表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5万4千PVアクセス突破 全話 完結】『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』  作者: 虫松
第十一章 孤高の転生剣士

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/160

第5話 転生勇者と転生剣士との対話

馬車の揺れが続く。

窓の外は夜の闇に包まれ、鈍い揺らぎがユウトの意識を揺さぶっていた。


賞金首として狙われ、命からがら逃げ続ける日々だが今、彼はある場所へ連れて行かれている。


扉が開き、冷たい石の床に足をつける。

辺りを見回すと、豪奢な白銀の柱と魔力灯が光を放つ広間。

彼を待っていたのは、若い青年と人形のような少女だった。


「おう、ワイが勇者アレス・ヴァンガードや!転生前は南城大我っちゅうねん。まあ、転生しても根っこの性格は変わらへんわ!」


「人斬りユウト、お前さん、そないに人間信じられへんのか?せやけどな、ワイら転生者は仲間や。信じあわんことには何も始まらへんで」


ユウトは身構え、冷たい声を吐き捨てる。

「人間なんて信じない。俺は誰も信じねぇよ。」


人形のような少女が一歩前に出る。


「あなたの哀しみ、私なら分かるわ」


その瞳は静かに、しかし深くユウトの心に触れた。


「私も一人で、誰にも看取られず死んだ。孤独だった」


彼女が手をかざすと、緑色の魔法の糸が垂れ下がり、優しい笑みの女性人形が現れる。


「この子が、あなたのお母さんになってあげる」


ユウトはその人形を見て、忘れかけていた母の面影を重ねた。


胸の奥の扉が開き、抑えきれぬ感情が溢れだす。


ユウトの意識は激しく揺れ、気づけばあの頃の7歳の少年、斎藤優斗の姿に戻っていた。


薄暗い部屋の隅で、震える小さな体が震えている。

痛みと孤独に押し潰されそうな幼い優斗は、必死に涙を堪えられず、嗚咽をあげた。


「おかあさぁん……おかあさぁん……」


涙でぐしゃぐしゃになった顔を、メル・アリアが作り出した、淡い光の女性人形に押しつける。

その人形は優しく手を伸ばし、優斗の髪を包み込むように撫でた。


「もう一人じゃないわ、優斗」


幼い声で呼びかけられた少年は、しゃくりあげながらしがみついた。


「怖かったよ……お父さんが痛いことばっかりして……なんで……お母さんは帰ってこないの……?」


声が小さく震え、涙が止まらない。


「お腹もすいて……痛くて、寂しくて……」


メル・アリアの人形はまるで本当の母のように、その背中をゆっくりと撫で続けた。


「大丈夫よ。ここにいるわ。もう怖くない」


優斗は泣きながら、震える小さな腕で人形をぎゅっと抱きしめた。


「おかあさーん……」


何度も何度も呼びながら、少年の涙は止まらなかった。

その姿は、今も変わらぬ「誰かに守られたかったただの子供」だった。


泣きじゃくるユウトを、光り輝く女性の人形が優しく抱きしめた。

メル・アリアは満足げに微笑んだ。

その掌の上で、ユウトの心は少しずつほぐれていく。


「おれは……ずっとひとりだった……孤独だった。」

ユウトは嗚咽をこらえきれずに大粒の涙を流した。


メル・アリアの美しい顔に、徐々に異様な光が宿った。

その紫の瞳は妖しく煌めき、まるで深淵の闇がそこに映り込むかのようだ。


口元は微かに歪み、ゆるやかに笑みが広がる。

だがその笑みは慈愛とは程遠く、冷酷な支配者のそれだった。


「ふふ……やっと、私のものになったわね」


彼女の声は甘く、だが底知れぬ狂気を帯びている。

その眼差しは、ユウトの心を完全に掴み、自由を奪ったことへの歓喜に満ちていた。


まるで美しい毒蛇が獲物に巻きつき、逃れられぬ縛りを愉しむように。

メル・アリアはゆっくりと両手を広げ、優しくも冷徹な支配を誇示した。


「これからは……あなたのすべてを私が導いてあげる」


彼女の狂気は、暗い微笑みとともに、周囲を重く濃密な空気を落とした。

アレスはユウトを見て、にやりと笑いながら言った。


「泣き虫ユウトやて?そらまあ、ええやんか。誰だって弱い時はあるさかいにな

これからは一緒に戦わなあかん。転生勇者や、遠慮せんとワイらに任せとき!」


ユウトは涙にくしゃくしゃの顔をあげ、怒りと複雑な感情が入り混じる声で言った。


「勝手に仲間にすんな……だが、少しだけ……“話を聞いてやる”」


三人の転生者が、歪んだ運命の糸で繋がった瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