【第15話『怒りと苦しみ』】
矢を交わされた……結構本気で射ったのに、時速50km近い矢を初見で交わすなんて簡単に出来ることじゃない。
「容赦ないね、九条さん。顔に当たったら一生残るキズが出来ちゃうじゃないか」
日暮さんの目が細くなると同時に、殺気が飛んでくる。
さっきまでの軽い雰囲気が消えて、敵意のようなものを感じる。
……だけど…ねぇ……!
「私だって怒ってるんだよ!」
私は気力を両腕に込め━━━そして矢に送る!
「!(へぇ、気力を武器に送れるんだ……そんな器用な真似出来るのは茜さんだけかと思っていたんだけどね。やる気が出てくるよ!)」
日暮さんの両手にも気力が込められてきている?
この感じ……さっき一之瀬君に攻撃した飛び技ね!
「烈空掌!」
「気功射ち!」
私の放った矢は風を纏いながら、一方日暮さんは風の塊を放ち、そして2つの攻撃は廊下の中央でぶつかり合う。
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【彩香視点⇒全体視点】
日も暮れてきて、空の星が輝きを見せてくる頃、開業学園3階廊下はすでに酷い状況になっていた。素行の悪い不良グループが通った後よりも酷い。
彩香の気力を纏った矢と、時雨の気力の衝撃波がぶつかり合った時、気力の爆発が起きて側の壁や教室のドアを吹き飛ばしていた。
そして彩香は、ずっと感じていた疑問がある。
日暮さんはなぜ一之瀬君を狙ってきたの?それだけがどうしても分からない。なにかしらの理由があるはず、意味もなく攻撃してくるなんて事は有り得ない。
しかし、その理由が分からず戦いにも完全には集中し切れていなかった。
「教えて……なんで、なんで一之瀬君にあんなことをしたの!」
彩香は叫んだ。もし理由もなしに光司に危害を加えたのだとしたらと考えていたら、不安と怒りの感情が混ざって沸き上がってくる。
「だから言ってるじゃん。合意の上の決闘だって。僕が決闘を申し込んで、一之瀬光司君が受け入れた」
「違う!貴方が一之瀬君に決闘を申し込んだ理由が知りたいのっ」
彩香がいつになく声を荒くしている。普段は大抵の事では怒ったりする人間じゃない為、ここまで人に対して怒鳴るのは何年振りかである。
そして日暮も彩香の言わんとしている事は分かっている。別に守秘義務もない。だから答える事になんだ問題はないんだ。
だけど、彼は答えようにも応えられなかった。
「……理由、ね。 残念だけど僕は応えられないかな」
「……っ」
「そんな怖い顔しないでよ。理由が知りたいなら理事会の奴等に聞きなよ。僕ら“粛正委員会”は統制理事会の直命で動いてるからね、奴等なら必ず理由を知っている筈だよ」
彩香はその言葉を聞いてある事を思い出した。
それは去年開業に入学した時、式で統制理事会の説明を受けた時のことだ。
「統制理事会…開業学園が創られた頃、初代校長“楠原晴明”が設立した組織……」
正直あの時は組織だとか言っていたのは冗談で笑いを取っているものだと思い聞き流していた。
だけど組織というのはちゃんと存在していて、まさか生徒会と理事会が繋がっていたなんて思ってもいなかった。
それに粛正委員会。
これは噂でしか聞いたことがなかったけど……生徒会には裏の顔があって、“粛正”の二文字を掲げ、学園の不穏分子をあらゆる手を使って排除する委員会だと言う。
そこに所属しているメンバー全員が、武術の達人とも…
「噂には尾ひれがつくとは聞いた事があったけど……貴方達の場合は逆の意味だったんだね。……気力使いであった時点でただの達人とは別次元の強さになるもの」
「褒めてくれてるの?うわ、ありがとー♪」
無邪気な笑顔を見せる日暮、普通なら嫌みや馬鹿にしているのかと思うがこの男の場合は違う。
本気で褒められたと感じ、純粋に礼を言っているのである。いや、日暮は最初から本音のみしか話していない。
良く聞こえる言葉も、悪く聞こえる言葉も、その全てが本音で偽りなく本気で思った言葉なのである。
もちろん彩香も薄々気付いてきてはいるが、それ以上に光司に対する不安や日暮に対する怒りの感情が大きく……何よりも光司は自分を守って倒れた。
その事実が止めようもない苦しみとなって襲い掛かって来る。
光司をこんなにした日暮や理事会も許せない。けど、光司は私のためにこんな事になった。それが何よりも許せない!
