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第二十話 帰還者とゴシップ

すみません、今回は同性愛的表現が少し発生しちゃいました。

なんかキャラクターが勝手に暴走しちゃったんです。

メインヒロイン(笑)が………メインヒロイン(笑)が…………

 コンクリートで覆われた平野が辺り一面に広がっている。コンクリートの地面には空中からでも識別可能なほど太い白線があちこちに引かれており、巨大なコースを幾つも形成している。

 そのコースからそれた場所には巨大な格納庫が幾棟も軒を連ね、開け放たれたそれらの扉からは翼を持った巨大な爬虫類、つまりは竜の姿が見えた。


 ここはマロマロン空港、領都マロマロンの空の玄関口だ。そして僕たちが今いる場所は、その広大な空港の中でも飛竜便を取り扱っている区画である。

 飛竜便のターミナルである巨大な建物の向こう側には、空中船舶用の埠塔が数えきれない程に林立しているのが見えた。


 対してここ飛竜便区画では、飛竜の離着陸に必要な長大な滑走路しか存在していない。飛竜便の利用客数を考えると、これほどの規模にする必要があったかは疑問に思えてしまうが、もう既に作ってしまったのだから仕方がない。

 いつか飛竜便の乗り心地とコストが安くなることを祈っておこう。


 僕は今日ここに一人で来たわけでは勿論なく、僕の周囲にはシェシュやリセ、アルなどのいつものメンバーに加え、内務卿や軍事卿、外務卿などの時間に余裕のある領政府高官。

 さらには大毬栗帝国商工連盟のギルドマスターであるフェアラートを始めとした、トロンマロン領内に拠点を置いて活動する各ギルドの主な幹部たちが集まっている。


 連れてくる者は選んだはずなのだが、それでもこの場にいる人数は100人を優に超えて300人に届きそうだ。

 それだけの人数の人々が、いや、今日この場に集まることができなかった者たちを考えると、ここにいる人数の数千、数万倍の人々が待っているのだ。


 つい先日、別大陸に飛ばされてしまったと考えられていたプレイヤー達が空中都市ブレイザに到着した。今日はその一部のプレイヤーが飛竜便で先行してマロマロンに帰還するのだ。

 空中都市ブレイザまで迎えに行くことはできないが、せめてもの思いで飛行場まで迎えに来ていた。


 やがて空中都市ブレイザがある方向、北西の空に黒胡椒くろこしょうの様な幾つもの黒い点が見えた。

 黒点はだんだんと大きくなり、翼をゆったりと羽ばたかす竜の形がはっきりと分かるようになる。


 10頭ほどの飛竜たちは着陸すべき滑走路の上空を一旦通り過ぎると、空港の周りを大きく旋回しながらゆっくりと高度を下げていく。

 二周ほど旋回して十分に高度を下げた飛竜から次々と滑走路に降り立つ。その時にはもう羽ばたいておらず、滑空するように翼を目いっぱい広げていた。


 そして危なげなく滑走路に降り立つと、長い滑走路を利用してだんだん勢いを無くしていき、我々の数十m先で余裕をもって全ての飛竜が停止した。

 30mほどもある大きな飛竜の背中に取り付けられた屋根付の席から、次々と乗客が降りてくる。


 彼らは帰還してきた人たちの中でもギルドの幹部などであり、溜まりに溜まった仕事や未解決の案件などを考慮されて、乗り心地が最悪の飛竜便を使い逸早くマロマロンに帰還したのだ。

 飛竜便の席から降りてくる人がいなくなると、帰還者の一団はこちらに向かい進み始め、我々の数m先まで来ると立ち止まった。


 そして一人の男性が一団から歩み出てきた。

 茶髪を短く刈り揃え、彫りが深く渋みのある顔立ちをしている男性だが、それら全てのハードボイルドな要素をホビット族の低身長が台無しにしていた。

 小学校低学年程度の慎重でチマチマとこちらに歩いてくる姿は、見た目が渋い大人なだけにどこかコミカルさを感じてしまう。


 そんなどうしてホビット族にしたのか問い詰めたくなる男性こそが、何を隠そうトロンマロン侯爵領戦闘系ギルドの雄『神聖毬栗騎士団』のギルドマスターであるホビット族の大騎兵TIGER(ティーガー)だ。

