第9話 魔糸が絡みつく死闘
「これで終わりだなんて思わないでよ――!」
メル・アリアの目が狂気に光る。
彼女の手が激しく空をかき乱すと、張り詰めていた魔糸が急速に伸び、絡まり合いながら周囲を覆い尽くした。
突如、床から巨大な影が立ち上がる。
石壁の一部が動き出し、岩の塊が魔糸によって操られ、まるで生きているかのようにうねり始めた。
「岩人形兵 具現化 出現せよ!!」
鈍い轟音とともに、無数の岩石が体を形作り、巨大な人形の姿となってこちらに迫ってくる。
ゴツゴツとした岩肌はまるで要塞そのもの。
一撃受ければ、体の一部が砕け散ることは避けられない。
エミリーが鋭い槍を構えた。
「ま、また増えやがったか……!」
ティリスも短剣を握り直し、鋭い眼光で岩人形兵の動きを探る。
「狙いは魔糸の根元!切らなきゃまた繰り返すわ!」
二人は絶妙なタイミングで左右から攻撃を仕掛ける。
槍が岩の隙間に食い込み、短剣が魔糸の結び目を断つ。
だが、岩人形兵は倒れてもすぐに再生し、まるで無限に湧き出るかのように立ち上がる。
「止まらない!でも、諦めるわけにはいかない!」
エミリーの叫びに応え、ティリスも剣を構えて前へ踏み出した。
そのとき、背後で低い唸り声が響いた。
「――――!」
振り向くと、背後からメル・アリアの操る人間人形が群れをなして迫る。
「きゃあっ!」
一体がエミリーに襲いかかり、もう一体がティリスの脇を抜けて後方へ回り込もうとする。
「くそっ、分断される!」
エミリーが槍で人形を蹴り飛ばし、ティリスは素早く短剣を振るって前進を阻む。
が、人形は次々と連携し、まるで生きた兵士のように動き回る。
「何度も切っても、糸が繋がる限りあきらめない……!」
メル・アリアの声が、凍りつくような冷たさで響き渡った。
「この魔糸こそ、私の命綱。私の全て……!」
巨大な岩人形兵、執拗な人間人形、魔糸の攻撃。
戦場はますます混沌を極める。
エミリーとティリスは互いの背を預け合い、目まぐるしい攻防を繰り返した。
「今、いける!魔糸の根元を狙うぞ!」
槍と短剣が一瞬の隙を突き、絡み合う糸を鋭く切り裂く。
魔糸が断たれた瞬間、岩人形兵は崩れ落ち、動きが止まる。
「よし……!」
しかしメル・アリアは諦めていなかった。
「これが終わりじゃない……まだ、終わりじゃない……!」
彼女の狂気はさらに燃え上がり、次の策を練り始めるのだった。




