第4話 ダンジョン改造計画 その3 ~地元のリザードマンやトロールやオークなどと交渉し、連携体制を構築~
森の洞窟ダンジョンの強化は着実に進んでいた。
ゴブリン部隊の育成にも目処がつき、罠の整備も順調。
だが、俺は悟っていた。油断したらやられる。
「このままじゃ、まだ足りない……」
勇者は必ずここへ来る。しかも、レベルを上げて。
単独の勢力だけでは、どうしても限界がある。
俺は視野を広げることにした。
「周囲の魔物たちと、連携しよう」
そう、同盟である。
人間の世界でも“地元企業”が“地域連携”で生き残りを図るように、
モンスター社会でも“戦える仲間”と手を組めば、勝率は格段に上がる。
第一の交渉先:リザードマン族(水辺の住人)
森の東側に流れる沼地に住む、魚鱗に覆われたリザードマンたち。
序列にうるさい彼らの前で、俺は慎重に言葉を選びつつ話しかけた。
「共に戦わないか。勇者が来れば、次に狙われるのはお前たちだ」
彼らは懐疑的だったが、俺が持参した「毒消し薬」や「保存肉」に興味を示した。
さらに、俺が森の地形図を描きながら作戦を提案すると、
族長格のリザードマンが、鋭い目で頷いた。
「我ら、水の魔法、得意。霧、氷、流れ、作れる。協力……する」
なんと交渉成立。代わりにこちらからは、ゴブリン兵2名を“護衛兼交換兵”として派遣した。
第二の交渉先:トロール一族(山岳の炎使い)
西の岩山に住む巨体のトロールたち。
彼らは頭こそ鈍いが、体力と破壊力は別格だった。
そして火を操る能力も持っていた。
「火球を出せる? 本当に?」
俺が驚くと、トロールは小石を燃やしてみせた。火花が爆ぜる。
「ボン! ……つよい。おまえ、ダンジョン つよくする? オレ、たすける」
交渉というより、感情と直感で話が進む。
見返りに、定期的な食糧支援と「頭痛薬の配布」を約束することで合意した。
(実はトロール、よく火を使いすぎて頭が痛くなるらしい)
トロールたちの火魔法支援部隊は、対人戦で心強い味方となった。
第三の交渉先:オーク族(南の密林)
彼らは「乱暴で獰猛」暴れ者という噂だったが、実際に会ってみると、
意外にも礼儀正しく、秩序を大切にする種族だった。
「我ら、肉体の再生、早い。癒しの力、先祖から受け継ぐ」
回復魔法だと?
まさかとは思ったが、目の前で傷ついたゴブリンの腕を軽く撫でると、
たちまち傷口がふさがった。
「……これはヤバい。完全に回復専門部隊じゃないか」
オーク族には、魔法訓練所の設立を提案。
その代わり、こちらからは薬草の栽培地を提供。交渉は驚くほどスムーズに進んだ。
こうして、水・火・回復・地という
四種の魔物による「勇者討伐連合防衛体制」が築かれた。
さらに、魔法の基礎教育を共有化することで、
ゴブリンたちも簡単な魔法を使えるようになってきた。
まるで中世の軍事アカデミーのような空気が、ダンジョン内に満ちていく。
「これで……“最初に倒されるボス”から、“魔物連合軍の総司令”だな」
人間からホブゴブリンに転生した元・人間の男は、着実に“魔族の戦略家”として進化を遂げていた。