第4話 転生勇者 VS 転生ホブゴブリン
ゴブリンの玉座の間。
静寂のなかに、足音がひとつ―
アレスがゆっくりと前に出て護を見下ろした。
「……ああ、なるほどな。お前が“護”か。見た目でわかるわ。ハズレやな。転生した先がホブゴブリン?ウケるな」
護は無言でアレスを見返す。
「そっちが“転生者”ってのはわかったけどなぁ……その姿じゃ、全然ワクワクせんわ。さっさと殺して、楽にしてやるさかいな。どうせ苦しむんやろ、なあ?」
嘲笑混じりの声に、リュミナがうんざりしたように肩をすくめる。
「……悪趣味ね、ほんとに」
護が、一歩踏み出す。
「俺は……この世界で、命をもらった。この命で、仲間と出会い、共に生きてきた。そして、守るべき誇りを得た」
低く、熱のこもった声。周囲の魔族たちが静まり返る。
「命・仲間・誇り。俺が戦う理由だ。お前には、ないものだろうな」
アレスは目を細め、鼻で笑った。
「はあ? 命? 仲間? 誇り? それ、なんのスキルでもねえやん。
俺はな、“効率”と“クリア”と“快楽”で動いてる。
この世界はゲームや。邪魔なNPCは削除して、経験値だけもらえばええんや」
そして、アレスが手を掲げた。
「リュミナ、始めようか。こいつら、めんどくせぇから全員まとめて押し流してしまいな。」
リュミナが冷ややかな表情で詠唱を開始する。
「静寂に眠る深海の力よ、怒涛の牙となりて我が敵を穿て。
凍てつく憎悪は渦となり、煮え滾る憤怒は熱を纏う。
飲み干せ、大地を、空を、魂ごと。
来たれ
《アクア・インフェルノ》
轟音と共に、大量の高圧水柱が魔族たちに襲いかかった!
炎を打ち消し、床をえぐる嵐のような水撃――!
「ぐっ、クッ……!?」
「罠が……流された!?」
リザートマンのエミリーとトロールのコニが、とっさに回避行動をとる。
だが護は、仲間の前に立ちはだかり、その小さな身体で水流を受け止める!
「みんな、下がれ!俺が前を守る!」
ドォンッ!
その身体が壁に叩きつけられ、血が滲む。それでも護は立ち上がる。
「……仲間は、絶対に仲間を死なせない!」
リュミナが驚いたように呟く。
「……あんなの、生身で受けて立ち上がるなんて……」
アレスはニヤついたまま剣を構える。
「ハハッ、いいやん、いいやん!やっぱボス戦はこうでなくっちゃ!
でもよ、どんだけ仲間を守っても、痛ぇのはお前やんけ?」
「……それでもいい。痛みも、恐怖も、全部受け止めて生きてやる!」
次第に、戦場は混迷を極めていく。
アレスの嘲笑と狂気。護の必死の抵抗。そして、仲間たちの胸に芽生える“疑念”と“尊敬”。
ダークエルフのティリスは、物陰からその様子を見つめながら、呟いた。
(この戦いの本当の“勇者”って……)
ティリスは、背後の闇の中でひとり、震える心を押さえきれずにいた。




