第4話 魔族の到来、裏切りの戦場
魔島の空気は、どこか異様だった。
空は晴れているのに、肌にまとわりつくような魔素の密度。
咲き乱れる花々の香りの奥に、どこか生臭い腐敗の匂いが混ざっている。
「……ここ、普通じゃねえな」
ゴブリン騎士の護は眉をしかめた。
その後ろには、リザードセイジ・エミリー、フレイムトロールのコニちゃん、
オークパラディンのデフリーらが続く。
海岸沿い白砂の浜辺。楽園のような島
だが
「な、なんて……顔してるんだ……」
人々の顔に浮かぶのは、微笑み。
だが、目は泣いていた。
口元の笑みは引きつり、まるで“笑わされている”かのよう。
「た、助けて……」
すれ違いざま、老婆が小さな声で囁いた。
その直後、老婆は“パチン”と首を横に振り、何事もなかったかのように笑顔を作る。
「この島、人々の心が腐ってる……魔力が、心にまで食い込んでる……」
エミリーの声は、震えていた。
そして彼らは、洋館の前にたどり着く。
その洋館は、白いバラに覆われ、まるで童話のような外観だった。
だが、その門前に
「よぉ、来てくれたなァ、討伐隊!」
笑顔で、勇者アレスが立っていた。
「……え?」
護の眉がぴくりと跳ねる。
「お前ら、魔王軍の精鋭やろ? “メル・アリア討伐隊”ってワケやな?」
「ふざけんなっ……!」
護が一歩踏み出した瞬間、アレスが手を広げてにやりと笑った。
「この島、最高やろ? 人間の人形劇に、狂気の人形姫に、笑顔の地獄……オレ、めっちゃ気に入ってもうてな」
背後の扉が軋みをあげて開く。
「ごきげんよう、みなさん」
現れたのは、金糸の髪をなびかせる美しい魔導少女
人形の女王、メル・アリアだった。
「アレス様ぁ、また新しいお客さまですのね」
その声に、ティリスが一歩後ずさる。
「この方……“お人形”にしても、いいですか?」
メル・アリアは首を傾げながら、ティリスに向かって手を伸ばす。
その指先が触れた瞬間、魔法陣が浮かび、拘束の糸が伸びる。
「っ!」
ティリスの目が揺れたわずかに。
何かを、恐れているように。
「やめろっ……!」
怒号が響く。
護が地面を蹴った。
「ティリスに、触るんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」
瞬間、空気が裂けた。
コニちゃんの鉄拳が地面を砕き、エミリーの魔力が霧を払う。
「メル・アリア……お前が、この地獄の元凶か!」
護の叫びに、メル・アリアはくすりと笑った。
「ふふふふ……“戦う”んですね? よかった。
わたし、人形たちに“生きた教材”を与えたかったの」
背後から、黒衣の人形兵たちが姿を現す。
目に光はなく、口元には無理やり縫い付けられたような笑み。
そして
「おぉーっと」
アレスが腰の剣を抜き、館の前に立ちふさがった。
「悪いけど、オレはアリアちゃん側やねん。なにせ、ここのエンタメは、最高やからなぁ!」
いま、狂気の洋館を前にして
魔族パーティーと勇者の、再戦の幕が上がろうとしていた。
空が、低く唸った。そしてどこかで雷がなる。
「空気がしめってる。……豪雨が降るわ」
リザードセイジのエミリーが天気予報をした。




