第7話 あの男の正体
古代魔女マーリンのほこらを後にした俺たちの前に、
いつものように、黒いフードの男が立っていた。
闇ギルド《ドレッドバインド》の仲介人を名乗るその男の名はギル。
「どうやら……準備が整ったようですね。」
「勇者アレスの転生者たちが、あなた方を“ホブゴブリンの洞窟”でお待ちです」
月明かりの下で告げられたその言葉に、
俺たちの全身を、ひやりとした空気が包み込んだ。
その場に、誰の声もなかった。
沈黙を破ったのは、進化したゴブリンロード・護だった。
「……勇者アレスの転生者たちってことは、人斬りユウトと……人形姫メル・アリアもいるのか?」
ギルはゆっくりと微笑んだ。
「ええ、そうです。さすが護さま。お察しがよろしくて、非常に助かります」
だが、その軽口を、護の目はまっすぐに刺し貫いていた。
「お前……いつも出てくるタイミングが良すぎる。
毎回俺たちの前に現れて、導くような真似をして……何者だ」
ギルの笑みは深まる。
「……やはり、あなたには隠し通せませんでしたか、勇者は騙せましたがね。」
その瞬間、空気がはじけるように変わった。
ギルの体が、コードのような光の帯に包まれ、
その姿が崩れ、―再構成されていく。
鎧のようなメカ構造、仮面のない能面のような白い顔、
そして背には銀色のワイヤーフレームが揺れていた。
「名は、創造神《セフィロス=コード》と申します」
無機質なその声は、確かに――神のものであった。
「……ギルというNPCはこのゲームには存在しません。
あれは私が造り出した、転送者を導くための役割です」
ティリスが、わずかに目を見開く。
「じゃあ……あんたは、この世界そのものを――?」
「そう。私はこの世界を作り、監視し、更新し続ける、このRPG世界の創造主。
転送者、すなわち“異世界転生者”を、この地に呼んだのも、すべて私です」
護は、一歩前に出た。
「……じゃあ、聞こうか。勇者アレスたちの転送者に、俺たちが勝ったらどうなる?」
セフィロス=コードは、静かに右手を差し出し、
空間に“ファイル”のようなデータの光を浮かび上がらせる。
「転生者をすべて倒したその時、私は本当にお前に、“望むすべて”を与えよう」
「望むすべて……?」
「この世界での王座、
死者の蘇生、
破壊の力、
あるいは、転生のやり直し
すべては“ゲームマスター”である私の一存で、可能になるのです」
エミリーが呟いた。
「まるで……最後のラスボスみたいね……」
「違うよ」
と、護が応える。
「こいつは“ゲームそのもの”だ。……だったら――」
コニちゃんが拳を鳴らす。
「勝って、クリアしてやるだけや!!」
セフィロス=コードは何も言わなかった。
ただ一礼して、空間の裂け目へと姿を消していく。
そこに残ったのは、黙示と戦慄――
次に目指すべき地、ホブゴブリンの洞窟。
そこには、黒月の剣士ミカヅキ・ユウト。
人形姫メル・アリア。
そして……転生勇者アレスが待っている。
第十二章 完結




