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水の国の物語  作者: たくぼあき


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4/8

平和な国

少女のような優しい見かけと風の精らしい軽やかな身のこなし、水の国の宮廷でライズ達風の精は人気者になった。


彼らの本来の立場である風の国の王子とその小姓たち、という身分はごく一部の人しか知らない事なので普段から質素に風の国の商人の子弟として振る舞い学問に励んでいて素朴な印象もまた好印象だった。



そして彼らの言語学習の習得能力も素晴らしかった。


元々は王立の学院に留学生として通学して水の国の歴史や語学や世界的な役割について学ぶ事を勧められており他の随員達はきちんと就学したのだがライズは、素晴らしい歌で迎えてくれたローレヌ姫と話がしたいという気持ちを強く抱いてその日から通訳のキチジを相手に凄い勢いで水の国の言葉で会話の習得に励む。


そしてローレヌから


「ご一緒に船遊びをいたしません?」


というお誘いを受けるとライズはラリという背の高い少年を伴い大喜びで参加する。


ライズはすっかり水の国の言葉を自分のものにしていた。


それも全て、あの美しい歌声の少女と楽しく会話をする為だけに!


彼は、無口で勤勉でシャイで忍耐強いという風の精の美点といわれる素質の全てにただ一人反目し大変積極的で話し上手で飽きっぽい少年である。


また、好奇心も人一倍旺盛という一面もあった。


ただ、彼のその明るいキャラクターは、古風な風の精の感覚でいうと『軽薄』と言われかねないものだった。



無口で勤勉で忍耐強いのはお供のラリの方だった。


ラリというのは、ライズのお供として参加している風の精の少年だ。


ライズと同じ銀の髪と緑の瞳をして背が高く、やたらと目つきの厳しい風の精の少年の中で1番年かさで、5人いる風の精の少年達の中で中心人物はライズだがリーダーは明らかにラリ、と分かるほど皆に頼られ決断を求められていた。



祖国では羽衣に風をはらませて空を自由に飛び回っているという彼等風の精は銀の湖の上を水面に波紋をつけながら木葉のように飛び回って遊ぶ。


水の精たちはまるで見世物でもみるかのように歓声をあげた。


益々素早く飛び回るライズと、すぐに落ち着いて皆が乗る船の帆のうえに立ち、自分ができる限りの力で風を集め黙って操舵を助ける寡黙なラリ。

彼はもともと無口で恥ずかしがり屋な上にまだ水の国の言葉が不安なので人の輪に入るのが不安なのだという。


ライズは、言葉の壁を越えかなりものにしているが、その上達の速さこそ驚異なのだ。


ちなみに、ラリは、他国の船が航行不能になりかけた時偶然通りかかって救助する事になるのだが、それはまた別の話だ。


彼ら風の精との船遊びはなんと楽しく面白いものか、とそんな風の精の姿を見て感心してため息をついて感心する水の国の人々。


もっともこの地方では風の国ほどの強い風も身体を預けられるほど吹かないし、それを操る力も続かないから彼らもそれほど長く飛び回れないのだが。


ライズにとってもとても楽しい船遊びだった。

皆優しいし、景色は美しく敵対勢力もとりあえずは周りにいなくてあまり羽目を外さなければ警戒心も必要ない。


ライズは、『贈答品こそお付き合いの基本ですぞ!』と如才ないキチジに言われたとおり船遊びのお礼に祖国から持ち込んできた風の羽衣とはまた異なる風の国原産植物の繊維から編んだ透き通る特産品の布をローレヌと彼女の友人たちに贈った。


