贅沢王女の婚約強要を頑なに拒否し続けた結果、レドル公爵家に婿入りして王族をネズミに変えてもらいました
ロイス・ハルド公爵令息は今日もため息をつく。
金の髪に青い瞳の彼はそれは美しい男性だ。
歳は25歳。
いまだに結婚していない。
何故なら、リーディア王女に執着されていて、今まで出た婚約話はことごとく粉砕されてきた。
ふくよかなリーディア王女は20歳。
ふくよかなのはともかく、贅沢好きのリーディア王女。
誰も婚約を結びたがらなかった。
リーディア王女はそもそも、何年も前からロイスに執着していたのだ。
だから、何回もリーディア王女から婚約の申し込みがあった。
ことごとく断って来た。
「我が公爵領はとてもではないが、王女様を受け入れるだけの余裕はありませんので」
王命だと言われても頑として断って来た。
「王命と言われるならば、武力でお心を示すまでです」
父を通じでではなく、ロイス自身がはっきりと王宮に行って断ったのだ。
リーディア王女は頬を染めて、
「本当に恥ずかしがり屋なのね。わたくし、あきらめませんわ。貴方の恥ずかしがり屋の心を開いてみせますわ」
国王陛下も、
「娘はひたすら其方を思っている。どうか貰ってやってくれまいか?」
「お断りします。とてもではないですが、王女様を養うだけの財力はありません」
何回、このやりとりを繰り返しただろう。
だいたい、この王女、贅沢好きなのだ。
ドレスを何回新調しているんだ?夜会でダンスを踊ったところは見たことがない。
見れば何かしら食べているからだ。
ロイス自身が婚約を令嬢と結ぼうとすると、上手く行かず結局、相手が断ってくるのだ。
「王女様に脅されました。社交界で居場所はなくなると。申し訳ないですが」
何回、断られたであろう。
自分は美男だ。輝く程の美男だ。
それなのに、いまだ結婚していない。
王立学園時代の同級生は皆、結婚しているぞ。
子までいるぞ。
そんな中、一人の公爵令嬢がベルンドン第二王子を婚約破棄したという事を聞いた。
ベルンドン第二王子はとても美男だ。リーディア王女と腹違いの兄だが、金髪碧眼の美男で夜会で色々な令嬢達と踊ったりしている。
浮気をしているという噂も聞いた。
だから、相手の令嬢側が婚約破棄をしたのだろう。
確か相手の令嬢は、クラウディーナ・レドル公爵令嬢。
夜会でベルンドン第二王子にエスコートされて姿を見かけるが、銀の髪に青い瞳の凛とした令嬢だ。
歳は18歳。王立学園での成績はトップで卒業したと聞いている。
婚約破棄?それならばチャンスだ。
クラウディーナと婚約を結んでみせる。
いや、クラウディーナと結婚だ。
あの女に邪魔されないうちに早急に結婚する。
そうしたらあの女はどうする事も出来ないはずだ。
早馬を飛ばして、王都にあるというレドル公爵家の屋敷へ向かった。
ロイスも今、王都に滞在しているから、あまり時間がかからず、レドル公爵家についた。
門番に、
「私はロイス。ハルド公爵家の嫡男だ。クラウディーナ嬢と、レドル公爵夫妻はいらっしゃるかな?領地に行っていたならば、そちらへ馬を飛ばして行きたい」
門番は慌てて、
「いらっしゃいます。お待ちくださいませ」
会ってくれるという。
客間に通されれば、クラウディーナが現れた。
「用件はまずわたくしが聞きます」
メイドがお茶と菓子を持って来る。
ロイスはクラウディーナの正面に腰かけて。
「私と結婚して欲しい。いますぐに」
「何事ですの?わたくしは婚約破棄をしたばかりですの。それをいきなり?わたくし貴方の事は少ししか知りませんわ。ロイス様。ハルド公爵家のご子息でしたわね」
「嫡男です。私がハルド公爵になります。貴方なら私の妻にふさわしい。王家を相手に婚約破棄したとの事。私はリーディア王女に付き纏われて、今まで結婚出来ませんでした。私は結婚したい。ともかく結婚したい。あの女から解放されたいのです。貴方なら文句なしに私の妻にふさわしい。どうか結婚して下さいませんか?」
クラウディーナはこちらをまっすぐ見つめて、
「わたくしは一人娘です。婿を取らなければなりません。ベルンドン第二王子殿下が婿入りするはずでした。でも、さすがにあれだけの女性と付き合っていては。ですから婚約破棄を致しました。我が父の我慢の限界も超えましたわ。勿論、わたくしも。貴方がわたくしと結婚したいのなら、婿入りして下さいませ。貴方の家は弟君がいらっしゃいましたわね?」
「婿入り???婿入りか‥‥‥」
ロイスは最近では父と共にハルド公爵領の為に働いていた。
ハルド公爵に先々なる為に。
弟ジュールは歳が離れていてまだ、頼りない。
17歳だ。
大丈夫だろうか?
