第2話 虫は食べたくない 無理なものは無理
◆超進化スープ 具材リスト◆
①【追獄獣バルグルムの「執念の瞳」】 GETだぜ!
②【四脚鎧蟲スパルディオ虫の「硬殻神経核」】◀(挑戦中)
③【喰雷鳥クルバクの「放電羽」】
④【紅眼熊ルガンの「逆鱗」】
⑤【地裂魔牛ゴルマーダの「震脚蹄」】
「いやもう、これだけは言わせてくれ。虫は無理。ガチで無理。焼いても無理だからビエエエエーン。」
そう叫んだのはコニちゃん火トロールの暴れん坊である。
普段は火を吹いて魔物も丸焦げにするくせに、今日は大きな岩陰に縮こまっていた。
「……おいコニ、トロールだろ、お前。山で生きてて、そんなんでよう今まで生きてこれたな」
護がため息をつく。
その前にいるのは、巨大な虫型モンスター。
四脚鎧蟲《スパルディオ虫》体長3メートル。
鈍く黒光りする甲殻を持ち、全身を金属のような棘で覆われている。
「こっちくんなこっちくんなぁぁああああ!!!」
コニちゃんが火炎放射で応戦。
虫は悲鳴を上げることもなく、そのまま黒煙とともに崩れ落ちた。
「よっしゃ、焼き殺し完了!」
デフリーが焼け焦げた虫の死骸を指さして言った。
「さて……誰が食う?」
……沈黙。
全員が顔を見合わせた。
いや、見合わせすらしなかった。誰も視線を合わせようとしない。
「……無理です」
護が断言した。
「虫の脳みそだぞ?《硬殻神経核》だぞ? 脳みそだぞ?」
「どんなソースかけても脳みそは脳みそやで……」
◆ただし、2名除く。
「私はいけるわ。むしろ楽しみ」
ダークエルフのティリスがさらりと呟いた。
「私も。焼き虫は日常よ」
リザードマンのエミリーがにっこり笑う。
「……え?」
一同が固まる中、二人の“森の民”が着々と調理を始めていた。
ティリス&エミリーの虫グルメ女子会!が始まりました。
「はい、これ! スパルディオの触脚グリル~♪」
「こっちは神経核のスモーク仕立てよ♪♪」
ティリスとエミリーは手際よく虫の部位を捌き、
丸焼き、香草焼き、燻製風、パリパリ揚げと、次々に変態的……いや、美味しそうな料理を生み出していく。
「あっ、この脚の関節、ぷりぷりしてて美味しい~♡」
「こっちの中脳、ほんのりビターで赤ワインに合いそうね♪」
なんかもう、女子会ノリである。
「さすが森の守り人エルフ……」
「舌のレベルが昆虫学者や……」
護とデフリーは、遠巻きに眺めながらうめいた。
一方コニちゃんは完全に茫然自失。
「もう寝るぅ……虫の夢見るぅ……」
と、丸太に顔をうずめていた。
ティリスが虫の頭部を慎重に割り、「硬殻神経核」を手にする。
「はい、これでスープ具材2つ目。いけたわね」
「やっぱ虫はスパイス効かせるのが大事よ」
「さっすがエミリー、リザード界の鉄板焼きクイーンね♪」
ぺちん、とハイタッチを交わす虫グルメ女子たち。
その光景に、護はただ一言、つぶやいた。
「おれ、次の魔物は……せめて哺乳類がいい」
Gを思い出す。
虫はやはり、気持ち悪いと思う護であった。




