【第9話『気とサッカー試合 後編』】
まさかのキーパーショットを決めた桐谷だが、慶太も負けじとそのボールと言う名の砲弾を受け止めた。
それにしても桐谷め……。普通キーパーゾーンからのロングシュート決めるか?もはやショットだよ、あれは!
噂に違わぬとはよく言ったものだ。やはり、もっと警戒態勢を上げておくべきだば・・・。
俺は慶太にサインを送る。
こんな時の為に、試合前にあらかじめサインを使った合図を編み出して教えていたんだ。本当に使うことになるとは思わなかったけど。
慶太にサインが通じたみたいで、コクンと頷いていた。
ちなみに今のサインは「ボールを高く蹴りあげろ。俺が決める」だ。蹴り上げられたボールは、空中でシュートを決める予定なのだ!
(光司からサインが来た。あの意味は……“ボールをおもいっきり蹴り飛ばせ。俺を狙って”か。オーケー、何か策があるんだな)
慶太はボールを手から放し、地面につく前に力一杯蹴り放った。
ん?高く上がりすぎるぞ、その溜めは。
ドォッ!と言う轟音と共にボールが超スピンして飛んでくる。
なるほど、直線と見せかけて、スピンを利用して空へ上げるのか!フッ、味な真似を。
しかし、ボールは一向に上昇することなく、真っ直ぐ正面を突っ切ってくる。
しかも心なしか、俺を目掛けて飛んできてる気が━━━━━━
「どぉあっしゃー!」
━━━俺は腰を無理矢理Cの字に曲げて緊急回避を行った。するとボールは俺の服をかする感じで通り過ぎていった。
危ない危ない……やはり、狙いは俺だったか。
しかし、俺の華麗なテクニックにかかれば、あの程度避け……
「じゃねぇ!慶太、貴様なぜ俺を狙った!?」
「光司!なぜ避ける!?そこから反撃の狼煙を上げるんじゃなかったのか!?」
「上げるのは狼煙じゃなくてボールだっ!」
なぜか言い返してくる慶太。しかも引く様子がない。なんで真剣に言い訳してきてるんだ?
「おーい、二人ともー。ボール、外野出ちゃったから蹴り直しみたいだよぉ?」
雪が嘆息混じりに教えてくれた。今はもめてる場合じゃないな!
ボールが再び慶太の足元に戻るのを待ってから、俺は新たにサインを送る。
「今度はややカーブを加えて、横サイドからゴールを狙って桐谷を撹乱しろ」と長めのサインを送る。
それと私的サイン「次ふざけたら殺す」とも付け加える。
ふざけて良い時と悪い時、区別をつけるべきだと思う。
(またサインが来た。何々?“次はややセーフを狙って敵を撹乱しろ?”あと“ふぬけたら転がせ?”ごめん、意味わかんない。セーフにややもくそもないし、ふぬけたら転がせ?腑抜けたボールを放てってことか?うん、敵の前に俺が撹乱されたな)
慶太が何やら動きを止めてしまった。何をしてんだとサインを送ろうとすると、慶太からサインが返ってきた。
“ボールはどの程度腑抜けた感じに殺すんだ?”
ふむふむ、なるほどね。確かに腑抜けな感じに殺すって案外難しそうだな━━━じゃねぇ!
なんでボールを殺すんだ!?しかも腑抜けな感じって!何か恨みがあるの!?
俺は“意味の分からないことを言っていないで、とにかくカーブをさせろ!”と強めなサインを送る。
(俺が“どの程度腑抜けた感じに転がすんだ?”とサインで質問をしたら、“伊豆深海に行ってみたい、とにかくセーフさせて”と返ってきた。おう、伊豆半島の海はそんな深海が凄いのか。俺も行ってみたいな。だけど、今話すことか?まあ良いや、とにかくセーフだな?)
