第2話 ダンジョン改造計画 その1 ~落とし穴・毒沼・幻覚の間~
ホブゴブリンに転生して3日目。
ようやく「弱小のモンスター」という現実を受け入れ始めた頃、ある事実に気がついた。
この洞窟ダンジョン……構造が単純すぎる。
入口からまっすぐ一本道。
大木の根のようなトンネルを抜けると、最奥に小さな広間。
そこに、ホブゴブリンである「ボスの間」が待ち受けるという仕組み。
「こりゃ、ただのボーナスステージじゃねぇか……」
勇者にとってはレベル上げのおやつ。
こんな構造じゃ、どれだけ鍛えてもすぐに“真っ向勝負”になってしまう。
そうならないために、俺は決めた。
ダンジョン改造計画、始動。
まず着手したのは、地形の複雑化だ。
まっすぐだった道を、左右にぐねぐねと曲げ、視界が悪くなるように枝道もつくる。
さらに段差をつけ、細い橋をかけた谷を掘る。橋の下は泥水。
落ちればただじゃ済まない。
ただし、ゴブリンのモンスター部下たち用に脇道の「安全通路」も忘れずに。
次に取り掛かったのは、落とし穴の設置だ。
床を支える土を掘り、上に枯葉や苔を敷いてカモフラージュ。
落ちれば鋭い杭が待つ。古タイヤを加工してバネ仕掛けにしてみたら、案外うまく機能した。
土木作業は想像以上にきつかった。
スコップ代わりの骨を握りしめ、汗だくで穴を掘り、夜は筋肉痛で動けない。
でも、俺は知っている。この苦労は“勇者殺し”への第一歩なのだと。
そして、毒沼ゾーン。
森のキノコや腐葉土を煮詰めて、毒素を抽出。
少しずつ溜めていって、くぼ地に流し込む。
匂いはひどいが、効き目は抜群。モンスターの知恵袋・老インプの助言がここで役立った。
「勇者さまは毒にゃ弱いぞ。強い者ほど、慢心するからのぅ」
なるほど、老獪なアドバイスに感謝だ。
最後は幻覚の間。
俺が目をつけたのは、洞窟内に群生していた「ハルシノ草」。
乾燥させて火で炙れば、空気中に幻覚成分が充満する。
地形の迷路と組み合わせて、方向感覚を狂わせ、勇者を惑わせる。
「ようこそ、俺の迷宮へ……ってな」
初期装備の木の剣しか持ってない勇者が、こんな罠だらけのダンジョンに来たらどうなるか?
怖気づいて逃げるか、迷って体力を削られ、ボス部屋につく前に力尽きるだろう。
そうなれば、勝機は見える。
……いや、勝ちたいわけじゃない。
「“生き延びる”んだよ、俺は。3年後のその日まで」
誰かの冒険の“引き立て役”にはもうならない。
この世界で、生きるための砦を、俺は自分の手で作る。
そして俺は、図面もないまま、スコップと手のひらだけで、
世界に一つだけの“魔改造ダンジョン”の構築を、今日も続けるのだった。
なんか、SA〇UKEみたいになったな。