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【5万4千PVアクセス突破 全話 完結】『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』  作者: 虫松
第十一章 孤高の転生剣士

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第3話 人斬りユウト

この世界にも、一応“秩序”というものは存在しているらしい。

石壁に囲まれた王都〈レヴィン〉には門番の兵士たちが立ち、通行人を監視している。建物には区画整理がされ、広場には市場が並び、国王の肖像が街角に貼られていた。


……だが、秩序があるからといって、善良であるとは限らない。


(見た目が三十代の“おっさん”ってだけで、妙に周囲が丁寧だな)


俺――ユウト・ミカヅキは、転生者だ。

7歳で死に、32歳の肉体と剣の技を持ってこの世界にやってきた。

黒衣をまとい、腰には漆黒の刀《朧月》。不審者として排除されてもおかしくないが、どうやらこの世界は「力」に甘いらしい。


昼も過ぎ、町を歩いていると、ふと古びた酒場が目に入った。

店名もない。扉だけが静かに開いている。


(……ちょっと、飲んでみるか)


木造の店内は少し埃くさく、数人の冒険者風の連中がテーブルを囲んでいた。

カウンターに座り、適当に注文したのは《レヴィン・エール》。

酒場の名物らしいが、出てきたそれは土色の液体で、においは発酵した雑巾のようだった。


「……まずっ」


一口で顔をしかめた。


(親父は……こんなもんで、酔って暴れてたのか)


その瞬間、記憶の奥に沈んでいた男の顔が浮かんできた。

酒くさく、乱暴で、怒鳴り声と共に振るわれる拳。

母が去り、俺が飢えて死ぬまでの、地獄のような日々。


胸の奥から、冷たい怒りが湧いた。


「……やっぱ、クソだな、酒なんて」


金を投げて席を立ち、酒場を出た。

通りは夕暮れ。赤い陽が石畳に影を落とす。


そのときだった。


「や、やめてくださいっ!!」


悲鳴。女の声。


駆け寄ると、広場で数人の王国騎士たちが一人の妊婦の女性を取り囲んでいた。

剣が抜かれ、冷酷な視線が彼女を貫いている。


「王の馬車が通る道を無断で横切った罪、重いぞ」


「ちがうっ……病院へ……急いでて……!」


(は? それで“処罰”か?)


見れば、道の奥から装飾過剰な金の馬車が近づいてくる。

兵士の一人が拳を振り上げたその瞬間、俺は飛び出していた。


「……やめとけよ。そいつを殴ったら、お前らが死ぬ」


「誰だっ、貴様!」


「ただの通りすがりさ。だが女性が暴力を振られる姿は、俺は、もう見たくない」


騎士たちが一斉に俺を取り囲む。


(……じゃあ、見せてやるか。俺の“影”を)


「――《影閃えいせん》」


その瞬間、俺の身体が影に溶けた。


空気が張り詰める。視線が宙を泳ぐ。

次の瞬間――


“スパァッ”


ひとり、またひとりと騎士が喉を押さえて崩れ落ちる。

残像もない。音もない。ただ、黒い影が走っただけ。


「どこだっ!? どこに……!」


「……真後ろだ」


最後の兵士が斬られた時、俺は刀を納めていた。


(これが《影閃》。影と共に動き、気配も足音も消す。ただの剣技じゃない暗殺武術)


静かになった広場に、金の馬車が止まる。

中から現れたのは、派手な服に身を包んだ小男。

王冠をかぶり、いかにも「おれが王様」って顔をしていた。


「貴様っ……王国の兵を手にかけて、ただで済むと思うなよ!」


「俺は、ただ“守った”だけだ。……あんたの秩序ってのは、人を殺してでも保つもんか?」


「黙れえぇぇぇぇっ!!」


王は怒りに顔を赤くし、吐き捨てるように言った。


「貴様を全国に指名手配者として、全国に通達してやる!」


……ああ、そうか。


俺には“居場所”なんて、最初からなかった。


「それでいい。誰かに命令されて生きる気なんて、さらさら無ぇ」


女を安全な場所まで支え、静かに広場を去る。

夕暮れの中、俺の影だけが長く伸びていた。


こうして、俺には名がついた。


人斬りユウト。


だがそれは、ただの異名にすぎない。

この世界の“闇”に抗おうとする、ひとりの転生者の物語の始まりだった。


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