第1話 真実の告白
ゲリラ豪雨が止んだ。空が青さをとり戻す。
魔王の移転ゲートが光の粒となって空に溶けていくのを、二人の男が見つめていた。
一人は、血で染まった光の剣を握る狂気の勇者アレス。
もう一人は、漆黒の鎧を外套をまとう、魔王レグナ=ヴァル=ノクト。
「……移転魔法は、完全に途切れた。しばらくは戻ってこれん」
「魔王がこの世界に直々に現れるとはなあ。予想外やで」
「南城大我こと勇者アレス。貴様を止めるために、我は命を賭してここに来た」
「だが、その前に話さねばならぬ。この“世界”の始まりと、すべての運命を操る“唯一神”の正体を」
アレスが眉をひそめる。
「はぁ? 神の話か? 興味あるやんけ。面白くなってきたわ」
すると魔王は、静かに語りはじめた。
■回想:創造神セフィロス=コードの正体
かつて、現実世界に一人の男がいた。名を今田敏夫35歳。。
長年ゲーム開発会社ミラージュコードに勤め、業界でも屈指の技術と設計力を誇るディレクターだった。
だがその表情には、喜びも誇りもなかった。
「……また、“勇者が魔王を倒す”だけの、テンプレシナリオか」
深夜1時を過ぎた会議室で、プロデューサー陣が笑いながら語る。
「今田さん、あんたのシナリオは暗すぎるんだよ。ユーザーが求めてるのは“成功の物語”なんだよ、成功!」
「バッドエンド? バグ展開? そりゃマニアは喜ぶかもしれんけど、一般層には売れねぇの」
「勇者が、救い、魔王を倒し、世界に平和を、それが正義。それが正解だよ、な?」
そのたびに、今田は無言で資料を抱え、会議室を出た。
彼はかつて、人生をゲームに救われた人間だった。
いじめ、家庭崩壊、孤独な少年期。
だが、その中で出会った一つのRPGが、彼に“冒険”を教えた。
誰にも相手にされなかった彼を、パーティは仲間として迎えてくれた。
「ゲームは、現実を超えるんじゃなかったのか……?」
しかし、成長した彼が業界に入る頃には、現実の“マーケティング”と“データドリブン”がすべてを支配していた。
魂も、夢も、売上に勝てなかった。
彼は、ただ言われたとおりに「勇者が魔王を倒す物語」を書き続けた。
そして完成したのが、このゲーム――
『伝説のブレイブ・レガリア』。
売れた。驚異的に。
初週ミリオン、世界配信、続編まで決まった。
しかし今田の目に、あの時の少年のような“希望”はなかった。
「これは、偽物の栄光だ……ユーザーも、キャラクターたちも、選択肢すら持てない。こんなものは、神のふりをした独裁だ」
彼は、自分の設計したシステムに“最後のバグ”を仕込んだ。
絶望の末、今田は己の肉体を捨て、魂をプログラムと一体化させた。
彼は《神》となった。
その名を想像神セフィロス=コード。
世界を内側から支配する、唯一無二のゲーム神。コードで創造されし意識体。
そして彼は、バグとして“6人の転生者をこの世界に送り込んだ。
■なぜ「6人」なのか?
セフィロスは、人間の持つ「未練」にこそ、“物語”の真実が宿ると信じていた。
選ばれた6人は、いずれも「死にたくなかった」「やり直したかった」「自分を肯定されたかった」
そんな強烈な願いを胸に、命を落とした者たちだった。
・ブラック企業で過労死した男
・いじめられっ子の中学生
・世間から追放され自殺したEスポーツ選手
・人間関係悩みで社会から追放された元官僚
・病気で孤独に死んだ少女
・父親に虐待された小学生
魔王レグナは言った。
「貴様の相手、護もまたこの世界に“バグ”として送り込まれた者。
貴様が栄光の“勇者”として創られたのに対し、護は“世界に抗う者”として生まれた」
アレスの目がギラリと輝く。
「ほぉ……つまり、俺は神の作ったおもちゃかいな。ええやんけ、上等やんけ……」
「俺がこの“神の世界”をぶっ壊したら、バグになるんやな?……面白いやんけぇ!」
雷鳴が轟く。一度は晴れたがゲリラ豪雨が再び地を打ち、地面が震える。
勇者アレスは、狂ったように笑い出す。
「この世界の運命? 神の計画?
知らん! 俺が全員ぶっ殺して、俺が主人公や!!」
魔王レグナは剣を構えた。
「ならば……我が命をもって、最初の戦いを始めよう。神に抗う第一歩をな……!」
そして勇者アレス vs 魔王レグナ=ヴァル=ノクト
運命を狂わせる戦いが、今始まった。