 肉体の縮尺が100cm程度まで縮小されてしまうホビット族は基本的に戦闘が不向きなのだが、自身はサポートに徹し騎乗生物が戦闘の主役たる『騎兵』という職業が彼を戦場では万夫無双の戦士に変える――――


 ―――― 訳も無く、彼はそこまで強くない。彼がギルドマスターに就任できたのは、主に彼自身の人格によるものだ。

 ティーガーは僕の前まで来ると、さもそれが当然のように自然な動作で跪いた。それに合わせて彼の後ろで立ち止まっている帰還者たちも一斉に跪く。その動きには一切の乱れが無く、彼らが事前に打ち合わせしてきた事が分かる。


「毬栗侯爵閣下、お久しぶりです。

 神聖毬栗騎士団及びその傘下騎士団、侯爵領ギルド兵団、大毬栗帝国商工会連盟遣魔部隊、ずいぶん遅れましたが帰還致しました」


 歴戦の風格が漂う渋い声でティーガーが帰還の挨拶を述べた。

 その言葉を聞いてようやく彼らが帰って来てくれたのだと実感できた。


「ああ、長旅ご苦労だったな。よくぞ帰って来てくれた。

 我々は君らの帰還を待っていた」


 僕も歓迎の意を告げる。そう、本当によくぞ帰って来てくれた。これでようやく浮足立つ領内のプレイヤー達に重石を置くことができる。

 それに高レベルプレイヤーの帰還は、生産力の増強と市場の活性化に直結する。領内の安定度は政治経済両分野で増すことになるだろう。


「はっ、つきましては侯爵閣下に御頼みしたいことがあります」


 挨拶を終えて早々にティーガーが頼み事を持ちかけてきた。そこはかとなく面倒臭そうな匂いがする。

 だが、彼がこのタイミングで持ちかけるという事は、それだけ緊急かつ重要な要件なのだろう。


「何だね?」


 頼むから面倒な事は言わないでくれ。そう願いながら続きを促した。


「実は今回帰還できたのは一部であり、まだこの地に帰還できていない者は少なくありません。彼らは北東大陸loteria(ロテリア)領港湾都市マガディに集結させております。

 なので閣下には彼らをできる限り早急に回収して頂きたいのです」


 ティーガーは顔を伏せながら、これまた面倒な事をのたまった。

 その言葉により僕の背後で黙って聞き耳を立てていた人々にざわめきが生まれる。

 やはり何事もすべからく順調という訳にはいかないらしい。しかし彼の頼みは、例え頼まれなくともやらねばならない事だ。


 今までは回収しに行きたくても場所の見当がつかず艦隊を派遣できなかったが、今回は回収地点が既に分かっている。

 僕としても回収艦隊を派遣するのに異論はない。


「分かった、最優先で回収させよう」


 僕は即決で彼の要請を受け入れた。後ろに控えている内務卿達もこの必要性は分かっているようで、僕の決断に口を挟もうと言う気配は感じられない。

 回収はなるべく早めに行いたいので、回収艦隊は高速船を中心に組むとしよう。他勢力に襲撃されるようなことは、流石に今の状況ではないとは思うが、飛行モンスターに襲われる可能性は十二分にある。


 護衛戦力としては巡洋戦艦と空母を中心とした機動部隊を編制すれば、速力及び船団護衛能力の面で問題はない筈だ。

 輸送船舶は帰還者が乗って来た輸送船が性能的に問題ない。それに領軍の補給艦と揚陸艦をつけてやれば十分な数になるだろう。足りなければもう一回派遣するだけだ。

 

