第7話 ドラゴンのフルコース料理と俺たちの進化
「さぁ始めますよ。愛情を込めて、端正に、丁寧に……ドラゴン、いただきます」
そう言って、デフリーは巨大なレインボードラゴンの前に立った。
その鱗は宝石のように煌めき、刃を拒むが、デフリーが取り出したのは《魔法鍛治包丁:アマトゥス》。斬るたびに肉の構造を読み取り、最適な切断角度に微調整される名品だ。
「まずはテール、煮込み用にね」
尻尾をぶつりと切断すると、白く脂の乗った筋肉があらわになり、湯気の中に濃厚な甘い香りが立ち昇った。
続いて、肩の筋肉、腿肉、背肉、肝、脳髄……それぞれの部位を一切無駄なく切り分けていく様子に、周囲のモンスターたちも息を飲んで見守る。
「ドラゴンは、力の象徴です。でもね……料理は力じゃない、愛情なんです」
レインボードラゴン五品のフルコース
一品目:ドラゴンテールスープ
長時間煮込まれた尾の骨と肉から、金色に輝くスープが完成。
香味野菜とレアハーブを一緒に煮出すことで、重さの中に清涼感を感じさせる逸品となる。
「前菜とはいえ滋養強壮と魔力回復、ダブル効果のスープだな。」
護がすするたびに、身体中の筋肉が活性化するのを感じ、思わずうなった。
二品目:ドラゴン肉シチュー
肩と腕の部位を三時間煮込み、ルーにはダークカカオと赤ワイン、スパイスを効かせた濃厚な味。
スプーンを入れた瞬間、繊維がホロホロと崩れる。
「うおおお、肉が……とろけた!」とデフリーがドラゴン愛を叫ぶ。
三品目:ドラゴンハンバーグ
腿肉を細かく叩き、秘伝のマナ塩とドラゴン卵でまとめたハンバーグは、焼くことで表面がパリッと、中からは肉汁があふれる。
ジュワァァ……という音に、みなが喉を鳴らす。
「ハンバーグって……意外にイケるわね」肉嫌いのエミリーがパクパク食べた。
四品目:ドラゴンフィレステーキ
背肉の最上部、フィレ部分をわずかにレアで焼き上げ、岩塩のみで味付け。ナイフを入れると、肉は自然に裂け、まるでバターのように舌の上で溶けていく。
「ドラゴンの力を……噛み締める」コニちゃんが一言だけ呟いた。
五品目:ドラゴン脳デザート
脳髄から抽出した精髄を冷却・発酵させ、濃厚なプリンのように仕上げた。トッピングにはマナ果実のジュレと、星砂糖。
全員が魔力を吸収しながら、甘美な味が全身に広がる。
「最後の一口まで、端正に、丁寧に、美味しくいただく、ですから!」とデフリーは微笑む。
ドラゴンの肉を食したモンスターたちは、静かに震え始めた。
それは、魔力の共鳴いや、「進化」の兆しだった。
ゴブリン隊長 → ゴブリン騎士
その体に銀の甲冑が自然に形成され、剣の扱いが桁違いに鋭くなった。
オークソルジャー → オークパラディン
背中からは神聖なる光が立ち上り、巨大な盾とヒール魔法を手に入れる。
リザードシャーマン → リザードセイジ
体の鱗が虹色に変化し、呪文の詠唱速度が二倍に。精神操作すら可能になった。
ボストロール → フレイムトロール
燃えるような赤い皮膚、拳一発で大地を焦がす火属性へと覚醒。
「進化した……俺たち全員が、一段階上に」
護も言葉を失う。みんなの見かけが大変化した。
進化した仲間と共に、ティリスの待つパンテオン神殿を目指した一行。しかし、そこにあったのは
崩壊した瓦礫と人間の死骸、静寂だけだった。
「……遅かった、か」
天空に立ち昇る黒煙。そして、かすかに響く異音、それは新たな戦いの狼煙のように見えた・・




