第5話 逃ゲル=マラソンのラストRUN
その戦いは、もはや闘争というより、持久戦の地獄のマラソンだった。
逃ゲル=マラソン(デフリー命名)は、ホブゴブリンの玉座の間へと続く一本道へと至り、
ついに終盤戦ラストランへと差し掛かる。
全身から煙を上げて肩で息をするコニちゃん。
脂肪が波打ち、膝が笑うデフリー。
「おいコニちゃん、走るって……しんどいな……」
「わたし、こんなに汗かいたの人生初めて……でも汗がすぐ炎で溶けちゃう……」
その道の先、玉座の間では
人形姫メル・アリアが光輝く人間人形たちを操り、
エミリーとティリスが怒涛の迎撃戦を繰り広げていた。
「そこっ!」
ティリスの矢が飛び、幻影を突き破る。
「逃がさないッ!」
エミリーの尾がしなり、突進してきた人形の胴体を叩き割る。
ふたりは汗に濡れ、呼吸を荒げながらも、ひとつの言葉を信じて戦っていた。
「がんばれエミリー!ティリス!ここが正念場や!!」
入口から、コニちゃんとデフリーが息を切らしながら叫ぶ。
ティリスが笑顔で振り返る。
「応援有難う…あなたたちも、マラソン最後まで頑張りなさいよね!!」
「ひぇぇぇ、そう来ると思ってた……」
その背後。ついに
「……もう逃がさねぇぞ、コラァ!」
黒月の剣士ミカヅキ・ユウトが、ついに姿を現した。
刀を引き、口から白い息を漏らす。
逃げ場は、ない。
玉座の間に踏み込んだデフリーとコニちゃんの視線が、
玉座に座る“誰か”に吸い寄せられる。
そこには、まるで女神のように光輝く存在
「……お母さん……」
光の粒子でできたお母さん人形が、ユウトを見つめていた。
「優斗、負けないで」
その声は優しく、温かく、懐かしい
心に刺さるその声に、ユウトの目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「うぅっ……お母さん……見ててください……!」
ユウトの手が《朧月》の柄に伸びる。
次に放つは、 最終奥義《終ノ月閃》
その瞬間。
「デフリー、今や……今やるしかない!」
「マジかよ……これやるのか……!? 俺のプライドどこ行ったんや……!?」
涙を流すユウトの背後で、最後の“合体技”の準備が始まった。
コニちゃんが言う。
「護に言われたでしょう……“お前らにしかできん技がある”ってな!」
「……しゃあない、やったるわ!」
デフリーちゃんが構えた。
トロール・インフェルノ【火炎腸撃態勢】
オークロード・デフリー【強風導爆陣】
ふたりの気がひとつになる
「ゲロゲップ!」
ゲロゲロゲロゲロゲレレエーェエエ!
デフリーが口から強烈な臭いするゲロとゲップを吐き出した。
ユウトの《終ノ月閃》が放たれる瞬間、
背後から
メガトン級の異臭が襲いかかる!!
「ぐはっ!?な、なにこのクッサァァァァア!!!」
デフリーの涙と共に、空気を裂く死の臭気!
黒月の剣士ユウトは思わず顔をしかめて鼻がゲロの匂いで麻痺する。
戦場は、デフリーが口から出したゲロがぶちまけられた。
食べ物の腐った匂いが戦場に超強力な豚の異臭が放つ。
そうこれは、恥もプライドも捨てた。まさに捨て身の作戦。
「お母さん……ゲロ見ないでぇぇぇぇぇ!!」
コニちゃんが叫んだ。
地面はゲロまみれとなり滑りやすくなり足場が悪くなった。
玉座の間で、運命の戦いがまろうとしていた。




