年賀状がもらえなくなった悟志くんのもうひとつの悲劇(ウタほたるのカケラ〈US〉出張版【サイズS】第8iS片)
こういうひと、おられるでしょう。
悟志くんはショックを受けていた。
年々減り続けていた年賀状が、ついに今年は一通も彼のもとに届かなかったからだ。
メイルやメッセージすら、個人宛には新年の挨拶などせずに、グループチャットのアプリで、メンバー全員へと一括で済ませるのが、もはや通例。彼もみんなと同様、アプリであけおめコメントした以外では、なにもしてこなかったのだけれど。
そんな彼が、自分では出さない年賀状を、知人から送って欲しがるのには理由がある。
悟志くんの誕生日は一月一日の元旦なのだ。
年賀状がたくさん届いたころには、彼の誕生日もお祝いする言葉がいっしょによく書かれていたもので。
逆に、年賀状でもなければ、家族や親戚以外からおめでとうを言われることなどめったにない。元旦に顔を合わせる人間なんて限られているだろう?
ただ年賀状が欲しいだけならば、自分から書いて送れば、到着してからあちらも返信を出してくれそうなものだが、それでは元旦から数日遅れることになる。誕生日のお祝いとしては、タイムリーではなくなるため、その場合にはかえってしらじらしく思われたくないからか、ハッピーバースデイの文字は添えられないことがほとんどだった。
そんなわけで、悟志くんはちゃんと元旦に年賀状が欲しい。けれども、催促するようなまねはしたくないし、むしろ、なんなら新年のお祝いよりも、自分の誕生日のほうに触れてほしい。
そもそも世の中一般では、悟志くんの誕生日よりも、新年を迎えるほうがずっとおおきなイベント。
バースデイカードが送られて、そこにちいさく、あけましておめでとうと加えられているなんてことは、小学生までに数度あったきり。
それでも、誕生日を祝われたい。
年賀状に便乗するのが一番確実だったのに、それも叶わなくなった。
悲嘆に暮れながら、悟志くんはひとつ決意をする。
自分と似たような境遇の人間——クリスマスやヴァレンタインが誕生日の知人ができたなら。
ハッピーバースデイを兼ねたカードを、当日きちんと送ってあげよう。
こんな悲しみを抱えて生きる人間を、その気持ちが理解できる者として、ひとりでも多く救わなきゃいけない。
新しい一年と、誕生日を迎えて新しくなった自分に、強く誓ったのだった。




