第3話 ダンジョン改造計画 その2 ~部下モンスターとの共同作業編~
ダンジョンの再構築を一人で続けて数週間。
体は慣れてきたが、限界は感じていた。
「……土を運ぶだけで一日が終わるのはまずいな。作業効率が悪すぎる」
だが、ここはモンスターの住処。
ふと見渡せば、同じホブゴブリンやゴブリンたちが、森の影や洞窟の奥にうようよと住んでいる。
中には日がな一日寝ているもの、仲間同士で喧嘩しているものもいた。
「……コイツら、まさかとは思うが、使えるんじゃないか?」
試しに近くで石を積んでいたゴブリンに声をかけてみる。
身振り手振り、言葉の一部を混ぜて話すと、少し時間はかかったが、伝わった。
彼らは一見、野蛮で知能が低いと思われがち、だが違った。
よく見ると、筋力に優れた「パワー型」、素早く気配を消す「スカウト型」、
さらには、簡単な火球や煙幕の魔法を扱える「マジック型」のような個体もいる。
「これ……鍛えれば、普通に小隊になるじゃん……!」
その瞬間、かつて人間だった俺の社会人脳がフル回転を始めた。
プロジェクト・G始動!
まずは毎朝点呼。出欠をとる習慣をつけ、基礎訓練を開始。
「前へならえ」から始まり、「穴掘り競争」「物資運搬リレー」、
さらには「敵役ゴブリンとの模擬戦」まで、日々のルーチンとして組み込む。
最初は不満そうだったが、
ご褒美に「焼きトカゲ串」や「甘いキノコ酒」を与えると、参加率が爆増。
次第にゴブリンたちは“上司”である俺を尊敬するようになっていった。
チーム分けも実施。
建築班(パワー型):落とし穴や毒沼の設営を担当。
巡回班(スカウト型):ダンジョン内を定期的に見回り、異常を報告。
魔法支援班(マジック型):罠の発動タイミングや幻覚の間の制御を担当。
集団で訓練することで、次第にゴブリンたちにも“役割”と“誇り”が芽生えていく。
驚くことに、言語も少しずつ覚えてきた。中には俺の口調を真似する奴もいた。
「マモル! あれ 右ヨシ! 穴 ヨシ! ゴブリン最強!」
「おう、ゴブリン特攻隊、行ってこい!」
気がつけば、ダンジョン内は組織化されていた。
まるで「野営地付きの訓練場」だ。
木製の見張り台、武器を干す棚、怪我人を癒す薬草エリア……。
それらを見ながら、俺は思う。
「これ、勇者が来ても……本当に勝てるかもしれない」
罠+地形+集団戦術+魔法支援
たった一匹のホブゴブリンが作ったとは思えない、本格的な防衛線が出来つつあった。
そして、俺はダンジョンの最奥に、
新たな部屋指令室兼、玉座の間を作る決意を固めた。
俺たちはもう、ただの“最初に倒される雑魚モンスター”じゃない。
ゴブリンたちによる軍隊。軍の戦略を持つモンスター。
いずれは、この世界を支配する軍隊になる。
そう、生まれ変わったホブゴブリンの下剋上物語は始まったばかりだ。