第4話 ネメシスタワー侵入と機械神クロウ登場
浮遊リフトが天を貫く鋼の塔《ネメシス=タワー》を登りきる頃、彼らの視界には歪んだ都市構造と、異様な光を放つ上層区画が広がっていた。
リフトが止まったのは「第70階層」。ここから先、塔は異なる様相を見せ始める。
魔導機甲将クロウ直属の組織が居を構える空間。研究機関、個別作戦室、制御局、謁見ホール、個人研究所などが網の目のように張り巡らされていた。
それは同時に、最も激しい戦場となる場所でもあった。
各階層には、かつてEスポーツ世界大会で養われた高度な判断力と瞬時の対応力を前提に設計された、“論理型トラップ”が配置されていた。
第72層:動く床の回廊床全体が周期的に移動・回転し、特定の順番で踏まなければ落下する仕組み。
「ちょっとでもタイミング間違えたら……真下に落ちるでやす!」ギリアムが汗をぬぐう。
「法則はある! ボルト、軌道を予測して!」
「3、2、1……今だ!」ボルトが合図し、全員が一斉に跳躍。足場がスライドする中、全員が突破。
第74層:倒れる柱の迷路タイムトラップ式で倒れてくる無数の鋼柱。ランダムではなく、歩数と角度で制御されている。
「斜めから柱がくる。……ティリス、6歩目で下がれ」
「読めるの?」
「これは……パズルだ。俺の得意分野だ」アレスが冷静に指示を飛ばし、迷路を誘導。
第75層:落ちる天井のアリーナ制限時間つきのフロアで、指定ポイントに留まっていると圧死する。
「動かない奴から潰される! ずっと動き続けろッ!」
「おっさん! こっちっス!」
「追尾してくる……これは神経戦だな」ボルトが無言でルートを分析。
第78層:連動天井罠と魔導兵の連携攻撃動く天井と連携する遠距離砲台が設置されている。
「床パネルの1つずつが、天井の角度を変えてるでやす!」
ティリスが即座に解析、「ここを踏めば……壁の死角ができる!」
「よし、そこに飛び込む!」アレスが決断を下し、スライド天井の間をすり抜ける。
第83層:記憶干渉とフェイクルートかつての仲間の幻影と、正解ルートの虚偽表示によって進行が妨害される。
「分岐が……増えてる?」
「いや、これは“誘導トラップ”だ。あえて遠回りをさせる設計」ティリスが冷静に見抜く。
「なら……ショートカットさせてもらうでやす!」ギリアムが壁をよじ登り、隠された隠し通路を発見。
第90層:反応速度試験ゾーン視認反応で床が崩れ、時間内に飛び越えなければ即死する。
「FPSみたいなノリでやれってか……おもろいやないか!」
アレスが走り、ギリアムがジャンプ、ティリスが瞬時の回避行動。
ボルトは静かに、「最適反応時間:0.62秒……ギリアム、飛べ」
第98層:多層フロアと切り替え罠上下に同型フロアが並び、敵と罠が同時に動作。
「これは、“デュアルステージ形式”……Eスポーツの決勝であった形式だな」
「ルールは分かってる……でも、負ける気はないわ」ティリスが矢を放つ。
連携で敵を撃破し、同期システムの切り替えを遮断する。
「これで……全部か」
「やっと最上層かでやす……ああしんどいやす~」ギリアムが膝をつく。
「それでも行くぞ、本当の闘いはここからや……!」アレスが剣を握りしめた。
第99層:玉座層
浮遊足場を通じてたどり着いた最終層――そこは物理法則すら不安定な異界。
壁も床も天井も、すべてが「情報化」されており、思念ひとつで改変される。
その中心に玉座。
禍々しい鋼の玉座に腰掛けているのは、一人の男――否、神のような“意志の器”。
転生者。
彼は実験魔導兵を左右に侍らせ、無表情にアレス一行を迎え入れた。
「勇者という存在は、行動予測係数が常に不安定だ。情動、使命感、憎悪……どれもが論理に優先する」
【誤差許容範囲:±4%】
「だが、お前の破壊行動は――誤差【23.9%】」
クロウの義眼が回転し、確定を告げる。
「誤差が閾値を超えた。ならば、“ノイズ”として、消去する」
「やってみぃや。ワイは止まらへん!」アレスが剣を構える。
「君たちの行動は、誤差【6.4%】。つまり、敗北する」
ティリスが睨み返す。「確率で生きてるんじゃないの。意志で動くのよ」
「すべての生命活動は、目的を失ったエネルギー浪費だ。私が最適化してやろう」
「ごちゃごちゃうっせえわぁああ!!」ギリアムが飛び出す。
「ならば、俺が雷で“最適化”してやる」ボルトが一歩前に出る。
アレスが叫ぶ。
「ここで決めるぞ、みんな! クロウを倒すッ!!」
魔導機甲将クロウ機械の鎧に身を包む、軍事国家の支配者との戦闘へと、ついに入った。




