第4話 レインボードラゴンの弱点観察日記
《彩光の霊峰》にて、俺たちは山頂から潜伏生活を送っていた。
目的はただ一つ伝説の竜、レインボードラゴンの行動パターンを観察すること。
森の中に隠れた岩穴。昼間は霧に紛れて岩肌をよじ登り、夜には《ボウエン》で竜の姿を覗き見る。
エイミーの蛇眼レンズ水魔法が描き出すのは、まるで異世界のような情景だった。
虹色の鱗をもつ巨大な竜は、空を渡り、湖を飲み、雷を吸い、光を吐き出す。
生き物というより、自然現象が意思を持って動いているような……そんな存在だった。
「一日三回、羽ばたくな……」
「あと、夜には決まってあの湖に向かうのね。魔力の充填かしら」
俺とエイミーは、魔法の記録石に観察記録を残していく。
フライパン片手に「飯炊き観察員」としてついてきたデフリーは、竜のうなり声が響くたびにビクビクしていた。
そして観察を始めて、七日目の朝。
それは突然、霧の中から姿を現した。
「ん……何か来てる」
エイミーが《ボウエン》の視界をぐっと引く。
岩場の斜面を、重装の集団が列をなして登っていた。
「人間……?」
コニちゃんが声をひそめる。
だがその装備、そして動きは明らかに一般の登山者ではなかった。
全員が黒装束の軽装兵と重装歩兵に分かれ、魔法障壁と探知無効のバリアを張りながら進軍している。
「傭兵団……しかもただの傭兵じゃない。こいつら、レインボードラゴンを狩りに来てる」
まさかこの山に他の狙い手が現れるとは思っていなかった。
だが今、目の前でそれは現実になっていた。
俺たちは岩穴に身を潜め、《ボウエン》を通してその動きを見守る。
そして――
その時は来た。
雲が裂け、虹色の光が差し込む。
天から舞い降りるように、レインボードラゴンが姿を現した。
全長数十メートル。
巨大な翼は空気を震わせ、鱗の一枚一枚が虹のように色を変える。
ただ「在る」だけで、地形すら従わせるような圧倒的存在感。
だが、傭兵団は怯まなかった。
陣形を組み、一斉射撃を開始する。
魔導砲が火を噴き、雷撃が空を貫き、爆炎が竜の胴体に炸裂する。
咆哮とともに、レインボードラゴンは反撃した。
風と水の混合魔法、黒雷の柱、光の乱反射による焼灼。
次々と傭兵団の攻撃を飲み込み、返し、圧倒する。
岩肌が砕け、木々が吹き飛び、空が燃える。
「……強すぎる……」
誰かが呟いた。
数分後の戦場には、ただ焼け焦げた地面と、動かぬ人の残骸だけが残った。
傭兵団は、全滅をしていた。
だが、俺は……その時。
「……ん?」
レインボードラゴンの身体を、何かが走った。
鱗の一部がわずかに“薄く”なったように見えたのだ。
しかも、それはある特定の魔法のあとに起こった。
「……まさか、あれは……」
俺は、メモ帳に震える指で観察記録を書き付けながら、目を見開いた。
何かが、見えた。
このドラゴンに、“スキ”弱点がある……!?
「……!」
だが、まだ確証はない。
みんなに伝えるには、もう少しだけ……見なきゃならない。
俺は、次の変化を逃すまいと、水のレンズを握りしめた。




