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第十四話 お忍び観光

「――― 平穏とは素晴らしい」


 久しぶりにベッドで目が覚ますことができた時、僕の口は自然と言葉を紡いでいた。

 夏とは言え、まだ朝は冷える。そんな中、僕の体を優しく包み込むお布団はなんと甘美なのだろうか!

 とてもではないが、起き上がることなぞできはしない。


 幸いにも分厚いカーテンのおかげで朝日が寝室を照らすことは無く、周りはまだ暗いままだ。

 時計を見ていないので正確には朝かどうか分からないのだが、恐らく朝だろう。もしくは昼かもしれない。

 

 デスマーチ明けなので、寝すぎた可能性は十分にある。

 まあ、別に寝すぎても良いだろう。

 なにせ昨日まで頑張ったのだから、それくらいの我儘わがままは許されるはずだ。


 僕は掛布団を目元までかけ直す。

 こうすると体だけでなく顔までも布団の温もりと優しさを堪能することができる。


 嗚呼、なんと幸せ哉。

 目が覚めたばかりであやふやだった意識が、再び深みに墜ちてゆく。

 二度寝である。




「もうお昼ですよー!!!」


 その言葉と共に僕の全身を包みこんでいたお布団が剥がされた。


「……ぅうぅ」


 既にカーテンは開けられているようで、室内は昼間の様に明るく、暗闇に慣れていた僕の視神経をまぶた越しに容赦なく刺激する。

 大切な布団を無残にも剥ぎ取られ、過酷な環境に身を晒してしまった僕は、身を丸めて少しでも自分の安寧を守ろうとした。


「ほーらー、起ーきーてーくーだ―さーいーよーー!!」


 しかし僕の体は容赦なく揺さぶられて、僅かな安寧を根こそぎ毟り取っていく。

 なんという無情。この世に救いは無いのか。


「まあまあ、シェシュさん。そのくらいで……」


 突然、無情な現世に女神が降臨した。

 ああ、なんと優しき声なのだろう……!

 頑張れ女神、魔王の狼藉を止めるのだ!!


「シェシュさん、閣下は昨日まで激務だったのでお疲れなのです。

 今日くらいはゆっくりと――」


「嫌です!!!」


 女神は暴虐な魔王によって呆気なく蹴散らされた。

 この後、僕の捨て身の遅延戦術で数分間、時を稼いだ末、僕は魔王に屈した。

 さらば六日ぶりのベッドよ。




「街に行きませんか?」


 僕が六日ぶりにテーブルでまともな食事をとっていると、僕の向かいの席で紅茶を飲んでいるシェシュがそんなことを言ってきた。

 シェシュの格好は、普段僕の家の中で過ごしている時の様な耐久性皆無の見た目重視なものではなく、オシャレな見た目の中にも薄い装甲や魔術刻印がしっかり付けられている戦闘衣装だ。

 形としては提案しているが、なんとしても僕を連れ出す気は満々である。


「街か……」


 これが転移前なら暗殺が怖くて街なんてオチオチ行けなかったのだが、転移によって領主暗殺の旨味が消えた今、僕が暗殺される確率はかなり低い。

 というかログアウトもできない現状、僕の領都で僕を暗殺するようなお馬鹿さんは中々いないだろう。


 仮に暗殺されても、持ち物を失って英雄神殿に飛ばされるだけだ。

 書類仕事のデスマーチは昨日で終わったので、仕事はそれほど多くないし、これといった予定もない。

 シェシュのお誘いは別に受けても―――


「駄目です」


 僕がシェシュの誘いに乗ろうと考えた瞬間、リセがキッパリと却下した。

 今まで黙って僕の後ろに控えていたリセからの言葉に、シェシュは一瞬目を開いて驚いた。

 普通にしていてもパッチリと大きな青い瞳が見開かれる様はちょっと威嚇している様に見えなくもない。

 しかし次の瞬間には、ムッと不機嫌な表情になる。


「なんでですか。

 トロンマロンさんが今日、暇なのは知ってます。

 別に町くらい行っても良いじゃないですか?」


 お前は引っ込んでろ!

