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閑話一 悲劇

ちょっぴりグロテスクです。

ちょっぴり過激な言葉をつかいます。

警告タグにもある通り、ほんの少し残酷な描写です

ちょっぴり大人なR15です。

 子供の頃、乳母から寝物語に良く聞かされた話がある。




『昔々、まだ坊ちゃまの曾御爺様ひいおじいさますら生まれてなかった遥か昔。

 平和だったこの魔大陸に『災厄』が現れました。東の海の果てからやってきた災厄は、目にするもの全てを滅ぼします。

 村があれば吹き飛ばし、町があれば焼き払い、城があれば打ち壊しました。


 勇敢な人々や騎士団は災厄を止めようと戦いましたが、全く歯が立たずにみんな滅ぼされてしまいました。

 人々は嘆き悲しみ、いつやって来るか分からない災厄に怯えました。


 そんな人々の姿を見た魔王様はついに自分が災厄と戦うことを決めました。

 魔王様が戦うことを決めると、まだ生き残っていた大陸中の戦える人たちが魔王様の下に集まりました。


 魔王様はその人たちと一緒に災厄と戦いました。

 災厄との戦いは10日間も続き、ついに災厄を魔大陸から追い出せました。

 そして二度と災厄がやって来ないように、魔王様は大陸の周りを魔法の壁で囲いました。


 こうして人々は二度と災厄に怯えることもなく平和に暮らしました。

 めでたし、めでたし』



 

 この話は大陸中で古くから語り継がれている。地域ごとに細部は微妙に異なるが、大筋は同じものである。今では詳しい歴史書は失われてしまったが、恐らく遥か昔本当にあったことなのだろう。話の通り我々の住む魔大陸は周囲をぐるりと障壁で囲まれている。


 子供の頃は『災厄』が恐ろしく、障壁が消えれば再び災厄がやって来るのではないかと怯えたものだ。私は覚えていないが、幼い時の私はこの話を聞くと、乳母の服を掴んで中々放したがらなかったらしい。

 私の初任給により購入したブローチを贈った際、乳母が嬉しさのあまり延々と私の子供時代を語った中で聞けた事だ。


 流石に今はそんなことなどしない。それどころか話半分に聞き流す程度には『災厄』の存在を軽く扱った。

 それは私が特別ということではなく、ほとんどの者達は年を重ねるにつれて『災厄』に抱く恐怖の感情を薄くしていくはずだ。




 しかし『災厄』は突然やってきた。

 

 ある日突然、魔大陸の周囲を囲んでいた障壁が何の前触れもなく消滅すると、突如として空を埋め尽くす大艦隊が大陸の四方から攻め寄せてきたのだ。


 魔大陸の人々は不変の存在と思っていた障壁の消滅に混乱しつつも、攻め寄せる大艦隊を迎え撃った。

 魔大陸を治める魔国の王太子である私も艦隊を率いて戦った。


 魔国の民が一丸となった防衛戦の結果、防衛は成功し、逃げていく艦隊を追撃した。

 そして気づけば守るべき地から遠く離れている辺境まで敵を追っていた。


 それが敵の罠だと気付いたのは、魔都が攻撃を受けているという知らせが届いた時だった。てっきり敵は最初に押し寄せてきた戦力で全てだと思っていた私は、まんまと敵の陽動作戦に引っかかってしまったというわけだ。

 急いで魔都に戻ろうとするも、その都度敵艦隊が邪魔をして我が艦隊を魔都に向かわせなかった。


 そして魔都に戻ることもできず敵艦隊を壊滅させることもできないまま無情にも時が経っていった。

 何度目か数えることすら諦めた敵艦隊との交戦時、ようやく我が艦隊と比べて遥かに少数にも拘わらず互角の戦闘を行っていた敵艦隊の一角を崩すことができた。

 しかし戦闘中突然、敵艦隊が光に包まれて次の瞬間には塵の一つも残さないまま綺麗さっぱり消えて無くなっていた。

 

 何が起きたか分からず混乱したが、これ幸いと魔都に急行した。

 そしてようやく戻ってきた魔都は、目を覆ってしまいたくなるほどの惨状だった。


 魔都の周囲には敵軍と戦ったのだろう魔都防衛軍のなれの果てが打ち捨てられ、堅牢だった城壁も林立する高層建築物群もひしめき合っていた幾多の民家も、魔都に存在していた全てが瓦礫と化していた。魔国最大の都市であった面影など、どこにも感じることができない。

 それら瓦礫の間には軍民老若男女関係なく、夥しい数の死体が積み重なっており、どれほど凄惨せいさんな虐殺が行われたのか想像することすらはばかられる。

 

