第十七話 新興ギルドの交渉
数十人は軽く入れそうな広々とした空間に一目見ただけで高価だと分か調度品が品良く置かれている。
見上げるほど高い天井には巨大なシャンデリアが吊るされており、明かりを発している魔導灯の一つ一つに繊細な装飾が施されている。
床には踝まで埋まってしまうほど長い毛で編まれた分厚い絨毯が一面に敷かれていた。
そんな家主の権勢を全面に出した部屋はトロンマロン城第一応接室であり、現在僕がいる部屋でもある。
そして応接室にいるのだから、もちろん人に会っているということであり、僕のテーブル越しの対面に置かれた部屋の雰囲気に合う三つの豪奢な椅子には、若い三人の男女が座っていた。
彼らは先週起こった領都マロマロン近郊での高レベルモンスターの大集団の討伐において、突出した戦果を挙げたギルドの代表者たちである。
討伐の指揮を執ったリセが提出した報告書を読む限り、彼らのギルド『はみ出し者の止まり木』だけで全体の約二割を討伐したらしい。
そんな功績を挙げられたものだから、こちらとしても特別な褒章を与えなければ体裁に関わってしまう。
当初は金銭で解決しようとしたのだが、先方が受け取りを拒否した挙句、トロンマロン侯爵領の領主、つまり僕との面会を望んできた。
そうして今の状況になった訳だ。
正直に言おう、僕は完全に油断していた。
ギルド『はみ出し者の止まり木』は知名度皆無の新興ギルドであり、ギルドメンバー全員が魔王城攻略作戦不参加とリセから聞いていたので、軽い気持ちで面会の許可を出した。
ちょうどその時はテレビとラジオの普及に関する書類ラッシュだったので、そこまで気が回らなかったというのは言い訳だろう。
いくらギルドメンバーの欠員がなかろうと、何の特徴もない新興ギルドが高レベルモンスターの群れを相手に二割の損耗を削り取れる訳がないのだ。
僕は自分の軽率さをギルドメンバーの一覧を見てからようやく思い知った。その時には既に褒章の件を了承してから数時間が経っていたので後の祭りである。
ギルドマスターがほとんど無名の人物だったので、ギルドメンバーに地雷、それも核地雷級の代物が存在していたなんて完全に盲点だった。
僕はそんな核地雷の一つである目の前の青年を見る。
目元辺りまで乱雑に伸ばされた黒髪、その下の顔は黒縁メガネが特徴的なほんの少し端正な顔立ちだ。
しかしそんな顔立ちも不機嫌そうにムッスリとした表情が台無しにしている。微笑んでいればもう少し取っ付き易い感じなんだがなぁ。
背中からは尋常でないほど目立つフェアリー族特有のキラキラした透明な羽が生えている。
そんな彼は僕と同じ純日本人で、VRMMOセラフィアをβテスト時代からプレイしている最古参プレイヤーの一人、レイナードだ。
彼は戦闘系プレイヤーギルドのランキング2位にして、戦闘系プレイヤーギルドとしてはセラフィア随一の規模を誇る『夜明けの鐘』で参謀役を務めたこともある男だ。
三度の大戦をトップギルドの頭脳として戦い抜いており、幾多の大会戦を勝利に導き、数々の作戦を成功させていた。
それほどの功績を挙げたのだから知名度もまた凄まじいもので、間違いなくセラフィアにおいて最も有名な戦略家の一人である。
第三次大戦終結と共に引退していたとは聞いていたが、なんでそんな大物が僕の領地にいるんだよ………
北東大陸行けよ。
「毬栗候、今回は私どものお願いを聞いて下さりありがとうございます。
私はギルド『はみ出し者の止まり木』のギルドマスターを務めております、レインと申します。私から左に副ギルドマスターのレイナード、付き添いで来て貰ったさくらタソです。
どうぞお見知りおきを下さい」
僕から見てレイナードの左側に座っている女性が丁寧に挨拶を述べた。彼女のお辞儀と同時に他の二人もお辞儀する
黒髪をボブカットにしているダークエルフ族で同じく日本人の彼女がギルドマスターらしい。
普通、ギルドマスターなのだから僕の対面に座るべきだろうに、何故その席をレナードに譲っているのだろうか?