 リセに向けるシェシュの視線が声なき言葉をそう告げていた。

 だがリセは一歩も引かない。


「駄目です、危険です。

 プレイヤーの皆様が持つ不死性に関しては存じておりますが、誘拐される危険もあります。

 街に出るにしても、綿密な下見や人員の配置などが必要です。

 一週間後…… いえ、せめて三日後にして貰えませんか?」


 リセはひたすら僕の身を案じていた。

 彼女にここまで言われては、僕もシェシュの肩を持つことはできない。

 実のところ、現実となった自分で手掛けた街に行きたい気持ちはあったのだが。

 まあ、十分な準備が出来たら行けるらしいので、今日のところは副官の意を汲んで妹分に我慢して貰うことにしよう。


 僕がチラリとシェシュに目を向けると、彼女は、それはそれはあくどい表情を浮かべていた。

 元は凄まじい美少女であるのだが、表情の端々からゲスさが滲み出ている。


「誰が領主として街に出向くと言いましたか?」


 そう言うと彼女は自分の考えをたのしげに語ってみせた。







「――― うーん、久しぶりの街です!」


 シェシュは久々の外出が嬉しいのか、楽しそうに体を揺らす。

 体を揺らすたびに、腰に差している細剣がカチャカチャと金属特有の音を鳴らした。

 そこまで大きな音ではなく、街中であれば雑音によってかき消されてしまうような音だったが、今いる場所は僕の家の周囲にある公園だ。

 しかも公園内にある林の中なので、ここが領都の中心地であることを忘れてしまいそうなほど静かな場所である。

 

「全く…… こんな事をしてまで街に出たというのに、暢気なものです!」


 シェシュの狡猾な弁舌に丸めこまれて結局街に行くことを許したリセが、ブツブツと文句を言いながら隠し通路の入り口を閉じている。

 僕は魔法で大岩を動かしているリセを後目しりめに自分の格好を改めて見直してみる。


 軽量化と体温調節の魔術刻印が刻まれた全身鎧、腰には西洋剣を一本差しており、肩からは脹脛あたりまで覆う紺色のマントが伸びている。

 どこから見てもそこら辺にいる中堅どころの前衛職プレイヤーにしか見えない。

 

 しかし実はこの全身鎧、鉄鋼の10倍の硬度を持つアダマンタイト製である。機械的強度が鉄鋼よりも圧倒的に優れるアダマンタイトは、物理防御素材として極めて優秀である。

 グラム単価1万イェンのアダマンタイトで作られたこの鎧のお値段、な、なんと7億イェン。


 一般プレイヤーがこの鎧を買おうとするならば、各職業のランキングで10万位以内に入る上位陣ですら一週間働き詰の日々を送ることになるだろう。

 マントの方も一見普通の物に見えるが、対魔術や魔導障壁の魔術刻印がビッシリと刻み込まれており、駆逐艦の砲撃くらいならば凌げる気がする。

 そして剣の方は、そこら辺にいた近衛兵から借りたトロンマロン領軍の支給品である。

 近衛兵用なので、そこそこ良い物だ。


「領主として堂々と街に出るから狙われるんです。

 一般人に変装してお忍びで行けば大丈夫ですよー」


 要約するとそんなことを言ったシェシュの言葉通り、僕は一般プレイヤーに変装し、趣味で作っておいた隠し通路を使って家を抜け出した。

 侍女には夕食はいらないと言っておいたので、そこそこの時間まで街を楽しめるだろう。

 僕は街の散策を楽しみにしつつ、テンションの高いシェシュと未だに文句を言っているリセを連れて林から出た。


 林から出て視界が開けると、広々とした公園の向こう側に巨大な摩天楼の群れが聳え立つ光景が広がっていた。

 高さ数百mのビルが何十棟もズラリと並んでおり、ここが大都会の中心であることを否応なく感じさせてくれる。


「うわぁ、やっぱり都会ですねー」


 シェシュが目の前のビル群を見て少し気圧されたように言った。

 彼女は何だかんだで箱入りのお嬢様だ。兄であるアルの話では現実でもそうだったらしいので、都会にはあまり慣れていないのだろう。

 一方リセの方は、流石年の功と言うべきか。視界を覆い尽くさんばかりの高層建造物の群れを眺めて、やはり閣下のお力は偉大です、とこの街を作った僕をドヤ顔で称賛している。


