第2話 転生勇者 トロール族のボスと対決
火山ダンジョン最奥部
無数の骨と破れた布地が床を覆い、壁には古びたトロール語の碑文が刻まれている。
その奥に湿気と血の匂いが充満する広間の中央に、全身を鎧のような筋肉で覆った巨体が立ちはだかる。
圧倒的な威圧感を放つ巨体 トロールキング。彼はコニちゃんのお兄さんである。
その背には無数の戦斧の傷跡が走り、まるで古の戦士のような威厳を放っていた。
アレスが笑いながら剣を振る。
「おーん? この奥にいたのは……おまえがボスかいな?」
トロールキングの赤黒い眼がアレスを睨む。
「お前が……アレス……“光と雷の槍の人間”か……」
「よう知っとるやん? 名が売れてきたかなぁ?」
トロールキングは唸るように低い声を漏らした。
「……“護”が言っていた。いずれ、人間の破壊者が現れると……貴様のことか」
アレスの笑みがピクリと歪む。
「またその名前か……護、護って最近よぉ聞くな。リザートマンとオークのボスも死ぬときに言うとったわ……」
トロールキングの表情が苦しげに歪む。
「護は……“人間”だった。お前と同じ……“転生者”だ」
「……なに?」
アレスの表情が凍り、次の瞬間、感情が爆発したように笑い出した。
「っははははははははっ!! マジかいな! 俺だけやなかったんや! ってことは他に仰山もおるんか? まだどっかに隠れとるんか!?」
「貴様……何が可笑しい……!」
アレスの目は血走っていた。
「最高や!! 俺と同じ“転生者”どもを、一人ずつ見つけ出してぶっ殺して……どんな顔するか、この目で見たいんや……」
彼のその異様な興奮を見て、リュミナが眉をひそめる。
「……悪趣味。最低ね」
アレスはそれに気づかず、剣をギラつかせながら突進した。
「さぁ……テメェは何発ぶち込んだら沈むんか、試したるわッ!!!」
戦闘開始。
トロールキングはその巨腕を振り上げ、地面を砕くほどの衝撃波で迎撃するが、アレスは跳躍して空中から雷槍を投擲!
「“ライトニング・ランサー”!!」
槍が雷鳴と共に命中し、トロールキングの胸に大穴を穿つ!
「ぐぬうおおおおおおお!!!」
だが巨体は崩れない。すかさずトロールキングが自らの血を魔力に変換し、空中に無数の火球を展開。
「“炎塊魔弾”――全放出ッ!!」
リュミナが静かに詠唱を始める。
「水天の祝福を受けし我が水の精霊よ、清き流れとなりて万象を貫かん。現れよ、
《アクア・ジャベリン・フォール》」
水の槍が天井から降り注ぎ、火球を消し去る。
ズドォン!!!
爆発と水柱が交錯し、炎と蒸気が広間を覆う。
視界が晴れたとき、トロールキングは片膝をつき、荒い息を漏らしていた。
アレスがとどめを刺すべく歩み寄る。
「護とやらも、お前みたいな顔して死ぬんか……楽しみやなぁ
……死ね……」
光の剣が振り下ろされ、トロールキングの命は絶えた。
リュミナが背後から冷ややかに言い放つ。
「……あなたみたいな人間、いつか本当に“死ぬ側”になるわよ」
アレスはその言葉に振り返りもせず、血の付いた剣を軽く振って言った。
「その時までに……何人転生者をぶっ殺せるか、楽しみやろ?」
深まる狂気と、ゆがんだ快楽
この世界に“転生勇者”アレスの悪名は、確実に刻まれ始めていた。