私はハルド公爵領の事を捨てられるのか?
クラウディーナはロイスに、
「ハルド公爵家を捨てられないでしょう。婿入りなんて言われたら困るのは貴方よ。ですからこの話はなかったことに」
「いえ、婿入りします。まだ父は元気だ。弟に領地の事を教える時間はあるでしょう。婿入りします。その方がいいかもしれない」
「その方がいいですって?」
「私がレドル公爵家に婿入りになったら、さすがのリーディア王女も余計、文句が言えなくなるでしょう。王家に対しての仕返しにもなる。いいでしょう。婿入りします。その代わり、すぐに結婚して下さい。籍を入れて下さい。邪魔が入らないうちに」
「両親を呼んできますわ」
「そうですね。私も両親と弟を連れてきます。二時間後にまたお会いしましょう」
早馬で屋敷に戻って、両親と弟に向かって、
「私はレドル公爵家に婿入りすることにした」
三人は驚いた。
父、ハルド公爵は、
「いきなりどうした?お前は我が公爵家の嫡男だぞ」
母も目を見開いて、
「そうよ。ロイス。貴方が婿入りするなんて」
弟のジュールも、
「兄上、どうしちゃったんです?この家はどうすれば?」
「お前が継げばいい。私は結婚したい。あの王女に邪魔されるのも付き纏われるのも嫌なんだ。レドル公爵家に婿入りすれば、解放される。いいですね。これから話し合いに行きます。それから早く籍をいれたい。邪魔される前に」
父は笑って、
「解った。これからレドル公爵との話し合いになるだろう。すぐに支度を。行くぞ」
四人で改めて、レドル公爵家を訪れた。
レドル公爵夫妻とクラウディーナ。ハルド公爵夫妻とロイスとジュールの7人で話し合いが行われた。
ロイスはレドル公爵夫妻に、
「私は婿入りします。両親も弟も承知しました。どうかクラウディーナ嬢とすぐに結婚させて下さい」
レドル公爵は、
「普通なら常識であり得ないと断るべきだが、我が公爵家も王家には苦労されられてきている。あのベルンドン第二王子殿下相手に強引に婚約破棄をしたが、ごねられている所だ。よかろう。クラウディーナがよければすぐに籍をいれよう」
レドル公爵夫妻も、
「他の国なら貴族の結婚は手続きが大変でしょうけど、この王国は書類を揃えて、教会に出せば認められるわ。すぐに書類を作成しましょう」
ハルド公爵はレドル公爵とがっつり握手をして、
「この結婚、両家に吉をもたらすだろう」
「王家に泡を吹かせてやりましょう」
書類を作成し、ロイス自身が早馬で教会に提出した。
王都の中央にあるバレン教会。ここはこのボタル王国で、結婚離婚出生等を管理している教会だ。
教会といっても役所のようなものであり、受付窓口が別棟にあって、そこに書類を出せば認められる。
ロイスは意気揚々と書類を出した。
窓口で書類の不備がないかチェックが行われ、受理された。
こうして、結婚の申し込み当日に、ロイスはクラウディーナと結婚した。
ロイス・ハルドから、レドル公爵令息になったのだ。
まずは荷物を持って引っ越しを。
公爵家の婚姻である。結婚したはいいが、お披露目をしなければならない。
教会で大きな式をして、色々な貴族達を招待して。
クラウディーナを妻にしたはいいが、どういう女性か知らない。
結婚式の準備をしながら、クラウディーナの事を聞く事にした。
「強引に結婚してしまってすまない」
「いいのです。わたくしはベルンドン様の婚約者だった時は絶望しかなかった。でも、貴方と結婚したら希望が持てましたわ」
「そう言ってくれて嬉しい」
「貴方の事を教えて下さいませ。わたくしの事も知って欲しいですわ」
美しくて完璧なクラウディーナ。
幸せを感じた。
クラウディーナを伴って王宮の夜会に出席した。
どうしても出席したい用事があったからだ。
そうしたら、リーディア王女が桃色のドレスを着て、こちらにドスドスと音を立ててやってきた。
「どういうことよ。結婚したですってぇ???」
「私はレドル公爵家に婿入りしました」
「貴方はわたくしと結婚するんではなかったの???」
「いつ、貴方と結婚するって約束しました?お断りしてきたはずですが」
「それは、貴方が恥ずかしがっていたからでしょう。だからわたくしは遠慮して」