 いつまでもこの光景を眺めている訳にはいかないので、僕たちはさっさと気持ちを入れ替えて地下鉄の駅を目指して歩き始めた。

 チラリと後ろを振り返ると、僕の家がその存在を強烈に主張していた。

 ここから家までは数百mの距離があるのだが、それほど離れても視界に収まりきらないほど巨大だ。


 ウチを見た後もう一度ビル群を見ると、ちょっとばかし物足りない気分になる。

 うん、仕方ないね。

 僕は公園内の雰囲気を楽しみながら、舗装されたコースに沿って歩いていく。


 数十分ほど歩くとようやく地下鉄の駅を見つけた。

 地下鉄は公園の出入り口付近に隣接してあり、目の前には大きな道路が通っている。

 道路には数えきれないほどの馬車が、時速60㎞ほどで走っており、そのスピードと背景のビル群さえ無視すれば19世紀っぽい光景だ。


 科学の代わりに魔法が発達したこの世界では、エンジン技術が欠落しており、自動車は開発されていない。

 空中船の機関である魔導機関は存在しているが、現状の技術では小型化ができず、魔導機関を使用した乗り物は最低でも全長40mほどの大きさになってしまう。

 そんなものは一般道では走れない。


 強化魔術や魔導具で馬を強化し、馬車の能力を強化していく形で現状の光景に行きついた。

 ゲーム開始当初は地球の馬車と何の違いもなかったのだが、だんだんと魔導具や魔術の技術も向上して、年月の経過と共に馬車の能力も強化されていった。

 今では大抵の馬車は時速80㎞までなら軽々と出し、1000㎞の道を休みなしで走破可能と言う馬車と言う名の何かとなっている。

 

 馬の糞尿問題もとっくの昔に解決済みであり、馬の発育中に特殊な魔導具による調教を行うことで決まった場所でしか排泄しないように教え込まれている。

 まあ、我慢できずに漏らしちゃった時用に、馬車には糞尿の掃除機能もついているので心配はいらない。


 そしてこれから僕たちが乗る地下鉄だが、これは魔導機関で動く車両であり、全長50m、全幅全高共に10mほどの車両が何両も連結していて、大きさを無視すれば電車の様なものだ。

 実は僕、この地下鉄と言う乗り物は初体験である。

 現実でもゲームの中でも地下鉄なんて一度も乗ったことがなかった。


 僕が地下鉄のホームへと繋がる階段を下りていると、僕のマントが誰かに掴まれた。

 そちらを見てみるとシェシュがおずおずと自信なさげにはにかんでいる。


「実は私、地下鉄って乗ったことないんです」


 お前もか。

 頼りにしてますよ、と言うシェシュに微妙な顔をしつつリセに目を向ける。


「わ、わ、わ、私も初めてです」


 リセはド田舎からいきなり大都会に出てきたかのように、人生初の駅にテンパっていた。

 僕にはぐれずついてくるので一杯一杯といった様子だ。

 駄目だ、こいつら完全に使い物にならない。


 結局、駅員さんに何から何まで教えてもらって人生初の地下鉄をすんなり乗り切ることができた。まさに人に聞くは一時の恥、聞かずは一生の恥である。

 地下鉄の駅は構造が少々複雑だが、普通の駅と似たようなものだった。

 切符を買って改札を通って電車に乗るだけだ。まあ、シェシュとリセは電車に乗るのも初めてだったらしいのでしきりに感心していたが。


 地下鉄の車両内は、4階建て構造なだけで普通の電車と同じような感じだ。一部の車両がジャイアント族用に、階数を減らして天井が高く作られていたことはこの世界らしいものだった。


