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水の国の物語  作者: たくぼあき


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水の国のお姫様

「風の国のライズ王子を我が国でお預かりすることとなった」


水の国の国王は、そう王太子以下3人の息子達に告げた。


国王の隣にいた王妃は全て弁えている様子で驚く息子達にうなずいてみせる。


息子達の最年長、王太子が3人を代表するかのように父王に問いかけた。


「それではこれからは風の国のアマリエ王妃にお味方されるのですか?遠い風の国では王位継承のための戦争がずっと続いていると聞いております」


基本的にどんな争いにも介入しない事を是とする中立国を自認する水の国。


その王家が内戦中の他国の王族を預かることは珍しい。


息子が尋ねると父王は首を振った。


「どちらかの味方をするわけではない。救いを求められたから力を貸す。命の危険がある幼年者達を国家として保護するだけだ」


「だからこそ王子の身分を偽って密かにお預かりすることになったのです」

と王妃が息子達にいい含めた。


「そなた達もそのつもりでいるように」




ここは、この世界で最も豊かで平和な国と褒め称えられる水の国である。


太古の昔、火、水、風、地の精霊達とそれらの能力を持たない人間達、または獣人達が世界を四つに分けたときに最も広い面積を手に入れたのが水の精霊の一族であったという。


水の精霊達は、更に何世代もかけて、低地に水を集め、世界の半分近い巨大な湖を作り上げた。


やがて豊かな水源があるこの国に集まってきた人々に水利や農業を広めたのも彼ら水の精霊達だった。


水は全ての生命の源であるから根強い水の精霊信仰がそこに始まり、水の精霊達は人間達と国を広げ、また他国とも交流をしながら子孫を増やしていった。


精霊達は、人間とも他の種の精霊ともまじわり子供を成すことはできるのだが種の交わりはどうしても子孫につなぐ能力の低下をよぶことから禁忌とされる時代も長かった。


だからこそ近年でも血の交わりはあまりめでたい事だとは思われない事が多い。


水の精霊たちが守り作り上げた世界の半分以上を占めていると言われる銀色の湖の中央部分にまるで浮かぶように築かれた広壮な宮殿が水の国の王の居城である。


水晶の石で作られていることからこの城は水晶の宮殿、水晶宮と呼ばれ、さらに水晶宮の中央には巨大な円筒形の筒が螺旋状に絡まりながら空へとのびていく高層階の塔もあり、この城に訪れた人を圧倒する。



「もっともそなたたちはそれほど深刻に考えずとも良い。我が国は水の国だ。火の国のように争い事に介入したりはせぬ。我が国の兵士が握る刃は、国家を守る為だけのものだ」


話は戻って水の国の国王の周囲に集まっている人物は現在、王妃と王太子含む3人の王の息子達。

国王の話は続いている。


「お前達も知るとおり、風の国は先代国王が実の弟である現国王に暗殺されてから先代国王の一人息子の王子派と現国王派との間で激しい王位継承戦争が続く。そして亡き国王の未亡人、アマリエ夫人からの密かなご依頼で我が宮廷で風の精の王子とその随員たちを数人預かる事になった。期間は定まってはおらぬ。風の国での停戦が叶えばできる限り早期に帰国を考えているということだが」


「何年も続いているという骨肉の争いからの内乱ですもの。そう簡単に収束は難しいことでしょう」


賢夫人として名高い王妃が言葉を合わせた。


「その少年達は身分を隠し、戦災に遭ったテトクエという都市の商人の子弟という事にして我が国が預かる事にした。王子は年齢的にローレヌと同じ年。ミドリと年も近い。ライズ王子は明るい人柄で人好きのする少年だとか。良い友人となるだろう」


ミドリというのは、王太子の息子でゆくゆく祖父や父の跡を継ぎ水の国の国王になるはずの少年でこの時年齢17歳。


ローレヌというのは、やはり国王夫妻の孫娘の名前で年齢は12歳である。


「水の国は他国とは争わない。戦争は愚かな行為である。我らは優れた文化や価値観、魅力的な国家を作り上げて他国から憧れられることによって平和を保ち国力を高めるのみだ」