単なるドジッ子か、これがギルド内の力関係なのかは分からないが、面倒臭いのでツッコまない。
「これは丁寧なご挨拶痛み入ります。
既にご存知かとは思いますが、私はこの領地の領主を務めておりますトロンマロンと申します。
巷では毬栗と呼ばれているようなので、どちらの名称で呼んで下さっても構いませんよ」
僕はレインに挨拶を返しつつ、レイナードの右側に座っている少女が気になった。
栗色の髪をポニーテールにしている彼女はこの場にいる誰よりも若々しく、まだ高校生ぐらいかと思われる。
小柄で頭頂部に生えた可愛らしい猫耳が、彼女がビースト族だということを表している。ビースト族は猫系や犬系、はたまた鳥系や魚系など様々な種類に分かれているが、ほとんどの場合は彼女の様に外見から容易に推測できる。
猫耳美少女な彼女の顔はどこかで見た覚えがあるようでならない。
さくらタソという名前も聞いたことがある気がする。
会談中なのであまりジロジロと見る訳にはいかないが、一度気になってしまったものはどうしても気になってしまう。
「……あの、私に何か?」
どうやら彼女を気にしていたことがバレたようで、訝しそうな表情を浮かべられてしまった。
この際だから彼女に直接聞いてしまおうかな。
初っ端から会談の流れを折る形になるが、このまま下らないことに頭を悩ませるより、その方がよっぽど有意義だろう。
「いや、失礼。どうにも君の顔をどこかで見た気がしてね」
僕がそう言うと、彼女は僅かに眉を寄せて不快感を示した。
口説いているとでも思われたのだろうか?
ともかく不快に感じたのならば、とりあえず謝っておいた方が良いだろう。
僕が謝罪しようとする直前、彼女が口を開いた。
「大戦中、指名手配されたことがあるので。
毬栗候が見覚え有るのもそのためでしょう。
指名手配は大戦が終わり次第、取り消されたのでご心配なく」
彼女はぶっきら棒にそう言うと、これ以上何も話したくないと言わんばかりに顔を背けた。
思春期らしい反応だが、ギルドマスターのレインは彼女の態度で僕が怒ったか冷や冷やしているようだ。表情を僅かに引きつらせてこちらの顔色を伺っている。
別にこの程度で怒りはしないよ。子供じゃあるまいし。
「なるほど。恐らく昔、君の手配書でも見たんだろう。いや、すまんね」
僕は苦笑いを浮かべて怒ってませんよアピールを行う。
レインは何故か表情に警戒の色を浮かべた。解せぬ。
しかし指名手配か。その言葉でようやく思い出した。
古参勢力と新興勢力の対立が原因で勃発した第三次大戦中、後方地帯の攪乱によって古参側の兵站に大打撃を与え、古参勢力側から『テロリスト』の二つ名で呼ばれた新興勢力側の英雄の一人。
指名手配における報奨金の歴代ランキング第六位に輝き、最終的な報奨金額は2000億イェン。
セラフィアの歴史に燦然と輝くゲリラ戦のスペシャリストにして、古参勢力側の兵站関係者のトラウマ。
なんてことでしょう、目の前でご機嫌斜めな子猫ちゃんがレイナードと同等の核地雷だったのです。
本当になんてことでしょう、だよ……
どう考えても新興ギルドが持ってちゃいけない戦力だろ。
『テロリスト』とか草食系領主の天敵の一つだろうよ…………
まあ、今はもう僕の領民なんだし別に良いか。
僕の後ろには護衛役のリセがいる。ゲーム時代だったら思考ルーチンを読まれてカモにされてしまうが、今のリセならば『テロリスト』といえどどうなるか分からない。
そんなことよりも彼らが僕に面会を求めた理由だ。
単なるコネ作りだったら良いんだけどなぁ。
「ところであなた達は何故私との面会を望まれたのですか?」
僕がそう尋ねると、レインはここからが本番とばかりに表情を引き締めた。
「はい、もちろん私達は挨拶だけが目的だった訳ではありません。
以後の話は私ではなく、副ギルドマスターのレイナードに代わります」
そう言うとレインはもはや自分の役目は終わったとでも言うように気を緩めてしまった。
やはりこのギルドを実質的に動かしているのは、ギルドマスターのレインではなくレイナードのようだ。
レイナードは会談が始まってからほとんど表情を変えずに僕を観察していた。こちらの全てを観察し、分析しつくすような視線は、大毬栗帝国商工連盟のギルドマスターであるフェアラートと通じるものがある。
しかしフェアラートは粘っこい感じだったが、こちらはただデータを見るような冷徹さを感じる。
どうやらレイナードはやる気満々らしい。
「改めて自己紹介させていただきます。副ギルドマスターのレイナードです。
大戦の講和会議などで何度かお会いしたことがありますが、こうして話すのは初めてですね。
先の大戦ではあの大会戦で大変お世話になりました」
レイナードは事務的な口調で話しているが、最後の先の大戦関連では瞳の奥に僅かだが感情の揺らめきがあった。
どうやら『あの大会戦』とやらは、彼にとって大きな意味を持つものらしい。
『あの大会戦』ってなんだっけ?
