第1話 追獄獣と指名手配犯
◆超進化スープ 具材リスト◆
①【追獄獣バルグルムの「執念の瞳」】◀(挑戦中)
②【四脚鎧蟲スパルディオ虫の「硬殻神経核」】
③【喰雷鳥クルバクの「放電羽」】
④【紅眼熊ルガンの「逆鱗」】
⑤【地裂魔牛ゴルマーダの「震脚蹄」】
「はぁーはぁーはぁー命からがら、なんとか倒せたなぁ……」
谷間に地響きが収まり、砂塵の中に巨大な魔獣の死体が横たわった。
追獄獣赤黒く光る瞳と凶悪な牙を持つ、執念の魔獣だ。
その額に、一本の光の剣が深く突き刺さっていた。
ゴブリン騎士の姿をした男、護が、それを握ったまま膝をつく。
「くそ……重かった……」
周囲では、パーティーメンバーが次々と座り込み、息を整えている。
ダークエルフの狙撃手ティリス、火トロールのコニちゃん、魔術師のエミリー、そして回復役のデフリー。
「さぁ、料理の時間やで――!」
その声は、どこか嬉しそうに響いた。
回復専門のデフリーは、戦闘中ずっと岩陰で身を潜めていたため、体力満タンである。
(戦闘は不得意でも料理は得意それがデフリー)
「今日はなぁ、バルグルムのホワイトマスタードソース煮込みやで!
みんな、これ食べて元気出しぃや!あと4体もS級の魔物を倒さなきゃいけないんだからなぁ!」
「し、信じられん体力だわ……」
ティリスがゼェゼェ言いながら、エミリーの肩にもたれる。
コニちゃんは寝転びながら「おなかすいたー!」と連呼していた。
◆調理開始
デフリーは素早く食材の選別に取りかかる。
魔獣の目をくりぬき、「執念の瞳」として魔法保存容器に収めると、
肉の柔らかい部位を選び、湯通しして血抜き。
「大事なんは、ここやで。手間を惜しむな。料理は“敬意”やからな」
鉄鍋を取り出し、野草を刻んで油で香り立たせる。
次に白ワインを注ぎ、粒マスタードと山牛のミルクを加え、煮込みソースを完成させる。
最後にバルグルムの肉を厚切りにし、表面を焼いてからソースとともに煮込む。
香りが辺りに漂い始める。
「仕上げに、魔晶塩をひとつまみ……っと。はい、完成!」
鍋の中には、ほろりと崩れる柔らかさの肉と、香ばしくクリーミーなマスタードソース。
「料理は愛情。端正に、丁寧に、美味しくいただく。
それが戦士の礼儀やろ」
デフリーがいつものように、決め台詞を放つ。
「いっただきまーす!!」
コニちゃんが元気よく叫び、みんなも笑いながらスプーンを手に取った。
魔物の瞳バルグルムの《執念の瞳》。
それは超進化スープの具材、第一のキーアイテムだ。
あと4体。だが、ここで一息つける。
護は少し山を下り、人間の城壁の近くまでやって来た。
腰を下ろし、背中を壁に預けると、何気なく掲示板に目をやる。
そこにあった。
【指名手配通達】
名:ミカヅキ・ユウト
罪状:王国騎士殺害、王命への反抗、王都秩序の撹乱
賞金:金貨3,000枚
※生死問わず
護は眉をひそめる。
「ミカヅキ・ユウト……この名前を、俺は知ってる。ゲームで何度も戦った相手だ。かなり強い。」
黒月の剣士ユウト
《朧月》という呪われた黒刀を使い、
一瞬の光のような《月閃》、そして影の斬撃《影閃》を駆使する孤高の剣豪。
「対策……考えとかな。
たぶん味方にはならんやろ。むしろ、こっちが“狩られる”かもしれん」
護の目が鋭く光る。
「四人目。
孤高の剣士、“ユウト・ミカヅキ”。
剣の力だけを信じ、いかなる陣営にも属さず、ただ強者との死闘を求めて彷徨っている。
出会えば――君たちも、例外ではない」
護は魔王のことばを思い出していた。
静かに掲示板から目をそらし、護は立ち上がった。
風が吹く。超進化スープの旅は、まだ始まったばかりだった。




