プロローグ
小説書いてみました。
よろしくお願いします。
『ワールドクエスト:魔王討伐 達成』
重厚かつ盛大なファンファーレと共にその文字が前方の空間に出現した。
奇しくも敵艦隊の全力攻勢により艦隊の前衛右翼が崩壊するのと同時であった。
その場にいる全員の目の前にその文字が現れていることだろう。条件反射のようにチラリと辺りをうかがうと、各々が目の前の虚空を呆けた顔で見つめている。
一瞬の静寂。
先ほどまで場を包んでいた喧騒がパタリと止んでいた。
幾層もの装甲板越しに聞こえていた連続する砲火の音が、瞬く間に散発的なものとなっていく。
『ウオオオオォォォオォオオォォォオオオオ』
そして、怒涛の如き歓喜の雄叫びがCIC ( Combat Information Center : 戦闘情報指揮所 )に轟いた。艦内の至る所からも同様の雄叫びが上がっており、地響きの如く空間を揺らしている。
敵の砲火が突然集中したことにより、それまで機動防御に努めていた艦隊の前衛右翼が次々と墜ちてゆく様を直前までみせられていただけに、その文字がもたらす感激は一入だったのだろう。
それまでは、悲鳴のような被害報告しか発しなかった通信機からも歓喜の雄叫びが漏れ聞こえてくる。その雄叫びはこの艦だけでなく艦隊全体からあがっており、まるで世界が喜びに沸いているかのような錯覚を与える。
戦場の敵味方の位置が投影されている三次元レーダー図を見ると、それまで怒涛の勢いで我が艦隊の前衛右翼を蹂躙していた敵艦隊が、完全に停止している。クエストの説明に書いてあった通り、クエストにおける敵はクエスト達成と共に戦闘を中止したようだ。
もしクエスト説明時にその通達がなければ、誰も陽動役なんてやりたがらず、クエスト達成は絶望的だっただろう。
気づけばレーダー図に示される敵を表す赤いマーカーがポツポツと消えていっている。恐らく艦隊前衛あたりが、今までの仕返しとばかりに機能停止した敵艦を攻撃しているのだろう。
現実社会でやれば捕虜虐殺で国際問題だが……… まあ、この世界ならば良いだろう。今から敵艦を撃沈したところで何も変わらず、全くもって弾薬の無駄でしかないが、それで気が晴れるのならば何よりである。
「………… ふむ」
周囲で幕僚やオペレーターが喜び、舞い上がっている中、僕は未だ赤いマーカーが消え続けているレーダーから視線を外して自分の席にゆっくりと腰を下ろした。
思えば艦隊の被害が増え始めてきた戦闘の中盤以降は、柄にもなく興奮していたこともあってひたすら立って指揮をしていた。身体に一定以上の疲労を感じることはこの世界ではありえないが、精神的な疲労は思った以上のものだったのだろう。
ほぅ、と息をついてようやく肩の荷を下ろすことができた。そしてこの時になって初めて実感がわいたのだ。
「勝ったんだな、我々は」
自分で言葉に出し、自覚すると、沸々と心の奥底から湧き上がるものを感じた。
周囲では未だに雄叫びが鳴りやまないでいる。
この場で自分が混ざっても誰も気が付かないはずだ。
本来ならばこの世界でも、現実でも、自分のキャラではないのだが、たまには良いだろう。
「ウオオオオォォォォォオオオオ」
僕は勢いよく席から立ち上がって、隣の参謀長に負けないように勝利の雄叫びを挙げた。
その瞬間
世界は白い光に包まれ
僕の意識は艦隊と共に消失していった
「えぇぇぇぇ―――」
意識を持っていかれる間際に聞こえた声は一体誰のものだったのだろうか……
短いプロローグですみません。
次から少し長めに書きます。
感想、アドバイス、批評いつでも大歓迎です。
特に表現技法に関するアドバイスはとてもありがたいです。
もちろんその他のアドバイスや感想もとても嬉しいです(*´ω`*)
CIC:軍用艦艇に設置されている戦闘情報が集約されている部屋。指揮や各部署への発令もここから行う。つまりはその軍艦の頭脳となる場所。艦隊旗艦の場合は艦隊の指揮もここで出来る。