第1話 転生勇者や闇ギルドで仲間を雇う
魔導国家《ネメシス=ギア》。
鋼鉄と雷、そして人間の欲望が渦巻く都市。勇者アレスと、その隣を歩く女性ティルスは、都市の外郭ゲートをくぐった。
ティルス。ダークエルフの女魔法戦士。
しなやかな肢体に金の髪、瞳は艶やかな紅。だが、その手首には魔法封印付きの手錠が嵌められ、アレスの腰に繋がれた黒鉄の鎖でつながれていた。
周囲の目は冷たい。
この都市では、“異種族奴隷”は珍しくない。誰も彼女を仲間とは思わない。ただの“所有物”としか見ない。ティルス自身も、ただ、静かに歩く。
「……やっぱり、あいつが動いとるな」
アレスは鋼の塔《ネメシス=タワー》を見上げた。
魔導機甲将クロウ( 転生者)。
自身に差し向けられた暗殺者たちの動きを読み、アレスは決断する。
「やられる前にやる。それが、オレのルールや」
都市の片隅、薄暗い路地裏にある場末の酒場。
中は騒がしく、傭兵、犯罪者、スパイ、娼婦、そして闇の住人たちが交差している。
アレスはカウンター席でひとりの男を待っていた。
「お久しぶりだね、“転生勇者”さん」
くぐもった声が隣から聞こえる。
フードを深く被った痩せた男――闇ギルド《ドレッドバインド》の仲介人ギルが、すでに隣の席に座っていた。
アレスは酒を頼むこともせずに言った。
「クロウ・サカキバラを殺したいんや。そのために、腕の立つヤツが要る」
「随分とストレートで助かるよ。でもその前に……」
ギルはティルスに目をやり、ニヤリと笑う。
「いい女だな。そのダークエルフ。高く売れる。商品として登録する気はないかい?」
ティルスの肩がわずかに震えた。
だが口は開かない。奴隷には、反論の権利すらない。
アレスの目がギルを貫いた。
「売る気はない。こいつは……オレの道具や。戦わせる」
ギルが目を細める。
「ふぅん……魔法封印手錠のままで? 爆発魔術でも使えるのか?」
「必要になったら封印は外す。逃げたら……その時は、殺すだけや」
ティルスの目が一瞬だけ冷たく、アレスを見た。
ギルは肩をすくめ、口笛を吹いた。
「いいさ。物騒な連中は慣れてる。じゃ、紹介しようか。電撃魔術師と、コード干渉に強い盗賊をお望みだったな?」
●雷属性魔導士 ボルト
目に十字の刺し傷を持つ、無言の男が歩み寄る。
右目は義眼、左目は殺気を帯びて冷たい。
「ロボットどもを焼き切るのは得意だ。条件次第で、命預けてやる」
手にした導雷杖には、刻まれた魔術回路と血のにじむような符術。
彼は元犯罪者。機械系の魔導兵を狩ってきた、電撃魔法の異端者だ。
その一言で、アレスは採用を決めた。
●盗賊 ギリアム
黒いフードにゴーグルをつけた男が、くるりと宙返りして登場。
「どーもでやす〜! 隠密、侵入、コード干渉はギリアムにお任せでやすよ!」
「お前……喋りすぎだ」
「すんませんでやす!」
仲間が揃ったその時、ティルスの鎖が再び小さく鳴った。
彼女は何も言わず、ただその場に静かに立っていた。
アレスは立ち上がり、静かに言った。
「行くぞ。《ネメシス=タワー》や。クロウ、ぶっ潰したる」
ティルスは従うように、その鎖のまま歩き出す。
だがその瞳だけは、何かを見据えていた。




