第7話 裏切り者の粛清とネメシスタワーの崩壊
玉座層に重く響く沈黙。
崩れ落ちたクロウの傍に、ティリスが静かに近づいた。
血に濡れた義眼。
だが、まだ息をしている。
「……助けられるかもしれない」
ティリスが手を伸ばそうとした、その時だった。
ズバッ!!
アレスの黒剣が、横から振り抜かれた。
「──えっ……?」
斬られたのはボルト。
電撃を纏う導雷杖が落ち、彼はそのまま崩れ落ちる。
「な……なんで……?」
ティリスが震える声で問う。
アレスは平然と剣を払った。
「こういう裏切りぐせのある奴はなぁ、いつ寝首かかれるかわからへんのや」
一瞬、沈黙。
だがその言葉に、ギリアムの顔が歪む。
「てめぇ……ボルトを……!!」
ギリアムが後退し、ティリスの背後を取る。短刀を首元に突きつけた。
「おいアレス! この女を殺すぞ!」
「……」
アレスは一歩も引かず、歩きながら言い放つ。
「所詮、金で繋がった仲間だろ。その女、刺し殺してええで」
ギリアムが叫ぶように歯を食いしばる。
「ちくっしょー……やってやる……ッ!!」
刃がティリスの喉元に迫る。
その瞬間――
バチィッ!!バチィッ!!バチィッー!!
爆ぜたのは雷鳴。
ティリスの全身を雷光が包み、
その瞬間、ギリアムの全身を貫くように雷撃が弾けた。
「ギァアアアアアッ!!!」
のたうち回るギリアム。
ゴーグルをが破れ、肉が焼かれ、地面に崩れ落ちる。
アレスは容赦なく、剣を振り下ろした。
スパッ。
命の灯火が、完全に消えた。
その刹那。
クロウの指が赤いスイッチを押し込んだ。
「死なばもろとも……崩壊しろ、《ネメシスタワー》……」
轟音が塔内に響き渡る。
機構が崩壊を開始。
タワー中枢から振動が走り、崩壊プログラムが作動する。
「チッ……やりやがったか!」
アレスは背後からクロウを一刀両断。
「まだ動けたんかい、しぶといヤツめ……!」
そして怒声を飛ばす。
「ティリス! 移転魔法や! 早う出さんかい!!」
ティリスの瞳が金に輝く。
その瞳に、涙が光っていた。
「……わかったッ!!」
「トゥーラ・エルヴァ・ノクス……
星の彼方、道を開け……
我が意に応えよ――移転の門よ!」
空間が裂ける。
渦巻く魔法陣がアレスとティリスの足元に現れる。
「さぁ。次の転送者へ会いに行くぜ」
ティリスが叫ぶように詠唱を完了させた。
「《エクソダス・ゲイト》!!」
金光の柱が塔の天井を突き抜ける。
そして、ふたりの姿は光の渦に包まれ、消えた。
……
魔導国家《ネメシス=ギア》の外郭。
転送魔法の出口から姿を現したアレスとティリス。
彼らが見たのは、黒煙を上げて崩れ落ちるネメシスタワーの姿だった。
──ズズン……ッ!!
爆発が連鎖し、鋼鉄の塔が折れ曲がる。
塔の内部から噴き上がる炎。崩れ落ちる破片。
都市全体がその光景に息を呑む。
ティリスは泣いていた。
「……全部……終わったのね」
アレスは、空を見上げてぽつりと呟いた。
「いや……まだ、始まったばかりや……」
こうして、ネメシスタワーは消え去った。
だが、戦いは……まだ、終わらない。
そして『伝説のブレイブ・レガリア』という名のゲームの世界も、ひとつ、また確実に壊れていった。