 季節は夏に近づく今、死体は既に腐敗が進んでおり、堪えがたい腐臭が広大な魔都だった場所を包んでいる。幾人もの兵士が嘔吐し、咽び泣いた。新兵や古参兵の区別なく兵士たちは醜態を晒したが、叱責するものなど存在しなかった。


 僅かな希望を求めて麾下の艦隊に生存者の捜索を命じると、私は護衛を伴って魔王城に向かった。全てが瓦礫になった魔都の中で唯一その外形を留めている魔王城だが、何本もの尖塔が破壊されたり広大な庭園だった場所がクレーターだらけの荒れ地になっていたりと、見るも無残な姿になっていた。


 近衛軍や侍従達の死体で埋め尽くされた城内は、外より一段と酷い腐臭が充満していた。完全に腐敗している死体からは、その人物が誰であったかなど身に着けている品でしか判別できない。


 もしかしたら顔を知っていたかもしれない、話したことがあったかもしれない、親しかったかもしれない人々の死体を踏み越えて城の奥へと向かう。

 城の奥へ進むにつれて破壊跡がひどくなっており、戦闘の激しさを物語っていた。


 途中、私の部屋だった場所の入り口にて見覚えのあるブローチをつけた死体を発見した。


 そしてついに城の最奥、玉座の間に到着する。

 見上げるほど巨大かつ重厚なものだった扉は跡形もなく吹き飛ばされている。

 広大な玉座の間にて天井を支えていた幾本もの巨大な石柱は半数以上がへし折れており、支えを失った一部の天井が崩落していた。


 そして天井まで届くほどの巨大な背凭せもたれを持った玉座に、まるではりつけの様に大剣で玉座ごと貫通されていた死体を見つけた。


 死体が纏うボロボロの赤いマントは魔王である父が身に着けていたものだ。

 死体の傍らに転がっていた長い木の杖は、建国当初から存在する国宝のアーティファクトだった筈。


 私は死体から大剣を引き抜き、地面に降ろしてやると死体の首にかかっていた黒の鍵がついたネックレスを取り上げる。

 代々の魔王が引き継ぐ黒い鍵。

 魔王は戴冠するとこの鍵を使い、玉座の間のさらに奥に隠された扉の中に入る。


 私は巨大な玉座の裏に隠されたこぢんまりとした扉の鍵穴に黒い鍵を差し込んだ。

 鍵を回すとガチャ、と重い音が鳴って鍵が開く。

 中に入ると、予想以上に小さな部屋だった。室内には部屋の中央に設置された台座とその上に乗る水晶玉以外は何も存在していない。


 しかし不思議なことに自分がどのような行動をとれば良いのか、自然と頭に浮かんだ。

 台座の上に乗る水晶玉に片手を乗せ、魔力を流し込む。

 すると頭の中に様々な知識が入り込んできた。



 代々の魔王が溜め込んだ隠し財産の在り処。

 大陸を囲む障壁の正体。

 『災厄』に関する歴史の真実。

 突如襲ってきた敵の正体。



 そして全ての知識を取り込んだ私は、突如侵攻し魔都を滅ぼした彼奴等に報復する方法を考えつくことができた。


 今、私はどんな顔をしているだろうか。

 

 笑っているだろうか。

 泣いているだろうか。

 怒っているだろうか。

 茫然としているだろうか。


 自分の事であるはずなのに何も分からない。


 少なくとも分かっていることは、私はどこか壊れてしまったということだけだ。


 私は今日見た光景を一生涯決して忘れないだろう。

 私は虐殺された人々の事を決して忘れないだろう。

 私は彼奴等がやったことを決して忘れないだろう。


 報復だ。

 報復してやる。

 家族を、臣下を、民草を虐殺した彼奴等を一人残さず屠殺してやる。

 毛髪一本とて彼奴等の存在を許す訳にはいかない。

 彼奴等の文明を、文化を、歴史を……… この世界に存在した証を全て抹消しなければならない。


「殺す、殺す、殺し尽す………

 彼奴等の存在などこの世界にあってはならないのだ。

 彼奴等は滅びねばならないのだ!

 絶滅せねばならないのだ!!

 

 ふふ、ふふふ…………ふはははははははははははは!!

 殺すぞ。

 殺してやる

 この私が!

 魔王国の民が!!

 

 彼奴等を!

 この世界から!!

 根絶やしにしてやるのだ!!!」


ヤンデレの登場です。

デレがあるかは、後々のお楽しみです。

感想、アドバイスいつでも大歓迎です。

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