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第92話 報告書:コードネーム『プロメテウス・レポート』ver.2.5(最終稿)

【最高機密(Top Secret) // EYES ONLY】

報告書:コードネーム『プロメテウス・レポート』ver.2.5(最終稿)

発行日: 20XX年X月XX日

発行部署: IARO(国際アルター対策機構)- 特殊技能理論分析局

主たる著者: 佐伯 ███ 分析官、及び特命研究チーム

監修: 黒田 ██ 事務総長、及び特別顧問『G』(※Godの意。スキル神を指す)


はじめに:本書の目的と今後の展望について

本報告書は、我々人類が「スキル」という未知の概念と遭遇して以来、IAROが数年間にわたり蓄積してきた観測データと、数多の悲劇的、あるいは英雄的な事例を元に、その本質を科学的、かつ哲学的に解き明かすことを目的として編纂されたものである。


神獣ガドラの出現と、それに伴う『神様見本市』騒動。これらの事象は、我々がスキルの根源的性質について、あまりにも無知であったことを痛感させた。故に、本報告書は、今後の対アルター戦略、及び人類とアルターの共存社会を構築する上での、絶対的な理論的支柱となることを目指すものである。


本書の編纂にあたっては、特別顧問『G』――我々が『スキル神』と呼称する超越的存在――より、多大なる、そして極めて難解な助言と監修を賜った。ここに、最大限の敬意と感謝を記す。


なお、本書は現在、最高機密文書としてその閲覧を厳しく制限しているが、いずれ世界が新たな安定期を迎えた際には、内容の一部を改訂の上、新設された『国立高等専門アルター学院』をはじめとする全世界の教育機関における、公式な教育資料として流用することを、ここに提言するものである。


我々は、もはや神の奇跡にただ怯え、あるいはすがるだけの無力な存在ではない。

我々は、学び、理解し、そして自らの手で未来を制御する、「人間の物語」の主体とならねばならない。本書が、そのための最初の一歩となることを、切に願う。


IARO事務総長 黒田 ██


第一章:スキル概論 ~神が記述した、世界のバグ~

1-1. スキルの本質的定義

まず、スキルとは何か。

我々は当初、これを「既存の物理法則を超越する特異能力」と定義してきた。だが、この定義は表層的であり、本質を捉えてはいない。特別顧問『G』からの助言と、我々の観測結果を統合した結果、我々はスキルの本質を以下のように再定義する。


『スキルとは、高次元に存在する単一の概念エネルギーが、この三次元宇宙の因果律に対して、特定の指向性を持って顕現した奇跡である』


これを分かりやすく比喩するならば、我々の宇宙は、厳格なプログラム言語で記述された巨大なソフトウェアのようなものである。スキルとは、そのプログラムに、管理者権限を持つ何者か(神々)が、意図的に埋め込んだ「マクロ」あるいは「チートコード」に他ならない。

それは、本来であれば複雑なプロセスを要する結果を、一行の命令文で実行する奇跡。すなわち、本質的には『因果律改変能力』である。


1-2. “こうであれ”という指向性

全てのスキルには、その根源に「こうであれ」という、極めてシンプルで、しかし絶対的な命令が内包されている。

例えば、【発火能力パイロキネシス】であれば、「ここに、あれ」という命令。

瞬間移動テレポート】であれば、「この座標から、あの座標へ、中間なく(あれ)」という命令。

スキルとは、神がこの世界の物理法則に対して、「この部分だけは、このルールに従え」と、一方的に決定づけた奇跡の顕現なのである。

故に、Fランクのスキルであっても、その根源においては、神の御業の欠片を内包していると言える。


第二章:ケーススタディ ~英雄『キャットマン』の成長軌跡~

スキルの本質をより深く理解するため、本章では一人のアルターの、あまりにも劇的な成長の軌跡を段階的に分析する。

対象は、現在IAROの厳重な保護下にあるA級アルター、ヒーローネーム:キャットマン。

彼が、いかにしてF級の、一見すると無価値なスキルを、惑星規模の情報網を支配する準神級の能力へと進化させていったのか。そのプロセスは、我々に「スキル成長」の、恐るべき可能性を示唆している。


