第4話 神を喰らう転生勇者
魔島ネパーアイランド。
崩壊した大地に、ただ一人立ち尽くす南城大我、勇者アレス。
「魔王倒したでぇー!やった。俺の勝ちや!」
魔王レグナ=ヴァル=ノクトとの死闘の末、黒煙の中で勝ち名乗りをあげ剣を掲げたその姿は、まさに“伝説の勇者”の姿であった。
「ふはっ……ようやく……これで全部終わり、か?」
しかし、彼は知っている。
終わりではない。
それは、始まりの音だった。
アレスは空を見上げ、嘲るように言い放つ。
「……出てこいや、“神”さんよ」
その瞬間、世界が静止した。
雨粒が宙に浮き、雷鳴がフレームごと凍りつく。
「それ」は、空の亀裂から降臨した。
コードと機械鎧をまとい、無表情の仮面を戴いた神。
名は――創造神セフィロス=コード
「……よくぞ、ここまで辿り着いたな。勇者、南城大我」
その声は機械と祈りの融合、無慈悲でいて神聖な音響。
アレスは、剣を肩に担いだまま、にやりと笑う。
「へっ、ようやく“黒幕”のお出ましかい」
しかし、神はアレスを責めなかった。
むしろ、その目は――讃えていた。
「見事だ、勇者アレス。南城大我。
お前こそが、私が待ち望んでいた“想定外の変数”」
神の言葉は、静かに、しかし熱を帯びていた。
「勇者が世界を救い、魔王を討つ……そんな“予定調和”を私は望んでいなかった。
私は、そういったストーリーに疑問を抱いていた人間だ。……この世界の開発者:今田敏夫として」
「俺の、前の世界での名前……聞いたことあるわ。お前……開発者の一人か」
「そうだ。だが、私は会議で敗れた。“王道”を強要された。
だからこの世界に“隠された可能性”を埋めたのだ。
3年後、自らの死をもって“バグ”を起動させ……転生者たちを送り込んだ」
「まるで……神様が世界の答え合わせをしてるみたいやな」
神は、わずかに仮面を傾けて微笑むように言った。
「その通り。だが……お前はその中で最も破壊的で、最も美しかった」
「え?」
「この“世界”を自分のものにしたいと願い、
定められた運命を破壊し、シナリオから逸脱し、神に届く者となった」
空が虹色のエネルギーに満ちる。
それは祝福の光――創造神の《称賛》だった。
「勇者アレス。私の望んだ通りの世界に、お前はこの世界を破壊し導いた」
「……へへ、やっぱ俺が主役やんけ」
「だが試練は終わらぬ。残された“五人の転生者”、最後の転生者、ユウト・ミカヅキ に会うのだ。
そして、お前がホブゴブリンの護を倒したとき、私は本当にお前に……“望む全て”を与えよう」
アレスの瞳が光る。
「楽しみやな、セフィロス=コード……いや、“今田敏夫”」
「その名を呼ぶのはお前が初めてだ。誇れ。
この世界を喰らい、神に挑む存在。 南城大我、勇者アレスよ」
アレスは剣を振りかざし、血と炎に染まった大地に一言だけ、宣言を刻む。
「ならこの先も、俺の物語で塗り替えたる。
あんたの創った物語すら、ぶっ壊してな!」
その瞬間だった――
胸に光の剣が刺さり倒れ伏していた魔王レグナ=ヴァル=ノクトの瞳がかすかに動き、かつての“仲間”を思い浮かべるように
微かに笑った。
「護……あとは、お前に託す。この世界を」
その言葉は誰にも聞こえなかったかもしれない。
だが確かに、大地に残る最後の魔力の波動として、
魔族の希望の継承者に向かって伝わっていた。
そして物語は、もう一人の主人公へとホブゴブリンの護へと繋がっていく。




