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水の国の物語  作者: たくぼあき


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7/8

君の好きな色何色

ある時水の国に滞在中の風の国の王子ライズは銀の湖の水面ぎりぎりのところを風となって飛び回っていた。


目の前に広がるのは広い銀の湖。

仰向けに飛ぶと吸い込まれるような青空。

ぐるりと回転すると空を写したやはり青く広い輝く湖。


 彼は風の精であるからよく銀の湖の上を飛び回って気晴らしをしている。


「もっと強く風が吹かないものかな」


 水の国自体に不満は全くなかった。

ただもっと強い風に吹かれていた風の国が恋しかった。

離れてみると祖国風の国は発展はしていないけれどなんという素晴らしい国であるのかとしみじみ感じる。


この国では他にも風の精が戦禍を避けて祖国から大勢避難してきているというが、祖国は今どうなっているのだろう。


 彼の祖国は現在勢力が二分していて敵方と接触してしまったら問題なのでライズは他の風の精達と接触出来ないように王宮内で過ごすことが多かった。


 ライズの歌劇出演の際は派手なメイクで素顔を晒さない様に気をつけている。


 そして、今、おおきな銀の湖の上で仰向けに宙に浮き、吸い込まれるような大空を眺めていると頭の中には様々な事柄が浮かんでくる。


 演技や歌の練習をしていてどうしても上手く歌いこなせない歌詞も拍子も難しくなかなか覚えられない不思議な水の国の歌。

誰よりも美しい青い髪の少女の姿。


高貴な者として毅然として

「王族の務めとして自分が真っ先に逃げるわけには行かないのです!」

と勇ましく暴れるウツボ竜に立ち向かったローレヌの姿は本当に頼もしかった。


 しかも彼女の火柱は明らかに竜にダメージを与えることに成功していた。



 彼女の父は水の国を訪れた火の国の王族だったという話を後からキチジに聞かされて納得したが、本当にお淑やかな姿とのギャップには感心させられた。

 

でも本当なら自分は祖国で王位奪還のため戦っていなければならないのだ。

とライズは気持ちを引き締め直す。


そして、祖国に居て戦い続ける母や味方たちに思いを馳せる。


 遠い風の国にいて自分の無事を祈ってくれる母、そして記憶の片隅にもないが自分の人生の指針としている父。

 祖国での争い、この平和な水の国にいると祖国で争いが続くことさえ幻のように思えるのに。

自分達の味方が大攻勢をかけてかなりの領土を取り戻したらしい。だが、講和を呼びかけてもバルの軍勢は納得しようとせず今でも小競り合いが続いて休戦協定も結べないらしい。

このままではどんどん国力が衰退して益々他の国との差が激しくなるという焦りもわいてくる。




 そんな事を考えながら空を漂っていると、突然彼の進行方向の水面に黒い影が浮かび影がそのままブワッと盛り上がり、巨大な魚のような大きな生き物が水面から空中に飛び上がってきた。


それもギザギザした歯が並ぶ大きな口を開けて。


「な、なんだ!?」


 

 ライズはひらりとその巨大魚のような生き物の攻撃から身をかわした。

それは真っ黒なまるで鎧で身体中を覆っているかのような猛々しいライズの数倍はありそうな魚の形をした竜が彼にかすりもできず、飛び出した勢いのまま水飛沫をあげて水中に飛び込み消えていく。

 

 身軽なライズが、ひょいと脇によけなければ彼は風の国史上おそらく唯一無二の「水の国で魚竜に食べられて命を終えた王子」としてその名を風の国の歴史に刻んだかもしれない。


 今度は魚竜という鎧のような鱗を着た大きな魚型の竜に襲撃されたのだ。

命を狙われることは赤子の頃から慣れているが、まさか水の国でもこんな危険があり得るとは思わなかった。




ライズが水上飛行をしている姿を湖畔から眺めていた護衛のラリが慌てて飛んできた。

魚竜という魚の形に似た竜がいることは聞いていたが。

まさか湖上を飛行中にライズが餌として狙われるようなこんな危険がこの国で起こりえるとは。


「大丈夫か」


「竜の襲撃が多すぎないか?俺これで二度目だぞ」


「その通りだ。よかった。無事で」


 水飛沫を浴びてずぶ濡れになったライズ王子を陸地に上がらせて自分のマントを脱いで差し出し着替えさせる


「もう一度出会ったら今度は奴を一撃で仕留めてやる」

とライズが血の気の多い事を口にしていると随員の1人が


「なんと恐れ多い事を。風の国では神罰が」

「水の国では罰金刑です」

「それに事件を起こせばキチジ殿に叱られますよ」


3人の小姓達が口々に王子をいさめにかかった。

「水上飛行が危険なのです。あんなに水面ギリギリを漂うようにしておられたら竜からしたら捕食してくれと言っているようなもの」


「それにこの水の国では、巨竜を仕留めると動物愛護派に非難されるそうですよ。法律的にも無意味に貴重な魚竜を仕留めてはなりません。にがして正解です。あれは特別天然記念物として保護されているはずですから」