 地下鉄に乗って向かったのは、様々な商店が軒を連ねる区画だ。

 到着した地下鉄駅を出ると、早速目の前にアーケードが作られており、大勢の人が行きかって大変活気があった。

 アーケードに入っていないにもかかわらず、駅を出た途端にその熱気が感じ取れるほどである。


「さあ、今日は遊んじゃいますよ!」


 シェシュは僕の手を握ると今にも走り出しそうな勢いでアーケードに向かっていく。

 僕の手を掴んでいる手とは反対側の手は、リセの手を掴んでおり、何だかんだ二人の仲は悪くないようでほっと安心する。


 アーケードには、女の子に人気そうな可愛らしいアクセサリーショップや、威勢の良い中年男性が客引きしながら料理を作る食べ歩き用のお店など、雑多な商店が軒を連ねていた。

 アーケードの通りは20m程もあってとても広いのだが、通行人の数も大分多いので、ちょっと混んでいる様に感じてしまう。


 しかしそんな大勢の通行人がシェシュとリセを必ずチラ見しているのは面白い。

 男性はチラ見どころか凝視している人が大半なのは、男なので仕方ないと言える。

 比較的美人の多い北西大陸だが、シェシュやリセ程の美人となると滅多な事ではお目にかかることができない。


 これほどの美人の近くを通りがかった男性諸氏が、ついつい二度見、三度見してしまうのは仕方ないことだし、そんな彼女らと共にいる僕に不穏な視線を向けるのは致し方ない。

 僕だって立場が逆になれば同様の行動をとってしまうだろう。

 だからリセ、お願いだから背中に背負う杖に手をかけるのは止めて欲しいです。

 

 僕は何とかリセの警戒心を解きほぐしている間にも、シェシュは僕とリセの手を掴んだままあっちに行ったりこっちに行ったり忙しない。

 彼女は大勢の人々から受ける視線を、さも当然のように受け流しており、自分の容姿に関して十分に自覚しているようである。

 リセは僕に向けられる視線にばかり集中しており、自分への視線などガン無視だった。

 

 とりあえずただ見て回るのも詰まらないし、小腹も空いたので適当なお店で食べ歩き用の食べ物を買って、食べながら歩くことにした。

 お嬢様育ちのシェシュとリセからはお行儀が悪いと苦言を貰ってしまったが、女の子との食べ歩きがちょっとした夢だったんだし良いじゃないか。


 僕たちはメキシコ料理のタコスみたいに、クレープとパンの中間みたいな生地で野菜と肉を巻いた食べ物を売っている売店に並んだ。

 そこそこ人気らしく10人程度がならんでいるが、料理、会計、客引きなど一人で全てをこなしているオジサンの手際が良いのか、あっという間に客が捌かれていき僕らの番になる。


「こりゃたまげた、随分な別嬪さんを連れてるじゃないかお兄さん!

 しかも二人も!!」


 それまでお客さんの相手をしつつも決して料理をする手を止めなかった店主のオジサンが、シェシュとリセを見て思わず手を止めてそんなことを言ってきた。


「ははは、3つお願いしますね」


 僕はオジサンの言葉を笑いながら流して注文をする。

 オジサンはあいよ、と料理を作り始めるが、視線はこちらを向いたままだ。


「お兄さんたちこの街は初めてかい?

 こんな別嬪さん、一度見たら忘れられんし初めてだよな!?」


 領主だよ。

 自信満々に言ってくるオジサンにそう言ってやりたい気持ちになったが、グッとこらえて苦笑いをする。


「ええ、今日は観光でこの街を見て回ろうと思っているんです」


 僕がそう答えるとオジサンはニヤリと笑った。


「そりゃあ良い!

 ここはスゲェ所だぞ。なんせこの大陸で一番の大都会だ!!

