第2話 ゲームシナリオにない戦い
場所は、魔島ネパーランド。
黒い霧に包まれ、常に稲妻が海を裂く、偽りの楽園。
その中心雷鳴轟く空の下、今まさに、伝説に刻まれるはずの“想定外”の戦いが幕を開けていた。
向かい合うは、
狂気と栄光をまとった転生の勇者アレス
この世界の最後のボス、魔王レグナ=ヴァル=ノクト
そしてその戦いを、まるで舞踏会のプリンスを見守る姫のように眺めていたのは、
魔島の支配者、狂気の魔導人形こと、メル・アリアだった。
「……あぁ、なんて素敵なの、勇者様……」
彼女は、地面に頬をすりつけながら悶えていた。
その白磁の肌と、紅い瞳は、どこか壊れた陶磁器のようで。
「勇者様が、私のために、魔王を殺してくれるの……? 私……まるで囚われの姫よ……」
その頬は紅潮し、瞳は熱に濡れていた。
戦いの始まった。
「さぁゲームの続きや、魔王ちゃん」
アレスが剣を構える。
「ここで貴様は死ぬのだ ゲームオーバーだ。勇者よ。」
魔王レクスは、漆黒のマントを翻した。
そして、
「《黒雷よ、我が魂に刻まれし死の印を解き放て》」
魔王レクスの手が天に掲げられる。
「《深淵解放陣・レクス・ヴォルグ》――!」
魔力の陣が地に刻まれ、全身に闇の稲妻が迸る。
身体を蝕む強化魔法――それは、自らの寿命すら燃やす破滅の術。
「魔力を……自らの肉体に捧げるだと!?」
アレスの瞳に、一瞬の驚愕が走る。
だが
「おもしろいやないか……上等や!!」
アレスが消えた。
「《空間接続術・疾風閃歩》!」
瞬間移動と同時に、魔王の背後に現れる。
「喰らえや!! 《光牙剣・ムラクモ》!!」
振り下ろされる剣――しかし、
「甘い」
魔王レクスはその動きを読み切っていた。
体をひねり、剣を回避。反撃の詠唱を即座に口にする。
「《闇よ、牙を剥け――黒雷槍・サンダーヴォルト!!》」
バリバリバリバリバリバリ――ッ!!!
稲妻がアレスを貫く。爆発する黒い雷が地を割り、周囲の岩が粉砕される。
「があああああっ!!!」
アレスは黒焦げて苦痛にのたうち、地を転げた。
「……だ、駄目……」
崩れ落ちるアレスを見て、メル・アリアの瞳が揺れる。
「……そんなの、そんなのって……ないよ……」
彼女は、自分の胸を抱きしめながら呻いた。
「勇者様は、私だけの……この世界の主人公なのに……!」
ぽたり、ぽたり。
彼女の目から零れるのは、涙ではない。黒いマナだった。
「勇者様が負けるなんて……そんな物語、私は認めない……!」
ガシャリ、と音を立てて、彼女の背後から異形の人形兵たちが姿を現す。
無数の魔糸が空間を裂き、彼女の背に集束していく。
「行くわよ、勇者様。あなたの姫が、今……物語を、書き換えるから!!」
彼女は空に向かって叫んだ。