第5話 ダークエルフの転送魔法
戦場は、勇者アレスの圧倒的な力により、魔物たちのパーティーが劣勢に立たされていた。
リュミナの咄嗟の水魔法で魔物パーティーは分断された。
ホブゴブリンの護は孤立。
敵はただ一人いや、一人にして最強。勇者アレスとの一騎打ちが始まっていた。
「はぁーはぁーはぁー」
しかし先ほどの攻撃により血を押さえる護。勝負はほぼついていた。
「…なんや、つまらん。もっと骨のある相手かと思ったんやけどなぁ」
アレスは余裕の笑みを浮かべ、血に飢えたような目で護を見下ろす。
剣を高く振り上げ、走り出したその瞬間
「やめてぇっ!彼を殺さないで!」
甲高く、だがどこか神秘的な声が、闇を裂いた。
影の中から、しなやかなシルエットが現れる。
金色に煌めく髪。深緑のマントに隠された長い耳。
ダークエルフ、ティリス。
アレスが目を見開く。
「ダークエルフ!?マジか、レアキャラやんけ!」
一瞬で態度を変える。ギラついた目が彼女の全身を舐めるように見た。
「お前、俺の仲間になれよ。いい待遇、保証するぜ?」
ティリスはアレスの誘いを一蹴する。
「……あなたのような卑劣な人間の仲間になるつもりはないわ」
「そうか……残念やな。ならお前も魔物扱いや。殺すしかないな」
アレスが剣を構え直した、その瞬間。
ティリスは目を閉じ、呪文を唱え始める。
彼女の周囲に風が巻き起こり、足元の草がざわめく。
「トゥーラ・エルヴァ・ノクス…
星の彼方、道を開け…
我が意に応えよ――移転の門よ!」
その詠唱と共に、空間がきしむ。
裂けるように宙が割れ、渦巻く魔法陣がアレスの足元に浮かび上がった!
「なっ……なんやこれ!?お、おい、まさかっ!」
ティリスの瞳が金色に輝き、叫ぶように呪文の名を放つ。
「《エクソダス・ゲイト》!!」
轟音と共に、アレスの体が光に包まれる。
地面が砕け、眩い閃光が全てを飲み込んだ。
「なにすんねんっ!このクソアマがぁああああ!!」
アレスの絶叫が、空に吸い込まれるように消えていく。
彼の姿は、跡形もなく消えていた。
移転魔法
ダークエルフに伝わる闇の禁呪の一つ。
それは、敵をこの世界の遥か彼方、別の大陸へと強制的に転送する魔法だった。
ティリスは息を整え、護へと振り返る。
「もう、大丈夫よ」
護は呆然としながらも、小さく礼を言った。
戦況は一変した。
闇から現れた一人のダークエルフが、護の運命を変えたのである。