そういう国王の顔を横で思慮深そうに聞く王妃だった。


しかし、王太子はあまり良い顔をしない。


「父王陛下。母王妃陛下。その風の精の少年達が留学することにつきましては何の異議もございません。異文化交流をし、他国の素晴らしい部分を取り込むのが水の国の繁栄につながります。ただ、ローレヌは、素直で優しい姫ですが、あまり異国の王子と接触させないようにすべきでは?はっきりと申し上げます。我らの愛する妹、ソフィーニはかつて滞在した火の国の王子と不幸な恋に落ちてしまいました。またあのような事になってはおおごとです」

ソフィーニとは今は亡き彼等の妹姫の名前である。


かつて異国からやって来た若者と宮廷で知り合い恋に落ち周囲の反対を押し切って交際し結婚したのだが、ローレヌともう一人の娘をもうけたものの異文化の壁に突き当たり不幸な結果となったことを皆悲しみと共に覚えているのだ。


母として娘の死からようやく立ち直り宮廷をしっかりと取り仕切る王妃の役割を果たそうとしている。


「不幸な恋とまで決めつけてしまうのは、言い過ぎです。ソフィーニは、あの子なりに真剣に恋をして互いに理解しようと向き合ったのです。そしてあの子はローレヌという宝物を遺したのですから。


またローレヌは既に多くの国から来訪した各国の若者達と非常にうまく交流して良い関係を築いています。まだ年若い子どもなのに、会話も上手く立ち回りも見事。深入りしない注意深さも持ち合わせています」


「国際交流は我が王家の義務の一つ、国益にも国防にも通じる大切な活動だ。ローレヌもそれはよく心得ている」


「ローレヌはしっかりしているから大丈夫。私は、ローレヌを信じているのです」

王妃は過ぎた悲しみを押し殺すようにキッパリと言いきった。




そして国王の入国許可の裁可がおり、風の国との国境付近で待機していた5人の少年たちは、水の国に入国した。

しばらくして風の国からはるばる5人の少年達が水晶宮殿にやって来た。

先程の話に出たライズ王子を含めるその随員の5人の少年達であった。


彼らの祖国風の国では、ライズの父王から簒奪して王権を奪取した実の叔父が国王位についていて王から殺害命令が出ている為、大っぴらに滞在を公表は出来ない。


王子とその従者達という立場は安全上隠さなければならなかった為その五名は故郷の戦火を逃れて避難してきた豪商の息子達、という扱いだった。


長く内乱が続く風の国からは王子達以外にも難民となった風の精霊たちや風の国の民達が入国してきていたが王子達と顔見知りではない。


身のこなしが軽い彼等は演舞などが得意でその出し物に出演すると人気者になっており、また彼等が持ち込む交易品として希少な竜の鱗から作られた細工物や風の国でしか作られない羽衣などが大人気となっていて平和すぎる水の国では風の国のブームが起きていたのだった。


水の国の宮廷には沢山の異国の人々が出入りしているから彼らだけが特別な存在なわけではなかった。

火の国からも地の国からもまた彼らの属州にすむ貴族達もいた。


だが、四大大国の一つ風の国の王子が来られるのだからと王は、歓迎の意味も込めてセレモニーを開催した。


他にも多くの外国の若者達が留学して来ている事から大勢を国王の名前で王宮内の劇場に招待して水の国の伝統的な歌劇を披露することにしたのである。






場面は変わる。


「ローレヌ様。王妃様がお呼びでございます」


水晶宮の奥まった一角に王族専用の庭園と花畑が整備されている。

そしてそこに面してローレヌと呼ばれる少女の部屋がある。


水の国の王族の私的空間で外からは覗けない空間だ。


水色の長い真っ直ぐな髪を背中から腰まで垂らし、青い宝石をはめ込んだティアラをひたいに戴いた美しい少女が、花畑のなかに佇んでいた。


彼女は、なぜかわくわくしていた。

わざわざのお呼び立てはおそらく外国からの客人だろう。

彼女はそう期待した。

近々何か出会いが、自分が待っていた何かに出会えるのではないかと。


そして侍女の呼びかけに受けて優雅に振り向いた。


「はい。すぐに参ります」

と。


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