「はっ、感謝致します」


 僕の了解でようやく彼の肩の荷が下りたのだろうか。礼を言う彼の声は、幾分か穏やかなものに聞こえた。

 この会話をもって儀礼的な挨拶は終了した。空気を読んで待機していた双方の人々が、待ってましたとばかりの勢いでお互いに話し始める。


 会話の内容は久しぶりに会った友人との語り合いだったり、ギルド運営に関わる事務的なものだったりと様々だ。

 僕はというと、内務卿達にプレイヤーの回収を最優先で命じていた。今回の回収作戦は軍が主導になるので、最近軍拡関連のデスクワークばかりだった軍事卿が、久々の艦隊派遣に張り切っていた。


「いがぐ―――」


「アル君!!」


 人々の話し声の中、不意に誰かが僕を呼んだ気がした。しかしその声は突然その場に響いた声によって掻き消される。

 次の瞬間、突然、人混みの中から全身鎧のゴリラが飛び出し、僕の背後でティーガーと談笑していたアルに飛びついた。


 ゴリラに抱き着かれているアルは、突然の事態に驚き困惑している。オロオロしていて何が何なのかうまく把握できていなさそうだ。

 確かこのゴリラは神聖毬栗騎士団の二人いる副ギルドマスターの一人、sechs(ゼクス) = neun(ノイン)だ。長いので親しい人からはゼクスと呼ばれている。見た目通りゴリラ系のビースト族で大騎士職だ。


 名前から分かる通りティーガーと同じくドイツ系の彼は、アルと同じ役職という事もあって二人はそれなりに親しかった記憶がある。

 しかし久しぶりの再会で感激して抱き着くほどの関係ではなかった筈だ。


「え、え、え?

 どうしたんだい、ゼク―――」


 ゼクスに抱き着かれながらも、久しぶりに会った友人を心配するアルだったが、彼の言葉はその途中で強制的に中断させられた。


「―――― んふっ!!?」



 突然、抱き着いていたゼクスがアルの口を塞いだのだ。



 自身の唇によって。




 空気が凍った。




 元々容姿のせいで注目を集めがちな二人だが、ゼクスがすごい勢いでアルに抱き着いたため、二人は周囲の注目を集めていたのだ。

 二人の動向を見守っていた大勢の人間が、ゼクスの行動によって思考停止を余儀なくされた。


 全ての時が止まっている。

 まさにその言葉通りの状況がこの場にて出現した。動いているのは中心にいる二人だけである。

 しかし時が止まっているのはアルも例外ではない。


 周囲の人間と同じく、いや、突如襲った悲劇の当事者であるために彼ら以上の深刻な思考停止に陥っているアルは、ゴリラの熱烈な接吻を硬直したまま受け入れている。

 ゴリラといえどもそれは体全体に生えている剛毛だけであり、それ以外は色黒な普通の人間であるため、彼の外見を正確に表すと、顔だけ露出しているゴリラの着ぐるみを来た男性という表現が正しい。


 しかし接吻は随分と長く続くものだな。それにだんだんと激しいものになっている。

 あっ、今入ってる。ナニが入ってるかとは言わないが、間違いなくアルの中に入ってる。

 これは友人として止めるべきだろうか?

 しかし曲がりなりにも、あれは純粋な好意に見える。友人として、彼に向けられた好意を勝手に妨げるのはどうなのだろうか?


 うぅん、難しい問題だ。正直、アルの僕への度が過ぎる懐き様から、もしかしたらアルにはそちらの気があるのかもしれないと薄々思い始めていたのだ。

 もしかしたら今のアルは満更でもないのかもしれない。いや、しかし、やはり本人への了承無き接吻(濃厚なやつ)はマナー違反ではないだろうか。


「――― ぷはぁ」


 やがてゼクスが十分アルの唇を堪能したのか、満足そうに唇を離した。ゴリラ成分を除けば綺麗な顔立ちをしているゼクスの顔がほんのり赤く色づき、中性的な顔立ちもあって妙な色気を出している。

 しかしゴリラだ。


 ゼクスは愛おしそうに、微動だにしないアルを見つめているが、やがて自分が何をしたのか気づいたようでそれまでの顔色を反転させ、一気に青ざめた…… と思う。ゴリラのせいで色黒なため顔色がいまいち分かり難い。

 何と言うか、正気に戻るのが遅すぎないか?


