第4話 転生勇者 パンテオン神殿に呼ばれる
天にそびえるように聳え立つ、パンテオン神殿。
光と秩序の象徴であるその神域に、
今、一人の男が足を踏み入れようとしていた。
勇者アレス、異世界から転生してきた人間にして、
神の祝福を受けし勇者。
しかしその瞳には、もはや聖なる輝きなど残されていなかった。
その日、王都から南方に向う勇者アレスのもとに、伝令が舞い降りた。
「勇者アレス様。至急、パンテオン神殿へ。神殿裁判から直々に、招集がありました」
「……は?」
伝令の言葉を聞いた瞬間、アレスの口元が吊り上がった。
「……ほぉ? パンテオン神殿やて? あそこ、たしかイザベルとかいう女が仕切っとるとこやろ?」
アレスの口元がニヤリと吊り上がる。
あの時の戦い
ホブゴブリンの洞窟でボス戦の際、強制転移魔法で彼を吹き飛ばした女。
ダークエルフ、ティリス。
「ククッ……あのクソアマ。どうやら神殿に幽閉されたらしいのぉ」
アレスは腰の剣をゆっくり撫でながら、伝令に言い放った。
「……面白いやんけ」
「は、はい?」
「神殿に閉じ込められとる? そんなもん、ワイが救い出したるわ」
腰の剣をカチャッと鳴らし、アレスは冷たい笑みを浮かべた。
「神殿まるごと、皆殺しにしてなぁ。」
空気が凍りつく。伝令はその言葉に一瞬固まったが、アレスはお構いなしに歩き出す。
「まったくよぉ……魔族だけやのうて、神やら法やら……」
「ワイの邪魔すんのは、みんなぶっ潰したるんや」
空に浮かぶ七色の虹が、一瞬だけ翳った。
同じころ
パンテオン神殿の地下、
封印の監獄では、ティリスが静かに祈りを捧げていた。
「……風よ、護の旅路を守りたまえ」
その祈りの先に、彼女の仲間たち
護を中心とする魔族パーティーは、
遥か彼方の聖獣・レインボードラゴンの元へ向かっていた。
彼らの冒険の行方を知らぬまま、
神殿には新たなる嵐。転生勇者アレスの影が、静かに迫っていた。