先の第三次大戦では、僕は古参寄りの中立な第三勢力という立ち位置だったので、どちらの勢力からも攻め込まれていた。
どの勢力も僕が独占する空中大陸を欲していたので、僕はひたすら領地防衛しつつ、チマチマと領地拡大していたことくらいしか覚えがない。
『あの大会戦』がどの戦いの事を言っているのか、ちっとも見当がつかん。
彼の様子を察すれば、何らかの因縁のようだが心当たりがないのだから仕方ない。
「ええ、そうですね、ははは」
とりあえず適当に相槌を打ち、笑って誤魔化す。
幸いレイナードはこちらの態度をあまり気にした風はなく話を進めた。
「毬栗候につまらない駆け引きは時間の無駄なので単刀直入に言いましょう。
今回のモンスター討伐の功をもって、私どものギルドマスターを閣僚に加えては頂けませんか?」
おぉぅ、いきなりぶっこんできたな。
まだ碌に駆け引きもしてないのに、初手から飛ばし過ぎじゃあないだろうか。
もちろんこの要求は受け入れられるものではない。だからといって無碍もなく却下しては角が立つので、ここはジョークとして処理してしまうのが一番だろう。
僕は遠まわしに断ろうとするが、レイナードは僕が口を開く前に言葉を続ける。
「もちろん候にもメリットはあります。
候もご存知かと思われますが、プレイヤーはNPCに対し不安感情を抱いています。
政府が候を除いて全てNPCという現状のままでは、統治に大きな影響を及ぼすことは候なら重々承知でしょう。
しかしだからと言ってプレイヤーに参政権を与えることはできない筈です。
そんなことをしてしまえば、NPCがどんな反応をするか想像できない」
レイナードはそこまで言って、僕の意思を確かめる様に口をつぐんだ。
これはフェアラートとも話したことだ。やはり同じような性格だから考えることも同じなのだろうか。
僕はここまでの彼の考えを肯定するように頷いて続きを促した。
「ならば完全に参政権を開放するのではなく、限定的に一部のプレイヤーを領政に招き入れれば良い。
これが神聖毬栗騎士団や大毬栗商工連盟の人間ならば、所詮は候の身内という事もあり、領内のプレイヤーはあまり変化を感じることができないでしょう。
しかし私どものギルドから人を招けば、領政の開放をプレイヤー達が実感できるでしょう。
私どもが新興ギルドであること、さらに自分達で言うのもなんですが、ギルドメンバーは知名度の高い人物ばかりと、プロパガンダとしては十分なものがあります」
確かに毬栗騎士団や商工連盟は僕の身内も同然だ。それらから人を募ったところで、領内の他のプレイヤーからは、身内とNPCのみで領政を独占している様にしか見えないだろう。
その点、はみ出し者の止まり木は完全にその他の領民プレイヤー側の存在だ。
ギルドメンバーもレイナードや『テロリスト』を筆頭に知名度の高い人物が揃っている。
大体の場において知名度とは信用と同じ価値がある。
大衆とは全くの無名の人物よりも自分たちが知っている人物の言葉を信じたがるものだ。
「もちろん、私どもが領政に参加するのはあくまでもポーズということで結構です。
私どものギルドマスターは閣僚になっても領政には口出しいたしません。毬栗候の意向に最大限従いますし、候の領政にギルドの全力を挙げて協力します。
私どもとしましては、領政の担い手という立場が欲しいだけです。
どうでしょう、決して悪い話ではありません」
レイナードは言い切ると、僕の返答を待つようにこちらの内心を射抜くように見つめてきた。
ふむ、話だけ聞く限りなら確かにメリットはある。