「俺が食べられていたかもしれないのに」

憤慨する王子様に随員達が寄り添った。

小姓達はしっかりと勉強をしておりわがままが羽衣を着て漂っている様な少年と呼ばれるライズに様々な知識を授けてくれる。


「であっても不幸な事故として終わらせてしまう事でしょう」

「うるさい。あの竜、絶対いつかしとめてやる」

などと駄々をこねるライズに

「そろそろローレヌ様の御招待のお時間です。水晶宮の本殿に参りましょう」

と次の予定に誘う。

 ローレヌ姫の名前を出されるとライズはすっかり機嫌を直すのだった。



 開発が進み過ぎて本来なら国中の湖や水辺に生息していた大型生物の多くが絶滅しかかっている水の国。

様々な学問や研究が盛んなため竜の保護活動も熱心に行われるようになった。


だが、肉食の獰猛な生き物も含むため人を守るためなら殺傷もかまわないとされている。


 実際音楽会の最中竜の襲撃をうけて退治した件については大勢の目撃証言から正当防衛を認められてライズ達も兵士たちもお咎めなしとなった。



 この日のライズ達5人はローレヌに招待をうけていた。

水晶宮の一角にある王家専用の花園にライズ達は特別に招かれたのだった。


ローレヌとライズは、気が合うらしく、はじめは堅苦しい話し方をしていたけれど敬称ぬきの言葉遣いでよいことにもなっていた。

友人として話をして欲しいというローレヌの希望だった。

先日竜から助けてくれたお礼ということらしい。


 ローレヌはこの日はより一層目を引く美しい青いローブを見にまとっていた。 

まるで空の青をきりとったかのような。

彼女の髪と瞳の色

そして、衣装だけではなく王室専用の花園の花は全て青色で統一されていてライズ達はあまりの美しさに息をのむ。


「まあ、また竜に遭遇したのですか?」

 

 ローレヌとその世話係の女官は、歓待しながらライズが先程湖面の上で今度は魚型の竜に襲撃されたと聞いて顔を見合わせた。

「竜に好かれる方なのですね」

実際猛獣とされる竜に襲われて二度とも無事なのは珍しい。

ついているのかいないのか分からないけれどライズは竜に襲われやすいらしい。

好かれているかどうかは別として。


「動物学者が言っている事ですが、最近湖の埋め立てのせいで魚竜が餌場を失って人を襲う事件が多発しているのですって」

ローレヌが説明した。

「俺が2回も襲われているくらいだからな。それは事実だと思う。何らかの方策が立てられる事を望む」

あの竜は完全に俺をやる気だった。

「よくぞご無事でした」 

「でもローレヌ姫。あの音楽会の時あなたが火炎を操られたことにも驚いている。あなたが混血だとは聞いていたけれど能力については知らなかったものだから」



「国王陛下をお助けして国民を守るのが私たち王族の務めですもの。出来る限りのことは致しますわ」


ライズは何と美しく勇ましい姫君なのだろう。

母上の頼もしさに似ている、と心の中で思いつつ。

「本日はお招きありがとう」


随員の一人がローレヌの侍女に捧げ持った木箱を差し出した。

衣装も宝飾品も髪の色も瞳の色も全て青系統のローレヌ。



「あなたのお好きな色だと思って。珍しい青の羽衣をお持ちした」

青い色の中で微笑んでいる彼女しか知らないライズにとって、ローレヌといえば淡く澄んだ青色のイメージだった。


「まあ、なんと見事な青い羽衣」

「よろしゅうございましたね。お姫様」

箱からそれを出して侍女に目の前で広げさせるローレヌ。

本当に綺麗に染められた青空の切れ端のような深い青だった。

常に青を身につけているのはそれが義務だからという一面もあるのだがローレヌはとても可愛らしく微笑んだ。

「青色を身につけるのは私の義務の一つなのですけれど。でも本当に綺麗な色」

ライズはてっきりローレヌが青が好きなのだと思っていたので

「あなたは青色がお好みなのではないのか?」

と尋ねてしまった。


 尋ねながらライズは、戸惑っている。


先日母に青色の姫君の絵を描いて送ってしまったではないか。

—この姫君の衣装のような青色が流行っています。

新しい反物は、青色にて染め上げてください—

と染料までそえて送ってしまった。

 仕事の早い母と侍女たちはすぐに試供品を仕上げてキチジに持たせてくれた。

 

キチジ曰くローレヌ様が羽衣を気に入って普段から着てくれたらお金持ちの御学友達に流行して売り上げが上がるのでは?という皮算用もあったのだ。


「嫌いではないのですけれど他に好きな色も有りますわ。青は王家にとっての特別な色。でも私の身体には火の精の血も流れていますし。ああ、ご存じでした?」


「それは、話の端に聞いたことはあるが。目の前のあなたを見ているとそれだけで満足してしまって。あまり深く考えた事がなかった」


「この国では皆知っている事なのです。王室の一員である私が混血という、それだけで私に反感を持たれる方もいますわ。お父様のお国に退去させるべき、だとか。だからこそおばあさまが私が完璧な水の精として青い衣装をきて水の精霊らしく過ごして火の精の能力は使わないようにととても厳しくおっしゃいます。そして私には同じ血を引いた姉がいるのです。本当に幼い時に姉は父の祖国に引き取られているから幼過ぎてぼんやりとした記憶にもないのですけれど」


大国の王族として何もかもに恵まれているようにみえるローレヌだったが血筋は複雑で苦労も多いようだった。


それと同時にライズ達の本当の姿をローレヌはまだ知らない。

それでも知って欲しい、という気持ちも湧いてくるライズ。

今は、身を潜めておかないと行けないから無理としてもいつかは。


ライズ達はまた楽しい時間を過ごした。


ライズは、その時間が終わった後で気がつく、

ローレヌの一番好きな色は何色だったのか聞き忘れた、と。



ラリ。

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