第6話 背信か、奇跡か雷鳴と反逆
玉座層にて、状況は絶望に傾いていた。
仲間と思っていたギリアムの裏切り。ボルトの沈黙。
アレスとティリスは、文字通り孤立無援。
クロウ・サカキバラは、鋼の玉座からゆっくりと立ち上がり、勝利の宣告を口にする。
「君たちは最初から、私の手の内で踊らされていたのだ」
義眼がぎらりと光を放つ。
「行動予測、思考傾向、感情分岐、全て計算済み。お前たちの反応は、誤差のうちだ」
ティリスが歯を食いしばる。「……そんな……全部読まれていたなんて……」
クロウは腕を広げ、誇らしげに続ける。
「私は合理性を追求し続けた。感情も、衝動も、不要だ。私は完璧を手にしたのだ」
だが。
その時、アレスの口元がゆっくりと吊り上がった。
「……せやから言うてんねん、クロウちゃんよぉ」
クロウの表情がぴくりと動いた。
「人間の本質を、まるで知らんよなぁ……」
「……なに? 私にノイズがあるというのか?」
アレスは手をゆっくりと掲げ、にやりと笑った。
「報酬を4倍はずむデー! 手筈どおりやりなぁ!!」
その瞬間。
「了解」
静かに呟いたボルトが、突如として雷の魔法陣を展開。
「黒雷魔術──《サンダーボルト》!!」
ズガァァァンッッ!!!
黒い雷が轟き、クロウの機甲装甲を焼き裂く。魔導コイルがショートし、火花が飛ぶ。
「なっ!? ……なぜだボルト!! 君も私の部下として計算されたはず!!」
「すまんな。俺、感情読まれるの苦手なんや」
同時に、ギリアムが笑いながら背後に回る。
「どーもでやんす……これが本命でやんすよ」
スパッ!
魔導機甲の背面、動力コードの接続口を短剣で一閃。
「コード、切断完了でやんす。killでやんす」
その瞬間。
クロウの義眼が、初めてわずかに揺れた。
“怒り”ではなかった。
“恐怖”だった。
「この……想定外……誤差……大きすぎる……ッ」
アレスが静かに呟く。
「お前は転生前、仲間に裏切られて死んだ……榊原雅人やな」
クロウの身体が震える。「……その名を……」
「わからなかったんやろ? なんで裏切られたのか。
──教えたるわ。
人間はな、五大欲求に抗えん、欲深い生きもんや。
完璧さを求めるお前は……すでに敗北してんねん」
アレスが呪文を唱える。
「瞬間転移術式・至近距離跳躍」
アレスの姿がかき消え、次の瞬間、クロウの目の前に現れる。
「──終いや!!」
黒い剣を一閃。
スパッ!!
斬撃がクロウの義眼を斜めに裂いた。
「……あ……」
血しぶきが舞い、クロウの顔が薄紅に染まる。
「エラー……視覚中枢損傷……エラー……思考統制に失調……」
機械の体ががくりと膝をつき、ゆっくりと後ろに倒れる。
「機能……停……止……」
魔導機甲が崩れ落ち、玉座層に静寂が訪れる。
だが、その中でクロウの意識だけが、過去の断片を走馬灯のように浮かび上がらせていた。
ひとりの少年。
努力家で、冷静で、誰よりも成績優秀だった。
それでも……誰にも理解されなかった。
孤立。
そして、仲間たちの裏切り。
世の中に理解されず絶望の中で自殺した。
「……なぜ……私は……完璧だった……はずなのに……」
その呟きは誰にも届かず、情報空間の深淵へと、静かに沈んでいった。