表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5万4千PVアクセス突破 全話 完結】『最初に倒されるはずのボス、ホブゴブリンの俺。転生して本気出す。〜3年後に来る勇者を倒すための準備録〜』  作者: 虫松
第九章 狂気のサイコパス人形少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/160

第5話 豪雨の中で人形たちとの戦闘

「空気がしめってる。……豪雨が来るわ」


リザードセイジのエミリーが空を仰いだ。


ぽつ


ぽつ、ぽつ……


ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ、ぽつ――


ザーッ……


熱帯の空が割れた。


雨が落ちるというより、叩きつける。

空気が重く、地面のぬかるみが靴にまとわりつく。

亜熱帯地方、特有のゲリラ豪雨だ。



「大切なお人形が……ぬれちゃう」


洋館のバルコニーから、窓を閉めて微笑む少女 メル・マリアがそう呟いた。


金髪に、陶器のような肌。だが瞳だけは、狂っている。

人間の形をした人形たちを、少女が抱きかかえ、ひとつずつ館の中へ運び込んでいく。


その後ろ姿に、哀れみも、慈悲もなかった。


ずぶ濡れになりながら、剣を肩に担ぐ勇者アレスが口元で笑った。


まもるちゃんお前、進化したんか。ほぉ……そりゃ見た目がえらい変わったからビックリしたわ。仲間も進化して火のデブなんか別人やなぁ」


唇が吊り上がる。


「けどなぁ。俺なぁ、クロウとイザベル、2人の転生者を潰してもうた。

レベル上がりすぎて、勝負にならんのちゃうかぁ?」


豪雨の雨水が頬を伝う。

だが、その目は決して笑っていない。


ぬかるみに靴を沈ませながら、護が一歩前に出た。


「やってみねぇとわかんねえだろが!」


剣を握りしめ、魔力を爆ぜさせる。


背後


燃えるような火炎の頭のトロール娘が、大地を揺らす一歩を踏み出す。

口元には笑み、瞳には闘志の炎。


「雨、なんか関係ねぇ! 燃やせば乾くっしょぉ!!」


鎖鉄の杖を構え、雷光を宿すリザードセイジが肩をすくめた。

その足元には、爆ぜるような魔法陣が形成されている。


「水魔法は湿気が魔力効率を下げるわ。だけど……敵も同じ条件よ」


盾を前に出し、図体のでかいオークパラディンが低くうなる。


「……あの人間みたいな人形、全部、あいつの思いで動いてる。あいつら……感情がねぇ」


人形たちがずるり、と動いた。

膝から崩れるように歩く者。

笑ったまま首が斜めに傾いている者。

腕が逆方向に折れて、引きずられるような音を立てて迫ってくる者


「くるぞっ!!」


雨が、すべての音をかき消す。


「お願い……裏切らないで……ね? ずっと一緒にいて……」

傘も差さず、洋館の外の階段に立ち尽くす少女がいた。

ティリス。

金髪がずぶ濡れになったダークエルフの女魔導士。


「もし動いたら、すぐに人形にするから」


彼女の足は、動かなかった。いや動けなかった。

瞳が濡れていたのは、雨のせいか、別の何かか。


「護ッ!! 奴が動いた!」


雷光が奔る。

メル・アリアの洋館が、魔力を灯して異常な気配を吐き出す。


目の前。剣を握った勇者アレスが、ずぶ濡れのまま、口元をゆがめて叫ぶ。


「これが俺とお前との運命的な対決やな!」


「てめえがそう言うなら、喜んで受けて立つぜッ!!」


剣と剣が交差した瞬間、

雷鳴が轟いた。


血が、泥が、魔力が交錯し

雨に濡れる人形たちが、無表情で笑っていた。


狂気の姫が、その光景を見て、

まるでおとぎ話を見ているように、拍手を打った。


「すてき……ロマンッチク 王子様」


地獄の幕が、いま開いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