「遠慮していましたか?何回も婚約を申し込んできましたが」
「ともかく、認めない。すぐに離婚してっ。わたくしと結婚して」
「嫌です。ともかく嫌です。私はクラウディーナと結婚しました。お断りします」
クラウディーナが、
「我がレドル公爵家に婿入りして下さったのですわ。王女様。祝って下さいませ」
そこへ、ベルンドン第二王子がやってきた。
リーディア王女はベルンドン第二王子に泣きついた。
「お兄様。酷いのよ。ロイスったら、クラウディーナに」
ベルンドン第二王子は、
「おおおおおおっ。愛しのクラウディーナ。私は君を愛しているよ。ただただ、他の美しき蝶々たちも放っておけなかった。この男と結婚なんて酷い。どうか私と結婚しておくれ」
「お断りします。貴方とは婚約破棄が成立しておりますわ」
「そこをなんとか」
そこへ聖国からボタル王国に訪問していた、聖国の聖王がやってきた。
国王と共にこちらに向かって。
白い髭を生やしている聖王は、ボタル王国の国王に請われて、訪問していたのだが、
「ほほう。なんともまぁ見苦しいのう」
ロイスとクラウディーナは頭を下げる。
「これは聖王様。聖王様がいらっしゃると聞いて、今宵の夜会は出席致しました。祝福を授かりたくて」
「わたくしもですわ。結婚したばかりなのです。ですから、どうかわたくし達に祝福を」
聖王は二人に向かって、
「これは若々しい素敵なご夫婦じゃのう。我が祝福を授けよう」
聖王が両手を天に向かって広げると、花びらが二人の上に舞って来た。
他の夜会の出席者たちは、花びらの美しさに見とれる。
二人は頭を下げて礼を言った。
「有難うございます」
「感謝致します」
そこへリーディア王女が、
「聖王様ぁ。酷いんですっ。ロイス様ったら、私を捨ててこの女と結婚してしまって」
国王が慌てて、
「リーディアっ。口を慎め」
ベルンドン第二王子も、
「本当に酷い女で、私を婚約破棄したんですよ。この女。どうか、聖王様。この二人を離縁させて、私はこの女と結婚したいのですから」
聖王が眉を寄せて、
「国王よ。教育を誤ったな」
真っ蒼になる国王。
「聖王様っ。これはそのっ」
王太子がやって来て呆れたように、
「近衛兵、この二人を連れ出せ」
聖王は右手を天に突き出し、
「その必要はない」
リーディア王女とベルンドン第二王子に雷が落ちた。
「「ぎゃぁーーーーーーーーー」」
小さなネズミが二匹。
片方はとても丸々している。
もう片方は普通だが、両方ともおびえたようにきょろきょろしていた。
そこへ、夜会には不釣り合いな男達があっけに取られたように、
「なんてことだーーー」
「屑の美男がネズミにっ」
「狙っていたのに」
「何でっ?どうして?」
奴等は変…辺境騎士団。屑の美男をさらって教育する為にベルンドン第二王子を狙って、夜会に潜入していたらしい。
聖王はネズミの一匹をそっと、がっかりしている四人の一人、金髪美男のアラフに手渡して、
「愛情をこめて世話をすれば、元に戻る事もあろう」
「愛情をこめて世話っ???」
「まぁ頑張れ」
丸々太ったネズミの方は窓の外へぽいと投げ捨てて、
「さてと、わしは帰る。そこの二人、幸せにな」
「有難うございます」
「有難うございます。聖王様」
国王と王太子は唖然として聖王の背を見送っていた。
ロイスはほっとした。
愛しいクラウディーナの手を取って、幸せを感じるのであった。
この日から、リーディア王女とベルンドン第二王子の姿を見る事はなかった。
ネズミとして生きているのか、そもそももう、生きていないのか?
ロイスは今、レドル公爵家の仕事を覚える為に、レドル公爵の元で頑張っている。
クラウディーナは知れば知る程、素晴らしい女性で、今、とても幸せだ。
「君と結婚して良かった。私は幸せだ」
「わたくしもよ。ロイス様」
二人は窓の外を見上げれば、二人の未来を祝福するかのように、空は晴れ渡り、西の空に綺麗な虹がかかっているのであった。
変…辺境騎士団の詰所にて
「おかしいな。元に戻らないぞ」
「世話がたりねえんじゃないか?」
「触手で餌をやっているんだけどな」
「先が長そうだ。いつ元の美男に戻るんだ???」




