第8話 魔糸を斬り裂け、迫りくるは死と罠!
玉座の間に、重い空気が張りつめていた。
エミリーの槍が雷鳴とともに突き出され、ティリスの短剣が宙を駆ける。
二人はすでに“特攻へと突入”していた。
それはまるで、地獄へと突き進む一閃の稲妻と影の風。
「魔糸、視認できたわ。あの岩も……!」
天井を見上げたティリスの金色の瞳が、糸を張った岩を捉える。
そこには、巨大な岩石が幾重にも浮かび、蜘蛛の巣のように張り巡らされた魔糸に“吊るされていた”のだ。
「人形だけじゃないの!? 岩も操ってるってわけ!」
「落ちてきた岩に当たったら即死よ!!」
エミリーの叫びが響いた直後、パツンッ――!という音が空間に走った。
1つ、2つ……
バラバラと魔糸が自然に断たれ、岩が落下を開始する。
「来るよ!!」
――ドガァンッ!!
瓦礫のように崩れ落ちた岩が、床に大穴を穿つ。
「こ、こんな……こんな舞台装置、聞いてないわよ!」
ティリスは滑るように床を蹴り、別方向から迫る人形の一団の間を抜けた。
背後では人形の一体が落石に巻き込まれ、木端微塵に砕け散った。
「止まるな! 止まったら終わる!」
エミリーの雷槍が閃き、魔糸をひとつ、またひとつと焼き断っていく。
落下を始めた岩の軌道を計算し、寸前で回避。
その槍先はまさに、命綱そのものだった。
「……やめて、やめて来ないで……!!」
玉座の階段の上にいるメル・アリアの顔に明らかな恐怖の色が浮かんでいた。
「私の人形たちが……!」
魔糸の数が目に見えて減っていく。
それはすなわち、彼女の支配の領域が縮んでいくことを意味していた。
「そっちがどれだけ舞台を用意しても関係ない!」
ティリスが叫ぶ。
その声は、崩れかけた天井にも響き渡った。
「私たちはね、誰も操られたくなんてないのよ!!」
そして、両翼の女戦士が―
炎と稲妻とともに、玉座に座す人形姫に向けて、最後の刃を走らせた。
魔糸が切れるたびに、岩が落ち、瓦礫が砕け、戦場が変化していく。
しかしその中でも、エミリーとティリスは迷いなく、ただ一直線にメル・アリアの元へと進んでいた。
メル・アリアの掌が震える。
(やばい……やばい……このままじゃ……!)
冷や汗が頬をつたう。
自分が創り上げた“舞台”が、支配を拒絶する者たちによって壊されていく。
彼女の瞳に浮かぶのは、支配者の“狂気”と、少女のような“怯え”が入り混じった、ねじれた光――。
勝負はまだついていない。
しかし、魔糸が断たれるたびに、彼女の“孤独”が露わになっていくのだった。