 彼が正気に戻ったことで周囲も停止していた思考を取り戻し始め、小さなざわめきがそこかしこで聞こえ出す。

 僕の近くにいるリセが、やはりホモだったか、と小さな声で呟いたのは聞き逃すことなぞ出来なかった。


「ぁ、い、いや、これは、ちがうんだ」


 ゼクスが顔を青ざめさせたまま、何とか弁解しようとしている。何がどう違うのかさっぱりだ。僕からは剛速球のストレートでど真ん中を打ち抜いていったようにしか見えなかったが。

 もうどうあがいても無かったことにはできないと思うんだけどな。


 一方のアルは、未だにショックのあまり硬直している。心なしか誰かの唾液でテカっている半開きの口から何かが漏れているようでさえある。

 ショック死してなければ良いのだがね。


「えーと、誤解なんだ。これは、あっと、間違いだったんだ」


 何が誤解で、何が間違いだったのだろうか?

 可能であるならば問い詰めてみたいが、そんな野暮な事はしない。

 ここにきてようやくアルは意識を取り戻したのか、硬直していた表情がだんだんと歪み始める。


「あ、ぁ、ああ、あ、ぁぁぁ」


 アルの変化を見てゼクスの顔面は青を通り越して蒼白になっている。ここまで来ると、いくらゴリラでも顔色の変化が分かりやすい。


「あああ、もう、本当にごめんね!間違いだったんだよ!本当に!」


 ゴリラは必死に言葉を並べてアルに謝罪するが、そんなものは恐らく人生でも有数の悲劇に見舞われているアルには全く届かない。

 これでアルがゴリラ嫌いにならなければ良いのだが。


「ああああああああぁぁぁぁぁっぁっぁぁぁあああああああ!!!」


 そして遂に感情が決壊してしまったアルは、突然、絶望に染まった叫び声をあげるとすごい勢いでどこかに走り去ってしまった。

 あー、これはトラウマになっちゃったかな?


「ああぁぁぁ、待ってぇぇぇぇっぇ」


 ゼクスもアルを追ってドシドシと走り去っていく。その速度差は如何ともしがたいが、愛情補正で何とか追いすがっているようだ。

 その場にいた全員は、だんだんと小さくなっていく彼らの背を無言で見送ることしかできなかった。




 あの後、誰からともかく何事もなかったように話を再開し、場の空気はなんとか戻った。おそらくしばらくの間は先の出来事が領内のホットニュースになることだろう。

 トロンマロン領ご当地ギルドにおいて、二人しかいない副ギルドマスター同士の禁断の愛なんて誰もが食いつくゴシップネタだ。


 それによって様々な不具合も発生すると思うが、それに関してはギルマスに頑張って貰うしかない。僕は小さな巨人に密かなエールを送る。


 がーんばれよぉー

 がーんばれよぉー


 頭を抱えていたティーゲルの小さな体が、一瞬、ビクリッと震えた気がした。



「………… 毬栗さん」


 人混みの中から僕を呼ぶ声が聞こえた。

 『毬栗さん』僕をそう呼ぶ人は一人しかいない。

 彼女と会ったその時からずっとそう呼ばれ続けている。


 さり気無く雰囲気を察した人々が、声の主と僕を結ぶ空間を空ける。本当に彼らは事情を察するのがうまい。

 そうして空けられた空間に彼女はいた。


 腰まで伸びるウェーブのかかった金髪、前髪の両サイドは長く、先の部分がカールしており、特徴的な巻き髪を形成している。

 射抜くような碧眼が目を惹く端正な顔立で、白魚の様に白い肌は、彼女の背に生える純白の翼と頭上の光輪も相まって、何者にも侵しがたい神聖さを醸し出す。


 僕が心の中で密かに『ドリル』と呼んでいて、久しぶりに見る彼女は記憶にある姿よりもやややつれた様に見える。

 目の下には頑張って隠そうとした努力の形跡がみられるものの、それでもしっかりと隈が見えてしまっている。それが今まで彼女が負った苦労だと思うと、胸を締め付けられるような苦しさを覚えた。


