第2話 ネメシス=タワー潜入ルートの選択
魔導国家《ネメシス=ギア》の夜は、星も月も隠し、塔の頂から放たれる青白い魔力光だけが世界を照らしていた。
その中心にそびえるのは、黒き鉄の巨塔。
鋼の塔《ネメシス=タワー》。
天を貫くようなその存在は、まるで神の雷をこの地に繋ぎとめているかのようだった。
◆ネメシス=タワー 階層構造
第1〜10層:検問区画
自律型警備兵器・生体認証ゲートが常設。一般人立ち入り不可。
第11〜30層:魔導研究フロア
魔導技術研究室、戦術開発部、錬成炉区画など。
魔導炉心が各層に設置され、上層部へのエネルギーを供給している。
第31〜50層:軍事演算中枢
機甲部隊の展開管理、演算コア、無人戦術兵の保管エリア。
厳重な情報遮断と立体迷宮構造で保護されている。
第51〜70層:実戦戦力保管域
転生兵器や旧世界の魔導遺物の封印区画。
有機金属や呪詛兵器が並ぶ、死地とも言えるエリア。
第71〜98層:最高幹部フロア
魔導機甲将クロウ直属の機関室や謁見ホール、個人研究室など。
第99層:玉座層
クロウが居座る中枢支配座。
空間そのものが“転生者の意志”で制御されており、情報改変すら行われる。
浮遊塔とも揶揄されるこの《ネメシス=タワー》に、
勇者アレス
ダークエルフ ティリス
雷属性魔導士 ボルト
盗賊 ギリアム
勇者一行は挑もうとしていた。
「さすがに正面から行くんはアホのやることやな」
アレスが腕を組み、空間投影されたタワーの立体構造図を見上げながら呟いた。
「選択肢は3つっやすね」
盗賊ギリアムが指を立てて説明する。
ルート①地下排気ダクトルート(下層から侵入)
汚水と毒ガスを抜け、10階層までを潜行。
汚染魔導虫とガスフィルターの罠多数。
ルート②搬入用軌道ルート(中層から突入)
魔導機材と共に密輸ルートを通過。
検知防止魔法必須。途中で戦闘必至。
ルート③浮遊リフトルート(空中経由)
補給用空中リフトを制御し、70階層まで強行輸送。
一か八か。制御に失敗すれば墜落死。
軍用コード干渉と雷魔法による突破が求められる。
「どれも死地でやすな〜」
ギリアムが肩をすくめる。
「浮遊リフトは確率低いけど、一発でクロウのフロア近くまで行ける」
ボルトが低く言う。
彼の目に、失敗による死のイメージはない。常に最短を狙う男だ。
「――せやな。どうせ命張るなら、最短がええ」
アレスが唸るように言った。
「浮遊リフトの位置、解析してちょと相談しに3人でタワー調査に行ってくるわ」
そうティリス言い残して、アレスたちは都市の闇に消えた。
その頃――
《ネメシス=タワー》99階、《コア・アーク》にて。
鋼鉄の玉座に腰かけるひとりの男が、静かに笑った。
魔導機甲将クロウ・サカキバラ。
元・eスポーツ世界ランキング5位に入り、日本代表に選出された転生者。
この世界の物理法則すら、コードと魔術で再構築する狂気の支配者。
「勇者アレス。やっぱり、お前は“そっち”を選ぶか」
浮かび上がる浮遊リフトの映像。
そこには、起動と同時に展開される魔導トラップの数々。
「雷と干渉の二重鍵が必要なことくらい、奴はもう気づいとるやろ……だが」
「そこまでが私の“誘導”。さあ、コード解析の地獄で踊れ」
その指が、空間に浮かぶ“塔の構造図”をなぞる。
塔は生きている。意思を持つ魔術式だ。
勇者アレスたちが動くほどに、クロウの術中へと誘い込まれていくのだった。