段階1:Fランク【猫の気持ちが少しわかる】

観測初期能力:


主要能力: 対象を「イエネコ」に限定し、その感情(喜怒哀楽、空腹、恐怖など)を、術者が漠然と共感・理解する。極めて限定的な、単一機能に特化した精神感応系スキル。


副次能力: 術者が心を許した猫との間に精神的なリンクが形成され、その猫の持つ身体能力(平衡感覚、瞬発力、跳躍力など)の一部が、術者の肉体へと一時的にフィードバックされる。


考察:

初期のキャットマンは、この力を主に迷い猫の保護や、猫とのコミュニケーションといった、極めて平和的な目的にのみ使用していた。この段階では、彼のスキルは社会に対する脅威度が極めて低く、むしろ「心優しき変わり者」としての彼のパーソナリティを形成する一因となっていたに過ぎない。

注目すべきは、この時点から既に「他者との精神的リンク」と「能力のフィードバック」という、後の彼の爆発的な成長の萌芽が見られる点である。


段階2:Eランク【猫の言葉が分かる話せる】

進化後の能力:


主要能力: 感情の共感から、より具体的な「意思の疎通」へと進化。猫の鳴き声や仕草を、意味のある「言語」として完全に理解し、また自らの意思を猫に正確に伝達することが可能になった。


副次能力: 身体能力のフィードバックが安定化。短時間であれば、猫の持つアジリティを意図的に引き出すことが可能となり、戦闘における回避能力が飛躍的に向上した。


考察:

F級からE級への進化は、「順当な進化」と言える。これは、F級の【猫の気持ちが少しわかる】という基本的な機能を、術者が継続的に使用し、その解釈を深めていった結果、より高度なコミュニケーション能力へと自然に進化したものと考えられる。

特筆すべきは、ここで「話せる」という能動的な能力が発現した点である。これは、キャットマン本人の「もっと猫と仲良くなりたい」「彼らの言葉を話せるようになりたい」という、強い『願望』がスキルに反映された結果であると推察される。

この事例から、我々は一つの重要な仮説を立てることができる。

『スキルとは、術者の願望によって、その成長の方向性が決定づけされる』。

これは、スキル成長を、ただの偶発的なパワーアップではなく、意図を持って特定の方向に誘導できる可能性を示唆するものであり、今後のアルター育成において、極めて重要な指導原理となるであろう。

[スキル神による補遺:うむ。その通りじゃ。ワシが与えるのは、ただの真っ白なキャンバス。そこに、どんな絵を描くかは、持ち主の魂の『渇き』次第じゃからのう]


段階3:Dランク【猫科のキング・オブ・フェーリン

進化後の能力:


主要能力: スキルの対象領域が、「イエネコ」から「ネコ科全般」へと爆発的に拡張された。ライオン、トラ、ヒョウといった百獣の王たちと、対等、あるいはそれ以上の「王」として、意思疎通が可能となった。


副次能力: フィードバックされる身体能力の質が、劇的に向上。トラの筋力、チーターの瞬発力といった、人類を遥かに超越したフィジカルを、限定的に自らのものとすることが可能になった。


考察:

この段階に至り、キャットマンの戦略的価値は一変した。これは、ランク上は「大したことがない」ように見えるDランクスキルが、その解釈と応用次第で、いかに強力な兵器と化すかを示す、典型的な事例である。

彼の進化の方向性としては、「対象の拡大」という、最もシンプルだが、最も強力な道筋を辿ったと言える。彼は、もはや単なる愛猫家ではない。全世界のネコ科動物を、その支配下に置く「王」となった。この時点で、彼は人間という種の枠組みを、大きく超え始めている。


段階4:Cランク【百獣のロード・オブ・ビースツ

進化後の能力:


主要能力: 対象領域が、ネコ科から「哺乳類全般」へと、再び飛躍的な拡張を遂げた。彼の情報ネットワークは、大陸規模へと拡大。都市の裏路地を駆けるドブネズミは彼の目となり、大洋を泳ぐクジラは彼の耳となった。


副次能力: 肉体が、多種多様な哺乳類の能力を限定的に発現できる「万能の器」へと変貌。狼の嗅覚、熊の腕力、蝙蝠の超音波探信能力などを複合的に使用する、万能型の戦闘スタイルを確立した。