「…… いがぐ―――」


「トンマロくーん!」


 彼女が再び僕の名を呼んで、空けられた空間を歩き出そうとした瞬間。今までちょっと離れた場所にいたせいで、こちらの雰囲気を分からなかったフェアラートが突然乱入してきた。

 いきなり話しかけられた僕の視線は、思わず彼女から外れてフェアラートの方に向く。


「トンマロ君、トンマロ君!

 申し訳ないんだけど、帰還した彼らと運営会議をしなきゃいけないから、我々はここらでお先に帰らせてもらうよ!」


 彼がいつもの陽気な調子でそう言うと、彼の後ろにいる商工会幹部らが別れの挨拶をしてきた。

 遠慮がなく馴れ馴れしいギルマスと比べることすら間違っているほど、彼らは礼儀正しく僕に接してくれる。僕としてはどちらでも構わないのだが。


「ああ、はい。分かりました。どうぞどうぞ。

 ただ、仕事をするのも良いですが、しっかりと長旅の疲れを癒してくださいね」


 僕は了承の意を伝えつつも、帰還者の疲れを考慮に入れるよう釘を刺しておく。

 僕の言葉にフェアラートを除く彼らは一度深く礼をし、市街地の方に帰っていった。フェアラートは笑って誤魔化していたので、僕の忠言がどこまで聞き入れられるのかは未知数だ。


 現在僕たちがいるこの空港は、以前派遣艦隊が帰還した空軍基地と同じく城門の外側に設置されている。

 市街地へのアクセスが悪いと不満も出ているが、有事の際、敵軍に空港を占拠されて城門内に大型兵器を大量に空輸されるよりかはマシだ。


 かつての第三次大戦時、その戦法で一つの中核都市が墜ちかけたのだから対策は手を抜けない。

 あの時の悪夢が脳裏にこびりついているのだから仕方がないのだ。


「閣下、やはりフェアラート殿は些か敬意が欠けているのではありませんか?」


 不意にリセがフェアラートの態度に苦言を漏らした。まあ、確かにちょっと舐められてるんじゃないかと思わなくもない。

 だけどあちらは40代のおじさんで、こちらは20代の若造だ。ゲーム内では僕が上位だからって偉ぶる訳にもいかない。


 無論、ティーガーや今は亡き魔王城攻略作戦第二方面艦隊参謀長の様に、向こうがそういう態度を求めるのならば応じるけど、特に何も言ってこないのならば、一般常識に則った態度を取るべきだと思う。

 そう考えると、フェアラートは少し馴れ馴れし過ぎるものの、40過ぎの中年が20前半の若者に対する接し方としてはこんなものだろうと思ってしまう。


 ただ、できればトンマロ君は止めて欲しいのだがね。せめてトロン君かマロン君でお願いしたいところだ。

 トンマロは何か馬鹿にされている響きに感じる。


「私もあの人は何か嫌な感じがします。あの変態眼鏡と同じ感じで気持ち悪いです」


 シェシュも彼に対して嫌な印象を持っているらしい。それよりも彼女の中では、レイナードの呼称は変態眼鏡で固定なんだね。

 この二人が共同戦線を取るのは珍しいので、それだけ彼が嫌われているのだろうか。付き合ってみると陽気で面白い人といった感じなんだけどな。


 まあ、あの頭と体型では女性受けが良くないだろうが。

 それともこの二人は彼の腹の中に隠された逸物を感じ取っているのだろうか?

 うん、別に良いか。何が有ろうと僕の策謀は止められないし、止めるつもりはない。身中の虫はさっさと駆除するに限るのだ。


「毬栗さん!!」







「毬栗さん!!」


 私の大声にあの人がちょっと驚いてしまう。表情の変化はほとんどないが、何となく驚いてるな、って分かる。

 でもしょうがないじゃない。皆さんが私の声に被せてしまうんですもの!

