第5話 改変空間の死闘と再起動
玉座層。
物理法則が歪み、現実がねじれる情報空間。
その中心に座すクロウ・サカキバラの義眼が赤く点滅し、冷たい声が響く。
「誤差が閾値を超えた。ならば、“ノイズ”として、消去する」
その瞬間、天井から巨大な砲塔が展開された。
「魔導兵器《ガドリング砲》、全弾装填」
──バチッ。
魔力コイルが螺旋状に回転し始める。そこから発射されるのは、高速魔導弾。
「避けろ!!!」
アレスが叫び、ティリスが魔法障壁を展開。ギリアムが床に伏せ、ボルトが後退する。
弾丸が空間を裂く。結界を貫通する一撃でティリスが吹き飛ばされ、アレスの肩に火花が走る。
「ぐっ……クソが……こいつ、マジで殺す気か!!」
「これが……次世代の兵器か。威力が桁違いだ」ボルトが呻く。
「防御優先! こっちから攻め込める距離じゃねぇでやす!!」ギリアムが必死に分析するも、空間そのものが反応して彼らの動きを封じる。
クロウが立ち上がり、ゆっくりと手を掲げる。
「君たちの戦術構築は計算済みだ。特に、ボルトとギリアム。闇ギルド《ドレッドバインド》からの流入……その動き自体、私の構想の一部だ」
「……何だと?」
ボルトが眉をひそめ、導雷杖を構える。
「さぁ、お前ら……こっちへ来い」
クロウが言葉とともに手を動かす。
すると、空間が歪み、強制転移の魔法陣が発動。
「しまった!? 足元が――ッ!」
ボルトとギリアムの身体が、磁力を帯びたようにクロウの玉座前へと引き寄せられる。
「離れろッ! これは転移魔法じゃねぇ……座標引力か!」ギリアムがもがくが、その動きはどこか緩慢だった。
「おい……ギリアム?」アレスの目が鋭く細まる。
ギリアムは、クロウの玉座の前でニヤリと笑った。
「わりぃでやす、勇者さん。最初からこっちの仕事だったんでやすよ」
「……嘘やろ」
「俺の得意技は隠密と裏切りでやすからな」ギリアムが懐から短剣を取り出し、構える。
ティリスが怒りに震える。「あなた、最初から私たちを――」
「……利用したでやす。あんたらの動き、ぜ〜んぶクロウ様が計算してたんでやすよ」
クロウの義眼が再び煌めく。
「私はすべての選択肢を予測する。裏切りも忠誠も、誤差の内にすぎない」
「こっちは魂で戦ってんねん! 計算に収まるかい!!」
アレスが剣を抜き、怒声をあげた。
だが、敵はすでに仲間の中にいた。
ボルトは沈黙したまま立ち尽くし、その瞳に僅かな迷いが宿る。
「……ボルト、お前は……まさか……」
「選択肢はまだ残っている」ボルトが呟いた。
しかし、その雷はまだ放たれてはいなかった。
アレスとティリスは、信じるべき仲間を見失いかけながら、それでも剣と弓を握りしめていた。
闘いはさらなる混沌と混迷の中 最終段階へと進むのだった。