やっと慶太が動き出した。ボールはさっきより弱めに蹴られ、ボールは腑抜けな感じに殺されることなくカーブを描きながら━━━━━━外野と内野の境界線一歩手前で止まった。
周りがまた外野出かよとぶつくさ言っていると、同じチームの吉田がボールを見に行くと「いや、出ていない!セーフだ!」と叫んできた。
そうこうしている内に、敵チームにボールを取られた。
「……」
「……」
「……なあ、光司?お前、何がしたいの?」
ブチィッ「慶太……試合後、貴様を腑抜けな感じに殺ス……!」
「え、何で!?」
俺は慶太を戦力外と見なして、ボールを追い掛ける。
すぐにボールを取り返すことに成功し、桐谷の方へかける。
そしてボールに足を当てた。そのまま気を脚に溜めれるだけ溜めてからおもいっきり放ってやった。
激しい回転とカーブを描きながら、気力を帯びたボールは風を纏い時速100㌔を出して飛んでいく。
「決まれェ!(ゴールネットの左下角すれすれを狙ったシュートだ!)」
だがまたしても桐谷は、そのボールを真っ正面から受け止めた……。
しかも、今回は足で踏み潰すようにだ。
受け止めた際にボールを纏っていた風が、ボフゥと左右に流れたのが見える。
「まさか今のも受け止めれるのか…!?」
驚愕していると、桐谷はフン……と鼻で笑ったように告げてくる。
「武術家と言うから、どんなもんかと期待していたが……何てことはねぇ、ただの常人レベルか」
「なっ!」カチーン
桐谷の挑発的な態度にムカついたのは、俺だけじゃなく、なぜか九条と千晴が不機嫌そうな顔付きで文句を述べだした。
つうか千晴、お前授業どうした?まさか抜け出しか?脱げ出したのか?
「お兄ちゃんを悪く言うな━━!」
「そ、そうだよ!一之瀬君は出来る子なんだからねっ」
「庇ってくれるのは嬉しいが九条、俺を子供あつかいするなっ!そして千晴、授業抜け出して見学しに来てんな!」
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その頃、千晴のクラスでは。
千晴の担任こと高津友江先生があたふたしながら困っていた。
「ちょっとちょっとぉー、一之瀬さんはどこにいったのよぉー!」
「センセー、千晴は兄の試合を見にグラウンドに行きましたー」
いま、高津先生に情報提供をしてくれたのは三ノ宮裕香、千晴の親友だ。
ポニーテールが似合う活発な女の子だが、今は授業中もあって大人しい。
他人に対しては静かでクールな千晴も、裕香とは気軽に話せる数少ない友達である。
「わ、私の授業より、兄の試合を取るなんてあんまりよぉー」
高津先生は授業を投げ出して、泣きながら廊下へ出ていってしまった。
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そんな裏話がある中、俺は桐谷の行動に警戒していた。
俺には分かる。いや、この場においてなら何人か分かってる筈だ。桐谷の両足に凄まじい気力が集中していることに。
「返すぜェ、ボールをよォ!」
桐谷は手に取っていたボールを放し、落ちてきた所を左足で地面を踏み締め、すかさず右足で蹴り飛ばした。
桐谷の足元の地面が破壊され、ボールは超速度で俺達のゴールゾーンへ向かって飛んでいく。
「俺に任せろー!」
その声を上げたのは慶太だ。
慶太は飛んできたボールを、そのまま自らの右足にぶつけ、桐谷と同じように左足に気を集中した状態で地面を踏み込み、そのままボールを蹴り返した。
「なにっ!」
桐谷が驚嘆の声を上げる。
俺はニヤリと笑い、返ってくるボールの軌道上に立ち、身体を足から半回転させ円心力を利用してボールに足を当てた。
「いっけぇー!」
そのままボールの勢いを殺さずに、更に俺の蹴りの力も加えて真っ直ぐに堂々と飛んでいく。
その際、一瞬だがパンッと空気の壁を越える音がし、ボールが消えた。
そして桐谷ですら気付かず、そのボールはゴールネットを突き破り、奥の壁に衝突し破裂していた。
流石の俺も、ここまでの速度に達するとは思ってなく、試合に勝ったと言うのに喜びきれないでいた。
そんな俺の代わりに、外野にいる女性陣が喜んでくれていた。
「は、入った……一之瀬君達の勝ちだよね!」
「お兄ちゃんは強いから当然だもん♪」
「凄いです!私、感激しました!千晴ちゃんの言う通り、光司さんは強いんですね」
「光司君と慶太が変なコントをし出した時はダメかと思ったけどね」
そんな歓声を聞いていたら、俺も嬉しくなって気付いたらチームの皆とハイタッチをしていた。
かくして怒涛の1on1試合は俺達の勝利で終わった。
なお、桐谷は試合が終わるなり、早々とグラウンドから消えていった。
次回へ続く!!
どもども、焔伽蒼です!
昨日の宣言通り、本日投稿しました!僕は安いプライドを守ったのです!ええ!
今回は後編です。試合に決着をつけることが出来ましたが、果たして桐谷は満足しているのか・・・。それとも━━━━━。
次回は生徒会が出てきます。同時に次話で開業学園編は終わりです。次回からは第二章へと入って行きます。それでは。