考察:

キャットマンの進化は、留まることを知らなかった。哺乳類全般とのコミュニケーション能力は、彼を秩序派にとって、代替不可能な情報資産へと押し上げた。この時点で、彼は秩序側の最重要人物の一人となり、IAROによる最高レベルの警護対象となった。彼の動物ネットワークによって、混沌派のテロ計画が未然に察知された事例は、既に両手の指では数えきれない。

副次能力の向上も著しく、彼は単独でA級の戦闘系アルターとも渡り合えるほどの、まさしく無双のキメラ(合成獣)となったのである。


段階5:Bランク【万物のヴォックス・オムニウム

進化後の能力:


主要能力: 哺乳類の壁をも超え、鳥類、爬虫類、魚類、そして昆虫に至るまで、この惑星のほぼ全ての動物との意思疎通を可能にした。彼の情報網は、もはや惑星そのものを覆い尽くす、生きた監視網と化した。


副次能力: 肉体の変質が最終段階に近づく。鷹の視力、カメレオンの保護色、蛇の熱感知能力など、あらゆる動物の能力を自らの身体に自在に「実装」できるようになった。


考察:

キャットマンの能力拡大は、もはや人間の理解を超えた。彼は、生命体系の掌握を完了したと言っても過言ではない。この時点で、秩序側の防衛、諜報能力は、理論上「完璧」になった。地球上のどこで、混沌派が何を企もうとも、そこに一匹でも虫がいれば、その情報は彼の元へと届けられる。彼は、歩く全知全能の情報神となった。


段階6:Aランク【生命の系譜アニマル・キングダム

進化後の能力:


主要能力: 彼はもはや、個々の動物と「一対一」で対話するのではない。彼の意識そのものが、この星の動物たちの集合的無意識に接続する、巨大な「ハブ」あるいは「生体サーバー」と化した。彼は、動物同士の意識を、自らを介して直接リンクさせることが可能になった。パリの上空を飛ぶ鳩が見た光景を、ニューヨークの地下水道に潜むネズミにリアルタイムで共有させる。アマゾンのジャガーの戦闘経験を、シベリアの虎の魂へとダウンロードする。彼は、惑星規模の、究極の生体情報ネットワーク『アニマル・キングダム』を、その脳内に構築した。


副次能力: 複数の動物の能力を、同時に、そしてより高度に複合発動させることが可能になる。鷹の翼で空を飛びながら、蛇の熱感知で索敵し、熊の腕力で殴りかかる。もはや、一人でありながら一個大隊にも匹敵する、万能の超人である。


考察:

この段階に至り、キャットマンは、もはや単なるアルターではない。彼は、この星の動物たちの、集合的無意識そのものに接続する存在となった。観測データによれば、世界中の動物たちが、彼に対して明確な「畏敬」の念を抱き始めていることが確認されている。彼らは、もはや彼を「仲間」とは認識していない。彼らは、彼を「神」として崇めている。

[スキル神による補遺:厳密に言えば、神ではない。森の主、あるいは生命のサイクル管理者キーパーに近い存在じゃな。じゃが、まあ、矮小な人間から見れば、神と何ら変わりはあるまい]


結論:Fランクスキルに秘められた、準神級への道

キャットマンの事例は、我々に一つの、あまりにも衝撃的な真実を突きつけた。

『いかなるFランクスキルも、その本質を突き詰め、解釈を拡張し続ければ、最終的には世界の理そのものに干渉する、準神級の領域へと至る可能性がある』

ということだ。

スキルとは、可能性。

そして、その可能性を育むのは、持ち主の「願望」の力。

ならば、我々人類が為すべきことは、ただ一つ。

若きアルターたちが、その魂に宿る「願望」を、破壊や混沌ではなく、共存と秩序、そして未来への希望へと向けられるよう、正しく導き、教育すること。

それこそが、IAROに、そして『国立高等専門アルター学院』に課せられた、最も重く、そして最も尊い使命であると、我々は結論付ける。

これからの戦いは、武力の戦いではない。

魂の、そして物語の戦いなのだ。


(レポートは、ここで終わっている)

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