ローレヌも含め乙女達は非常に喜んで布地を受け取り、裳裾をひいたドレスの一部にするという。


そんな船遊びの最中

「国王陛下は、私達の楽しみのために新たな王立劇場を建設してくださるのですって」

「今回何世代もかけた湖畔をぐるりと囲むための途切れ途切れの大回廊を繋げる大工事がをなさるから大回廊の中央に人々が集まる楽しめる空間を、とおっしゃったとか」

「早く完成すればよいわね」


と銀の湖で船遊び中の水の精の少女たちが、はなやいだ様子で話している。


「あれほど立派な円形劇場があるのにまだ建設されるのですか」


ライズが尋ねる。

戦争をしていなくて、貿易で稼いでいるからとはいえよくもそんなに資金が続くものだ。

なんという豊かな国だろう。


習った通りの丁寧な言葉遣いであった。


それがまた少女達の警戒心を解かせ好感を持たせる。


本当に彼は簡単な会話はあっという間にマスターしてしまい皆が驚くほどだ。


「ええ。銀の湖の周囲をぐるりと取り囲む環状回廊を建設してその仕上げが王立劇場よりも二回り大きな大円形劇場の建築なのですって」


と様々な事を教えてくれた。


水の精は水中や水上を歩くことが出来るけれど、そういう能力を持たない異国の留学生達には難しいことから船遊びでよく銀の湖で遊ぶ。


船遊びで他の国から来た者とも話すのは公用語の水の国の言葉が1番ということになる。


基本的に船の中で静かに座り話をしているだけだが、風の精は水面に波紋をたてながら空中を飛び回り帆船の帆に風を当てて出来る限りだがスピードを早めたりする。


銀色の髪をなびかせるその姿は、非常に絵になりさらに船の進む速度を速めてくれたりするので非常に楽しかった。


「風の精の力は便利だこと」


「ライズ様も祖国にお戻りになんかならずにずっと水の国でお暮らしになっては?」

「そうですわ」

「風の国は辺境。水の国ほど楽しいことなんてないでしょう」


「国王陛下にお願いしたらお役目を下さるかもしれませんわ」


ローレヌ姫以外の友人達がライズにそう勧めていた。


ローレヌだけは微笑むだけでその会話に加わらなかったが。


祖国に帰り、いずれは叔父を倒し王家の後継者として返り咲きたいライズからすれば水の国に永住ということは絶対に考えられないことではあるが、彼は


「そうですね。素晴らしい国王陛下がおられるこの国に滞在できて幸せです。私はとても感謝しています」


などとうまく受け流した。


ライズは祖国を強く愛している。


最愛の母も自分の為に戦ってくれているのだからまさに岩にかじりついてでも祖国に戻らなければならぬ。


そんな彼からすればいくら平和で豊かな国だとはいえこのまま水の国に骨を埋めてしまうつもりはさらさらなかった。


ただ、祖国を見捨てる気持ちはさらさらなかったが、ここで本当の自分を出す訳にもいかない。


今はまだ自分に力がないから戦いに参戦できないが数年のちには戦いにくわわることを願っている。



自分を王位につけるために命懸けで戦い続けてくれている母や守り役や多くの支持者のことを考えると焦る気持ちもある。


彼についてきたお付きの少年たちの中では早く祖国に帰り戦闘に加わりたいと言い張るものもいるほどだ。

しかし、

「水の国は世界で最も幸せな素晴らしい国ですもの」


そう発言する気持ちに悪気はないのである。


彼女達はそれを信じてそう教えられているのだから。

ライズが戦災を避けて平和な水の国に救いを求めて疎開している避難民であるのは事実なのだし。


水の精の人々の頭の中には、水の国こそ世界で最も優れた国であるという気持ちが強すぎるのだ。

「ねえ、ローレヌ様」

同意を求めて話しかけられたのは、水の国の王家の血を引くお姫様。

美人揃いの水の精霊の乙女達のなかで最も美しいと言われている姫君。

ローレヌはラリがうまく操る船のスピードを楽しんでいたが

「水の国は風の国よりも豊かで世界で最も素晴らしい国ですわよね」

と同胞に同意を求められても決して返事をしなかった。


それは無言の否定。

皆本当に悪気はないのだ。


ライズもラリも愛する祖国を下に見られるくやしさなど今ここで見せても仕方なかった。


「自分の故郷こそ最も懐かしくて素晴らしいものですわ」

ローレヌが静かに微笑みながら口にした時ライズの心はまたもときめいた。

この姫君はやはり何か自分にとって特別なのではないかと。

「そういえば、国王陛下のおじいさまが大歌劇場を新設されるにあたり新しく劇団員を募集すると言っておられましたわ」


ローレヌはさりげなく会話を逸らしたのだった。


「まあ、楽しみですこと」


ここ、水の国は、戦乱が続くこの世界の中で奇跡のように長く平和が続いて繁栄を続けている国家である。


政治の基本が平和な国家を維持することというものだからだ。


だから周囲の国から見ると思い上がった言動をすると見えてしまう事も仕方ないのかもしれない。


しかし、ローレヌにときめきながらも

「その劇団員には自分も参加できるのだろうか?」

ライズ王子の胸の中にむくむくと別の野望が湧き起こってきたことを人々は知らない。

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