レイナードや『テロリスト』が積極的にこちらの手駒として仕えてくれるのは、能力だけを見れば人材的には大変嬉しいことだ。
ご当地ギルドの高レベルプレイヤーがゴッソリいなくなっている現状、トップクラスのプレイヤーが手駒になるのは有難い。
あくまでも能力だけを見た場合だが。
正直、『テロリスト』はともかくレイナードは、よほどの信頼を築かない限り持て余すだろう。
立場だけ欲しいとか言っているが、本心はどうだか分からない。一度与えてしまえば、際限なく要求される可能性があるし、与えたものは決して手放さないだろう。
それにレイナード達を領政に参加させれば、他のプレイヤー達も黙ってはいないはずだ。きっと我も我もと言ってくるに違いない。
「なるほど、興味深いお話です。
しかし現状、領政は十分に機能しています。外部からの助力は有難いのですが、必ずしも必要というわけではありません」
僕が取り付く島もなく断ると、その瞬間、レイナードの瞳が僅かな変化を見せた。
それと同時に彼の纏う雰囲気が、それまでは無感情ながらも人間らしさを感じ取れたのが、人間らしさの一切を感じ取れない機械そのものであるかのように変貌した。
どうやら先ほどまでは前哨戦で、本番はここからだったようだ。
さて、もう僕の答えは決まっているのだが、彼はどうやって僕の心を動かすのかね?
「そうですか、では、私どもを協力ギルドとして扱っていただくというのどうですか?」
「協力ギルド?」
「はい、私どものギルドはできる限り毬栗候に協力します。その代り領内の他のギルドよりも上位の、ようはご当地ギルドのような扱いをして頂きたいのです」
ほう、そう来たか。
この話だけ聞くと、こちらのメリットは変わらず、あちらの要求が下がったように思える。
どうせ連絡要員とかなんだかで、政府とのパイプ役兼意見提示係でも作ろうという魂胆だろう。それと協力ギルドと言う肩書を使用した何らかの事業を起こすつもりかな?
僕が後見に就くことを利用した他勢力への介入というのも面白そうだ。
「その場合、具体的にはどうなるのかな?」
「はい、協力体制をとる以上、円滑な連携を可能とするため、こちらの城に一室、私どもの連絡員が滞在できる部屋を用意して頂ければと思います」
ほら来たー。
やっぱりね、やっぱりね、そんなことだろうとは思った。
黒いなー、腹黒いぞー、この糞メガネは。
でもこの提案も断られること前提なんだろうね。
彼からは完全に感情が読み取れなくなったが、僕がこれから言おうとする言葉を始めとした何から何まで予測されきっている感覚がビシバシ感じてしまう。
どうせ特大の隠し玉があるのだろう。
僕が拒否の意を含む言葉を言おうとしたら、予想通り、レイナードが最後の詰めに入った。
「実は私どものギルド、ギルドマスターの趣味で新聞を発行しております。
毬栗領内全土で発行しており、発行部数は週刊400万部もの数を達成しております。
どうでしょう、私どもならば閣下の領政を多くの面でお手伝いできると思うのですが?」
そう言い終わった後の彼のドヤ顔がたまらない。
…………… うん。
ごめん、テレビとラジオの計画がもう実行されちゃったんだよね。
いやぁ、僕がこの領地に帰還した直後に話をもって来られたら危なかったな。
僕はレイナードの提案をあっさり蹴って、レイナードとの交渉は終了した。
交渉終了後、今回の交渉に自信があっただろうレイナードは真っ白に燃え尽きていた。
「いやはや、すみませんね。折角の提案を断ってしまいまして」