 なんで皆さん、こうもタイミングが悪いのよ!?

 もう少し人を気遣って欲しいわ。


「……おぉ、久しいな、ディーナ」


「……あっ」


 不思議なもので、憤っていた気持ちがこの人の声を聞いた途端に嘘みたいに引いていく。その代りそれとは別の物、胸がいっぱいになって締め付けられるような感じが湧き上がってくる。

 dinaディーナ、それが私のプレイヤーネーム。現実での愛称をそのまま使っている。


「良く帰って来たな、体は大丈夫かね?」


 いつも不機嫌そうにしている彼の表情に、元々の穏やかな雰囲気が少しだけ戻る。

 恐らく私を心配してくれているのだろう。

 そんな彼の心遣いがすごく嬉しい。

 これだけで旅の間ずっと感じていた心身の疲れや苛立ちが全て消えてしまいそう。


 今、口を開いたら何を言い出すのか自分でも分からない。私は何も言えずに彼の瞳を見つめる。

 黒曜石の様に黒い彼の瞳を見ていると思わず吸い込まれていってしまいそうになる。こうして見ていると、元々の優しそうな垂れ目の形跡を見つけて嬉しさを感じた。


 それはまるで古代迷宮でとびっきりの財宝を見つけた時の様な、もしかしたらそれに勝るかもしれない。我ながらあまりのお手軽さに呆れてしまう。

 気づけば私は彼の首に腕を回し、体を預けていた。彼と私の身長は同じくらいなので胸に顔を埋められないのが悔しい。代わりに思いっきり彼の頬に頬ずりする。


「…… 会いたかった」


 思わず声が漏れた。

 でも仕方ない。

 本心なのだから。


「んむぅ、君は相変わらずだな」


 彼はそう言って私の頭を優しくなでてくれた。

 懐けば懐いた分だけ甘くなる。

 これが7年、彼と一緒にいて辿り着いた真理だ。

 彼はこちらが好意を示す分だけ好意で返してくれる、まるで鏡みたいな人。だから私は自分の好意を隠さない。


「もう離さないわ」


 私はそう言って腕に力を込める。あまり籠めすぎると領主の彼にダメージが入ってしまうので、気をつけなくちゃね。

 私がそう思って少しだけ腕の力を緩めた瞬間、無粋な誰かによって彼の体が離されてしまった。


「ディ、ディーナさん!それ以上くっ付いちゃダメです!」


 彼を抱き寄せて私を睨むのは、アルの妹のシェシュだ。相変わらずの美少女ね。

 彼女と会うのも久しぶりだ。今まで彼しか見えてなくて気づかなかったけど、ちょっと見ない間に随分と成長したみたい。


「あらシェシュちゃん、久しぶりに会ったのに随分な挨拶ね。ちょっとくらい甘えさせてくれたって良いじゃない」


 シェシュは私の言葉に返事すらせず、じっとこちらを睨んでいる。

 その様子は前にあった時と明らかに違う。前まではお子様だと思ってたけど、何時の間にやら立派な女になっていたらしい。


 そして彼を抱き寄せるシェシュの後ろで、私達に僅かな敵意を向けているのは英雄ユニットのリセじゃない。以前はNPCで女以前に生物とさえ考えられなかったけど、どうやら彼女も女として目覚めているらしい。

 どうやらちょっと目を離した隙にとんでもない対抗馬が生まれてしまったようだ。

 もう、せっかく私だけが目をつけていたのに!


 私は腹立ちまぎれに、大人しくシェシュに抱き寄せられている彼を睨んだ。


ズキュウウゥン


アル「っ!!?」


フェアラート・ティーガー「や・・・やったッ!!」

フェアラート「さすがゼクト! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!

そこにシビれる! あこがれるゥ!」


ゴリラ「初めての相手は毬栗ではないッ!このゼクトだッ!ーーーッ」


sechs = neun 日本語訳:6=9 …… 69

彼はむっつりで面食いでホモって設定です。

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