第3話 浮遊リフト起動と空中突破
魔導都市ネメシス=ギア、中央区。
《ネメシス=タワー》
鋼鉄の回廊を抜けた先に、浮遊リフト《ゼロ・エレベーター》がそびえ立っていた。
高さ500メートル、魔導浮力と雷磁場で浮遊するこの装置は、ネメシス=タワー上層部へ向かう唯一の手段だった。
「こいつを起動せな、クロウんとこには行かれへんてわけやな」
アレスがリフトを見上げながら言うと、ギリアムが壁面の制御盤に飛びついた。
「コード干渉ならお任せでやすよ、っと……。くっそ、レイヤーが多重化されてやす……!」
指先が踊るように動き、解析ツールの画面が次々と開かれる。
その瞬間。警報が鳴った。
「自動迎撃ドローン、接近でやすッ!」
宙に現れたのは、魔導ドローン。翼のように展開された飛行ユニットから、冷たいレンズがアレスたちを睨む。
「空から狙い撃つ気か……ティルス、やれ!」
アレスの命令に、ティルスは無言で頷いた。
手首の魔法封印手錠は一時解除され、彼女の手に魔弓が現れる。
「……落ちろ」
静かな声とともに、炎を纏った矢が空を裂いた。
ドローン1体が爆発四散。すぐさま次の矢が放たれ、追尾ドローンを次々に撃墜していく。
「ほぉ……やるやないか、ティルス」
「あなたの為じゃないわ。みんなの為よ」
冷たい返答に、アレスは苦笑する。
その間にも、地上から魔導機兵が迫っていた。
金属の脚で地を踏み鳴らし、電撃弾を放つ鋼鉄の兵士たち――
「……こっちは俺がやる!」
ボルトが一歩前へ出る。導雷杖に魔力を集中させ、低く呟いた。
「《雷刃連鎖:フルチャージ》」
稲妻が彼の杖から解き放たれ、敵機兵の頭上に閃光が走る。
一瞬で6体のオートギアがショートし、火花を散らして崩れ落ちた。
「……オーバーヒート。充電、30秒」
「十分や」
アレスが剣を抜き、残った魔導騎兵隊の敵に斬りかかった。
ギリアムは舌を巻く。
「……これ、尋常じゃねぇでやすよ。コードが7層、しかも干渉ループが組まれてる。いじるたびに鍵の形が変わってやす!」
「ええから何とかせえッ!!」
アレスが怒鳴る。
その背後では、魔導ドローンが上空から迫り、地上では機兵部隊が鋼鉄の脚で地を揺らす。
「時間ねぇんだよ、ゴチャゴチャ抜かす前に通せや!」
「努力はしてるでやす! でもこれ……AI式の自動逆干渉も組み込まれてやす! コードいじるたびに向こうが上書きしてくるでやすよッ!」
「クソがッ、どうすりゃええんや!」
「俺が時間稼ぐ!」
ボルトが前へ出た。
導雷杖が高圧の電気を帯びると、雷鳴が轟き、周囲の空気が焼ける。
「《雷網結界》展開――10秒間だけ、ここは俺の領域だ」
電撃のドームが張られ、敵の侵入を阻む。
その隙にティルスが矢を連射し、ドローンを迎撃する。
リフトは一瞬、うなりを上げて起動した……が、次の瞬間、動作が停止した。
「動いたッ……って、止まったでやす!? なんで!?」
ギリアムの顔が青ざめる。
「エネルギー誘導フィールドにパケットジャミングが走ってやす……! こっちの解除コードが無効化されたでやす!」
「わからんことばっか言うな!! ええから直せやぁああああ!!」
アレスが制御盤を拳で殴りつける。
火花が散る中、ティルスが冷静に一言。
「アレス、それ壊したらもっと動かなくなります」
「ぐぅぅ……っ!」
怒りを噛み殺すアレス。
彼の剣の柄が、ギシッと音を立てるほど強く握られている。
「……なら、お前らの頭脳信じるしかあらへんな」
ギリアムが深呼吸して言った。
「こっから先は勘頼みでやす……でも、やるしかないでやす!」
彼はコードの迷路をかき分けるように、指を走らせる。
目まぐるしく変化する干渉フィールドの中で、数列と図形が交錯する。
「――いけたッ!リフトのコード、開いたでやすッ!!」
その瞬間、リフトが低く唸り、再起動する。
「動けえぇぇぇぇ!!」
アレスの叫びとともに、ゼロ・エレベーターは光を放ち、天を目指して浮上した。
残された敵兵たちは、地上で雷と炎に焼かれながら、リフトを見上げるしかなかった。
ギリアムが叫ぶ。浮遊リフトが唸りを上げて起動、中央部の床が浮上し始めた。
「全員、乗るでやす!」
アレスが指示を飛ばす。ティルス、ギリアム、ボルト、そして彼自身が飛び乗ったその瞬間――
「……上空、まだドローン来やがったか!」
ティルスが再び矢を番え、飛び立とうとしたドローンを撃ち落とす。
機械の破片が空中で弾け、空に煙が上がる。
だがリフトはすでに上昇を始めていた。
「このまま突っ込むぞ……待っとれや、クロウ。お前のクソみてぇな世界、ワイがぶっ壊したるッ!!」
雷鳴と鉄の叫びを背に、浮遊リフトは70階を目指して急速に上昇していった。