表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新撰組 折々の記

新撰組の縁側 鬼の話

作者: 湯好き御幸
掲載日:2026/02/01

壬生狂言を見終えた夜、

縁側で続いた、鬼の話。

沖田総司が、ふと思い出したように言った。

「……鬼、だけどさあ。

地獄には、やっぱいるって話だよねえ」


「なんだ?」


「さっき見た狂言の鬼が、

どうにも頭に残っていてさあ」


永倉新八は腕を組んで考える。

「ああ。うちの隊士なんかと比べものにならねえくらい、いるんじゃねえか」


「ふん。おまえ、何考えてるか分かるぞ」

「うん、分かるだろうよ」


原田左之助が鼻で笑う。

「俺さ、鬼ってもっと怖いもんだと思ってたけどよ。

話聞く限り、仕事熱心なだけじゃねえか?」


「罪人見張って、逃げたら追いかけて」

原田は自分で頷く。

「完全に現場仕事だな」


斎藤一が静かに言った。

「……命令される側だ。

裁くのは閻魔。鬼は執行するだけだ」


誰も口には出さないが、

皆、似たようなことを考えていた。


沖田は少し目を細める。

「じゃあさ。鬼って、本当は悪いやつじゃないよね」


その場の空気が、ほんの一瞬だけ変わる。


永倉が咳払いをした。

「まあ……役目ってやつだろ」


原田は縁側を見下ろし、ぽつりと。

「俺たちと、あんま変わんねえな」


沖田が、くすっと笑う。

「だよね。

“鬼”って呼ばれてるだけで、

やってることは命令通り」


斎藤は庭の影を見つめたまま言う。

「忠臣だな」


原田は苦笑した。

「じゃあさ、俺らが向こう行ったらよ。

鬼のほうが俺たち見て、

“なんでこいつら地獄来たんだ”って思ってたりしてな」


永倉が笑う。

「ありえるな。

俺らも命令に従ってただけだしよ。

閻魔様も、“また面倒なの来た”って思うんじゃねえか」


沖田は想像したのか、声を殺して笑った。

「閻魔さまとか鬼に、ため息つかれるの?

それ、ちょっとやだなあ」


少しして、沖田がぽつりと続ける。

「……でもさ。

もし鬼が、もともと人だったら?」


誰も、すぐには答えなかった。


斎藤が低く言う。

「……それでも、やるべきことをやるだけだろう」


沖田はそれを聞いて、柔らかく笑った。

「ま、鬼がどうとか、地獄がどうとかよりさ」


永倉が続ける。

「今ここで、のんびりしてるほうが大事だな」


沖田は縁側に寝転がり、空を見る。

「うん。あの世行ってさ、

鬼に会ったら、そのとき考えよ」


「おいおい、誰も極楽行く気ねえのかよ」


風が吹き、木の葉が鳴る。


「みんなで地獄のほうが、性に合う気がするね」

「……案外、鬼とも仲良くなれそうだな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