僕は最も警戒すべき相手であるレイナードが戦闘不能なのを良いことに、後半の会談を久しぶりに出会った腹黒くない日本人である女性陣二人とのお喋りに費やした。
二人は最初、自分たちの参謀だったレイナードを蹴散らした僕を警戒していたが、日本関連の話題を振っていく内に何とか警戒を解いてくれた。
「いえ、私どもの方こそレイナードが調子に乗ったようで申し訳ないです。
ほら、謝りなさいよ」
ギルドマスターのレインがそう言って母親の様にレイナードをせっつく。
「えっ、あ、す、すみません……」
もう交渉が終わってから大分経ち、帰り際となっても彼の調子は戻っていなかった。
ここまで来ると憐れみを感じてしまう。
彼女たちを見送るために僕が先導して玄関まで歩いていると、廊下の先から偶然シェシュが歩いて来ているのが見えた。
彼女も僕たちにすぐ気付いたようで、僕を見つけるとトコトコと小走りで近づいてくる。
「トロンマロンさん、お話はもう終わったんですか?」
シェシュはこちらにやって来るなりそう尋ねてきた。
彼女の格好は以前お忍びで街を散策した時と同じ軽装の戦闘装束だ。
たぶん庭で戦闘訓練でもしていたのだろう。香水のにおいに混じってうっすらと汗のにおいを感じるので間違いない筈だ。
「………毬栗候、そちらの御嬢さんは?」
突然、それまでカビの生えた布団のように気力を失っていたレイナードが、妙に気合いの入ったキメ顔で聞いてきた。
急な復活に少し驚いてしまったが、聞かれたので答えておく。
「この子は神聖毬栗騎士団副ギルドマスターAR-EJの妹さんで、今は私の方で預かっているんです。シェシュ、こちらはギルドはみ出し者の止まり木のギルマスであるレインさん、副ギルマスのレイナードさん、付き添いのさくらタソさんだ」
僕はシェシュの体をレイナードの方に向けて自己紹介を促す。
シェシュは僕に対する時の様な年相応の少女らしい笑顔から、打って変って他人行儀な微笑みを浮かべる。
「初めましてKERS-EJです。どうぞお見知りおきを」
シェシュは素っ気なく言うと、僕の後ろに隠れてしまった。
そう言えば僕と初めて会った時もこんな感じでアルの背中に隠れていたな。
「シェシュさん、君のお兄さんの事は俺も良く知ってる。彼は素晴らしい戦士だった。
シェシュさんは見たところ、お兄さんと同じ前衛職だね。装備から言って剣士職かな?」
レイナードがすごく生き生きとしている。
今日もっとも輝いているだろう。
シェシュは少し面倒臭そうだ。
「……… 戦乙女です。あとシェシュって呼ばないでくだ―――――」
「戦乙女だって!?
お兄さんの勇者と同じ特殊職じゃないか!」
シェシュの職業を聞いた瞬間、レイナードはシェシュの言葉を遮って驚愕の声を上げた。
特殊職とは、キャラクター設定時に選択できる職業に含まれていない完全に運だけで手に入る職業のことを指す。
特殊職は希少なだけでなく、能力面でも通常の職業の上位互換であり、特殊職のプレイヤーがいれば即座にどこかしらのギルドから誘いが来るほどである。
「シェシュさん、ウチのギルドに来ないか?
ウチのメンバーは皆ベテランだし、ギルドの活動だって手広くやってるよ」
「結構です」
早速レイナードが誘いをかけてくるが、シェシュはけんもほろろに断った。
その後もレイナードはしつこく食い下がっていたが、最終的には僕がシェシュを庇い、女性陣がレイナードを押さえつけることで何とか鎮静化することに成功した。
最後の最後までシェシュに対し執着していたレイナードには女性陣も呆れていたが、彼の雰囲気からして碌でも無いことになる気がするのは、どうか僕の気のせいであって欲しい。




