが先生!私のことをよく見てくれてる!
「ですけどね?貴女は一つ勘違いをしているのよ?分かるかな?」
「?」
わたしは先生の言っている事がよく分からなくて、頭を横に傾けてしまう。
「分からないよね。貴女ほど優しい子なら、分わかっていたらやらないものね。だから教えてあげないとね」
「教えてください、先生」
「そ、その上目遣いにときめいてしまったわよ!じゃ、じゃなくてね!いまLHR中なのよ、だから何かを考えているのは分かるけど少しは私の話を聞いてくれないかしらー!」
せ、先生が涙を浮かべながら注意してきた!
そ、そういえばホームルーム中だったっけ……雪さんの事を考えていたら、すっかり忘れてたよ!
「一之瀬さん兄妹はどうしてもいつもいつも私の話を聞かなかったり、居なくなったり、聞かなかったり、居なくなったりするのよ!どうせするなら他の先生方にもしなさいよー!うわぁーん!」
「え!?あ、ごめんなさ……って、どこに行くんですか?先生ー?」
謝ろうとしたら先生は泣き出して、教室を出ていてしまった。
凄く悪いことをした気がするよぉ~。
わたしは落ち込んだ。そのあとのクラスの皆が妙にわたしと先生に優しかったのを覚えている。
(逃げ出す高津先生も意外だったけど、一之瀬も落ち込んだりするんだなー。今度話し掛けて慰めてあげよう)
━━━そんな風に、人見知りのある千晴が作り出した距離を、いつの間に変なとこでクラスの皆から埋められていた事に気付くのは当分後の話だ━━━
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【千晴視点⇒光司視点】
【5月21日(木)・9時05分『開業学園・2-C』】
俺達はいま厄介な状況に陥っていた。
「なあなあ、的場って光司と付き合ってるの!?」
「言うな!聞くな!朝一緒に登校してきたんだぞ!?答えは決まってるじゃないか……!」
「じゃあじゃあ、ホントに付き合ってるんだ!キャー!意外すぎるわー!」
「うぅ……ひそかに狙ってたのに……僕の初恋さらば……」
「私もよ……。3Kが台無しよ……」
「ん?3Kってなんだ?」
「決まってるじゃない……光司(1K)と慶太(2K)のカプリング(3K)の略よ……」
等とクラスの連中が騒ぎまくっている。
だがちょっと待とうか。騒ぐのはこの際構わない。バレないようにしていたとはいえ、一緒に……しかも自宅から登校していたんだ。
誤解が生まれるのは必然だ……。しかし!俺は聞き逃さなかったぞ!最後の女子!3Kって何だ!?いや、意味も遺憾ながら聞こえてしまったから解ってはいるんだが……!
そこには弁明の余地はあるのか!?いや、あるはずだ!
だが、俺が弁明の言葉を上げるよりも先に、雪がニヤニヤと笑いながら事態を悪化させるような発言をしようとしていた。
そう核心付けるのは、雪が悪戯な笑みを浮かべる時、それは決まって俺に何らかのダメージがある発言を今までしてきたからだ!
しかし、雪の口から出てきた言葉は意外なものだった。
「皆、それは違うよ。私達は付き合ってない。付き合っちゃいけないんだ……」
珍しく雪が誤解を解いてくれた……?
いつものように変わらない笑顔を見せてはいるが、その背中にはどこか寂しげなものを感じる。
俺は少し心配になる……。
その気持ちは皆同じなのだろう。いつも明るく、周りを笑顔にさせてしまうような眩しい存在の雪が、悲しそうな笑顔を見せたのだ。
だからこそ、皆はこれ以上冷やかしたりせず、素直に引き下がってくれる。
……だけど、引っ掛かる。
付き合ってない、付き合っちゃいけない。その言葉にはどういう意味がある?
付き合いたくないとかの否定の言葉なら分かる。
付き合うとは違うと言う否定も肯定もしない言葉でも分かる。
付き合っちゃいけない、それには何か深い理由がある気がした。
「雪……?」
「何かな~!?あ、もしかして、お弁当忘れたとか!?だから今朝ちゃんとカバンに入れなよと警告を促してあげたのに~」
「いや、違うから!ちゃんとカバンに入って━━━はっ!?」
俺は気付いた。
一度は沈静化したクラスのハイエナの瞳に、再び狩りの炎がみなぎって来ていた事に……!
「ま、待て!落ち着くんだ!」
「今朝、カバンに、警告……だと!?」
「そ、それは、同棲言うんじゃないかねねね!」
「もう3Kは一生見れないんだわー!」
俺はもはや誰にもツッコム意思はなく、あるのは逃走本能のみ!
目には目を、歯には歯を、闘争には逃走をだ!
「さらば!」
俺は脱兎の如く教室から飛び出した。
逃げる家庭で階段のとこで涙を流しながら走り去る高津先生の姿が見えたけど……今はそれどころじゃない!
すでにハイエナは3匹追い掛けてきている!
俺は走った。走れ、走れ、走れ光司!
次回へ続く!!
本日2話目の投稿になります!これで昨日の挽回を出来た!と蒼は自分に言い聞かせてみる。
今回は軽く雪の過去に触れましたが、後にちゃんと過去編っぽくしますので楽しみな人はお楽しみにしていて下さい!
さて次回ですが、的場雪篇に大きな動きが!?あるかもしれない!




