新撰組の縁側 鬼の話
壬生狂言を見終えた夜、
縁側で続いた、鬼の話。
沖田総司が、ふと思い出したように言った。
「……鬼、だけどさあ。
地獄には、やっぱいるって話だよねえ」
「なんだ?」
「さっき見た狂言の鬼が、
どうにも頭に残っていてさあ」
永倉新八は腕を組んで考える。
「ああ。うちの隊士なんかと比べものにならねえくらい、いるんじゃねえか」
「ふん。おまえ、何考えてるか分かるぞ」
「うん、分かるだろうよ」
原田左之助が鼻で笑う。
「俺さ、鬼ってもっと怖いもんだと思ってたけどよ。
話聞く限り、仕事熱心なだけじゃねえか?」
「罪人見張って、逃げたら追いかけて」
原田は自分で頷く。
「完全に現場仕事だな」
斎藤一が静かに言った。
「……命令される側だ。
裁くのは閻魔。鬼は執行するだけだ」
誰も口には出さないが、
皆、似たようなことを考えていた。
沖田は少し目を細める。
「じゃあさ。鬼って、本当は悪いやつじゃないよね」
その場の空気が、ほんの一瞬だけ変わる。
永倉が咳払いをした。
「まあ……役目ってやつだろ」
原田は縁側を見下ろし、ぽつりと。
「俺たちと、あんま変わんねえな」
沖田が、くすっと笑う。
「だよね。
“鬼”って呼ばれてるだけで、
やってることは命令通り」
斎藤は庭の影を見つめたまま言う。
「忠臣だな」
原田は苦笑した。
「じゃあさ、俺らが向こう行ったらよ。
鬼のほうが俺たち見て、
“なんでこいつら地獄来たんだ”って思ってたりしてな」
永倉が笑う。
「ありえるな。
俺らも命令に従ってただけだしよ。
閻魔様も、“また面倒なの来た”って思うんじゃねえか」
沖田は想像したのか、声を殺して笑った。
「閻魔さまとか鬼に、ため息つかれるの?
それ、ちょっとやだなあ」
少しして、沖田がぽつりと続ける。
「……でもさ。
もし鬼が、もともと人だったら?」
誰も、すぐには答えなかった。
斎藤が低く言う。
「……それでも、やるべきことをやるだけだろう」
沖田はそれを聞いて、柔らかく笑った。
「ま、鬼がどうとか、地獄がどうとかよりさ」
永倉が続ける。
「今ここで、のんびりしてるほうが大事だな」
沖田は縁側に寝転がり、空を見る。
「うん。あの世行ってさ、
鬼に会ったら、そのとき考えよ」
「おいおい、誰も極楽行く気ねえのかよ」
風が吹き、木の葉が鳴る。
「みんなで地獄のほうが、性に合う気がするね」
「……案外、鬼とも仲良くなれそうだな」




