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【5万4千PVアクセス突破 全話 完結】『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』  作者: 虫松
第十一章 孤高の転生剣士

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第1話 愛をください。

過去の回想 斎藤優斗として記憶


部屋の片隅に、うずくまる少年がいた。

名は斎藤優斗さいとうゆうと。七歳。


壁は薄汚れ、床にはカビが生えたパンのかけらが散らばっている。蛍光灯の明かりはとっくに切れ、部屋はほの暗く、季節外れの寒さが隙間風と共に忍び寄っていた。


母親はもう、いなかった。

優斗が五歳の冬、父の怒鳴り声と共に、母は台所の皿を割って家を飛び出した。その背中が、最後だった。


そして残されたのは、父と優斗。


「金がねえのは誰のせいだっ! てめえが泣くから母ちゃんは――!」


拳が飛ぶ。足が飛ぶ。優斗の身体は小さな紙くずのように床を転がった。痛みはもう慣れた。泣かない。ただ、耐える。


優斗は知っていた。父はもう、壊れていた。


仕事はとっくに辞めていたらしい。昼間から酒を飲み、寝て、起きて、怒鳴って、殴る。時には優斗の名前すら思い出せない。


ごはんが、たべたい。


言ったこともある。でも、答えはいつも決まっていた。


「じゃあ働け。てめえが生まれたから、オレの人生は終わったんだよ」


ある日、父は帰ってこなくなった。


一日目。何も食べずに待った。

二日目。水道の水だけを飲んだ。

三日目。床に落ちたパンくずを舐めた。

四日目。もう、立てなくなっていた。


それでも、優斗は誰かが来てくれるのを信じていた。

「誰か、助けて」

か細い声は誰にも届かず、窓の外では車の音が遠ざかっていった。


そして、七日目の朝。


冷たい朝日が差し込む中、優斗はひとり、眠るようにその生を終えた。





……静かな風が、草原を通り抜ける。


少年は、白い光の中にいた。温かく、心地よく、どこまでも静かな空間。痛みも、飢えも、涙も、もうなかった。


「……ここ、どこ……?」


やがて、目の前に現れたのは、ローブを纏った一人の女性だった。髪は銀色に輝き、瞳は水晶のように透き通っていた。


「あなたの魂は、別の世界へと導かれます。……今度こそ、幸せになって」


彼女の手が優しく触れる。

その瞬間、優斗の心の奥で、凍っていたものがわずかに溶けた。


「愛を、ください……」


その小さな願いを胸に、少年は光の中へと還っていった

そして、新たな名を得る。


ユウト・ミカヅキ。黒月の剣士。


挿絵(By みてみん)


誰も信じず、ただ己の剣だけを信じる孤独な孤高の戦士が、やがてこの世界で運命を切り開いてゆくことになる。


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