 大陸で一番豊かで一番安全で一番スゲェ領地の領都なんだぜ。

 

 政治経済軍事に産業、なんでもここが中心だ!

 そしてこの街のど真ん中に聳え立つ馬鹿デケェ城には、なんと、あの、毬栗候が、おられるんだぜぇ!!?」


 オジサンはすごい勢いで故郷自慢をし始めた。

 要所要所で領主をワッショイしているあたり、このオジサンは僕のことが大好きなんだろう。

 領民にこれほど好かれるのは素直に嬉しいのだが、少し照れてしまう。

 リセは自分の主君が褒められてご満悦のようで、オジサンの話に頷きながら嬉しそうに聞き入っている。

 シェシュは飽きたのか、僕の手を好き勝手に動かして遊んでいた。

 聞いてやれよ。


 そうしている間に料理は出来上がり、代金を払って店を後にする。

 オジサンは最後まで故郷自慢をノンストップで話し続けていた。

 代金は3人分で2100イェンだったのだが、きりの良い2000イェンにまけてくれた。

 シェシュとリセの力は偉大である。もしかしたら最初から最後まで喋り通してしまったお詫びも入っているかもしれないけども。


 オジサンの店を後にした僕らは、アーケードの両側を行ったり来たりしながら彼方此方の商店を見たり、時には商品を買ったりしながら観光を楽しんだ。

 生産職プレイヤーによる魔導具店では、実用性皆無の完全に趣味で作ったヘンテコ魔導具に興味を惹かれたり、ペットショップでバジリスクの幼体を構ったりと大分楽しめた。

 途中、僕らと同じく観光と思われるプレイヤーらしき人物が、店主と言い争いをしているちょっとしたアクシデントもあったが、そんなことは直ぐ気にならなくなるほどだ。


 こうして自分自身で街を散策し、領民と触れ合って分かったことだが、領民はプレイヤーやNPCの区別なくこの地を故郷と思っているし、愛着も持っている。

 そして予想以上に領主である僕を信頼しているし、敬愛というような感情を持ってくれている。


 ゲーム時代は領民の忠誠度など数値でチェックするだけであり、領民とは数値で表されるものだったが、こうして領民と触れ合っていると、彼らの生き生きとした活力が伝わってくる。

 シェシュに誘われた時は、自分が作り上げた街の様子を直接見てみたいと思っていただけだった。


 しかし今は、街は勿論、そこで暮らしている領民達のことももっともっと見てみたいと感じている。

 思えば、今までは数値で表されるハード面を重視しすぎて、数値では表現できないソフト面にはそれほど目を向けていなかったのかもしれない。

 

 いやはや、βテスト時代からプレイし続けている最古参領主プレイヤーとして、ベテランのつもりだったのだが、まだまだ精進が足りなかったようだ。

 今回、それが自覚できただけでも大収穫である。


 帰りの道中、隠し通路の出入り口がある公園を歩いていると、僕の隣に並んで歩いているシェシュが僕に寄りかかりながら話しかけてきた。

 

「ふふ、どうでしたか。

 自分の領民と直接触れ合うのも良いものだったでしょう?」


 シェシュは穏やかに微笑む。


「トロンマロンさん、今まで自分の街を自由に歩き回ったことなかったじゃないですか。

 だから今日、トロンマロンさんが自由に自分の街を見て回って色んな人たちと触れ合えば、トロンマロンさんのやりたいことが、もっと素敵になるんじゃないかなって思ったんです」


 シェシュは僕の肩に体を摺り寄せながら、今日の観光の本当の目的を明かした。


「来てよかったでしょう?」


「………そうだね。ああ、本当に来てよかったよ」


 僕の答えに、シェシュは満足そうにそれは何よりです、と言って僕の腕に抱きついた。

 それきり彼女は何も話さず、気分良さげに時折鼻歌を歌いながら帰り道を歩いた。

 僕とシェシュもそれぞれ今日の出来事と自分が感じたことを振り返りながら、無言で帰り道を歩いて行った。


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