そんな感情で埋め尽くされて、冷静な判断が出来なくなっていたせいか彩香は矢を射るときに、どこを狙うと言った考えがな出来なくなり、当たれば良い状態になってきていた。
そんな状態の中、彩香は矢を三本取り出し、それを弓に装填した。
(矢を三本取り出した…?)
日暮は彩香の行動について考える。
弓と言うのは一本一本射るもので何本も一気に放てるものではない。
しかし、彩香は違った。
3本の矢を弓の引き金にセットして、日暮に狙いを定める。すると日暮の背筋に冷たい悪寒が走る。
何かを感じた日暮は立ち止まった状態で、両手を前に突きだして構えた。
「柔の構え」
「三対射ち!」
ヒュヒュンと三本の矢は同時に放たれた。
しかもその全てが日暮に当たる軌道で飛んでくる。
(凄い……本当に三本の矢を同時に射った!しかも全て矢に気力が付与されている!)
日暮は二度も連続で強者とやれる喜びにうち震える。
今は矢を交わすことに集中をする。呼吸を整え、こう言った時の為に準備していた両手を円を描くように動かす。
飛んでくる三本の矢の内二本は、左右に弾いた。
そして最後の一本は、上手い具合に矢の後方を弾き、その後に片方の手ですかさず矢の前方部分を押すと、矢は180度半回転して、気力の流れのままに彩香の方へ飛んでいく。
「うそ!?」
矢を弾いただけじゃなく、跳ね返した!?
そんな……!速度に乗っている私の矢をここまで簡単にあしらうなんて!
彩香は心底驚いていた。
「自分で射った矢が攻撃となって帰ってくる……っ」
彩香は矢を一本、弓矢に装填した。
そして跳ね返された矢が1m弱圏内に入った。
「一止射ち!」
彩香の放った矢は、自分に飛んでくる矢の軌道上に乗せた。と矢は空中でかすりあい、自分に向かってくる矢の軌道を変えた。
しかし、完全には矢の軌道がずれなく、彩香の肩をかすり軽いケガを負ってしまう。
「…やるね。まさか飛んでくる軌道と、同じ軌道に矢を乗せて射ち落とすとは、凄い技能だよ(流石は女四武生━━━!?)」
そんな時、日暮が何かに気付いた様子で彩香の後ろを見ていた。
彩香はその日暮の反応が気になり、後ろを見る。
そこには光司の立ち上がった姿があった。
「……九条…」
「一之瀬君!よ、良かったぁ、目が覚めたんだね……」
「……なぁ、九条……」
「ど…どうしたの…?(なに…様子が変…)」
「その肩の傷…どうした?」
「え…?これは…ちょっと……」
「そうか…アイツにやられたんだな…」
光司はポケットからハンカチを取り出して、彩香の肩に巻いた。
そして止血を終えた光司は、日暮の方に歩いていった。
「い、一之瀬……くん?」
「すまん…俺が弱いばかりに、お前を傷付けた」
光司は彩香の肩と顔を交互に見て、歯を噛み締めた。
そして日暮の前まで歩き、立ち止まる。
「なに?今は九条彩香さんと楽しんでいるんだけどな」
「……お前はぶっ潰す!双天手!」
ドォウッ!!と激しい衝撃が日暮の腹部に走る。
光司の0距離からの両手から放たれる気力は、日暮の腹に当たると爆発し、そのまま廊下の角まで吹っ飛ばした。
さっきと状況が逆転していた。
「ぐっ!」
日暮の予測を越えた攻撃と威力に焦りを感じる。しかも、当たり所が悪かったのか口元から血が流れている。
光司はその日暮の元まで再び歩き、見下ろして言った。
「立て…テメェは百篇ぶっ潰す!」
次回へ続く!!
どもども、焔伽 蒼です!
昨日は投稿できなくてすいませんでした。今回は彩香の戦いがメインでした。
心と体両面において戦う彩香ですが、優しすぎるのも大変だと思いますね。光司は何をやっているんだと言う話です。気絶をしているのですが(笑)
そして次回は、日暮戦終了です。




