第6話 「巨大な蛇のアナコンダは〇肉の味」
魔女のほこら・地下3階。
湿った空気とキノコの胞子が漂う、ぬるぬるした洞窟。薄暗く、壁には不気味に光る苔がへばりついている。
「うっへぇ〜、この奥にも魔女おるんかいな……」
と、デフリーは鼻をつまみながら歩いていた。
「なんでさっきからこいつ、キッチンに入るテンションで進んでんのよ」
エイミーが小声でぼやいたが、本人は全く気にしていない。
「あ〜腹減ったなぁ……このへんに食べられそうなもん落ちてへんかな〜♪」
などと言いながら、湿った地面のキノコをむしって口に運ぼうとした——そのとき。
ズルリ……!
背後で、地面が「動いた」。
いや、正確には地面に擬態していた巨大な何かが、デフリーの足元を包み込んでいたのだ。
「ん? ……んんんんんっ!?!?!?!?」
見ると、胴体だけで太鼓のような太さの巨大アナコンダが、とぐろを巻いてデフリーの体をぎゅうぎゅう締めていた!
「ウッソやろおおぉおお!? 俺、メインディッシュにされとる!?!」
目がぐるぐる回るデフリー。
「みんなぁあああああああああああああ!!! 絞まってる! 俺、しぼまってるぅううう!!!」
「なにやってんのあんた!?」
コニちゃんが振り返った瞬間、悲鳴を上げた。
「う、うわあああああああ! なにあの生きるブラックソーセージ!!」
「ふふ、でも……」
ティリスがつぶやく。「案外お似合いね。食われる料理人なんて、もう芸術の域よ」
「ええかげんに助けてぇやぁああああ!!!!!」
そんな中、冷静に状況を分析していたのはエミーだった。
「……蛇はね、温度変化に弱いのよ」
静かに指を鳴らすと、空中に魔法陣が展開される。
「アイス・スパイク——スプラッシュ・フリーズッ!!」
冷気がアナコンダの体を包み込み、一瞬で凍てついた。
ギギギ……ピキィィィィン!!
締め付けの圧が一気にゆるみ、デフリーがぶわぁっと吐き出されるように地面に転がる。
「し、死ぬかと……思った……胃液のにおいしたで……」
「もうちょいでデフリー丸食いやったな」
護が苦笑する。
デフリーはうずくまりながらも、ふとアナコンダの死体に目をやると、
「でも凍ってるから調理しやすいかも!」
と早速、《魔法鍛治包丁:アマトゥス》を取り出したのだった。
蛇料理、調理開始やで~
ガスバーナーの代わりに火魔法、
冷却にはエミーの氷魔法を使って、洞窟が一夜限りの高級厨房と化す。
「まずはお決まり、生き血のカクテルやでぇぇぇっ!!」
赤ワインのような見た目にレモンを絞って――誰もがちょっと引いた。
「うう、私は無理……」
コニちゃんがぷるぷる震えているが、デフリーはお構いなし。
「次! 蒸した蛇肉を細く裂いて、アジア風の冷菜。パクチーとナンプラーでアジアの風味や」
「これは……さっぱりしてて美味しいわ」
エミーも満足気。
「揚げ春巻きの中には刻んだ蛇肉とニラと春雨やでぇぇえっ! まさかこんなに合うとは!」
そしてメインイベント。
「蛇肉の鍋やッッ!! このスープのコク見てや! 白濁しとる!!」
グツグツと湯気を立てる鍋には、蛇肉・山菜・きのこ・スパイス・そして……謎のヒル。
「これがまたええダシ出すねん。お前のこと好きちゃうけど、隠し味のヒル、お前だけは認めるで」
宴が最高潮に達したそのとき――
「……なんか、蛇肉って……ちょっと……人間の味に似てる……かも」
コニちゃんがぽつりと呟いた。
「おおおいぃぃいい!?!?」
護とエミーとティリスが同時に箸を止めた。
「護は元は人間なんやで、コ、コニちゃん、それだけは言ったらアカンやつや……っ!」
「……でも、美味しいね♡」
コニちゃんの笑顔に、全員が複雑な顔で頷いた。