第7話 転生した勇者の影が差す。
「……嘘、だろ……?」
泉の守護任務を終えた護たちは、エルフ族の長老フィナリスから報告を受けた。
その内容に、誰も言葉を返せなかった。
「リザード族の長、タルグ=ザ・バインが、
……それから、オーク族の族長グラゴも……“勇者”に討たれたと、報せが入った。」
エイミーの肩が震え、膝をつく。
「……おじいさまが……そんな……っ」
デフリーは、拳を握りしめた。
「信じられへん……族長は、どっちも強かった……そんなん、勇者が相手せんでも……!」
護は黙ったまま、報告書に目を通す。
細かく記された記録には、ある“特徴”があった。
「片手に光の剣、もう片方に雷の槍。背中に“青い制服”をまとった幻影……」
「言葉は意味は不明。だが『これはゲーム』『さくっと攻略』という発言があったとの証言」
「……やっぱり、そうか」
護の声に、皆が目を向けた。
「“転生したばかり”の新たな勇者だ。多分、まだこの世界に慣れてもいない」
「それでも……族長二人を倒すなんて……あまりにも力が違いすぎる……」
エイミーが顔を伏せ、唇を噛む。
「これが、勇者……人間に選ばれた“災厄”……!」
ティリスが静かに立ち上がった。
「……あなたは、勇者と戦うつもり?」
護は目を閉じ、短く答えた。
「ああ、戦う。俺たちの誇りを踏みにじったんだ。逃げるつもりはない」
「あなたたちは魔物で勇者と戦って勝ち目のない戦いのはず。なのに、どうしてそこまで……?」
「それが、俺の“信念”だからだ」
護の声に、ティリスの瞳が揺れた。
「勇者だから正義で、魔物だから悪だなんて決めつけない。
命を奪ったのが誰であっても、俺たちには“悲しむ理由”がある。
それだけは……信じていいはずだろ」
静寂が流れる。
しばらくして、ティリスが小さく息を吐く。
「……私は“魔物は人害”と教わってきた。ずっとそれが正しいと……思っていた。
でも……あなたを見ていると、分からなくなるの。
信じてはいけない相手のはずなのに……心が揺れるのよ」
彼女は剣を鞘に収め、護の方へ歩み寄った。
「私が仲間になるには条件があるわ」
「条件?」
「……あなたが“勇者と戦い”、それでも自分の信念を曲げないと証明したら、私はその背中に剣を預ける。
……それまで私は見届け人。敵でも味方でもない」
護は少しだけ笑ってうなずいた。
「構わない。勝手にやらせてもらう」
ティリスはそっと微笑んだ。
「……じゃあ、せいぜい、私の心を揺らしてみなさい。ゴブリン隊長さん」
月が静かに森を照らす夜
“影”が差し始めた世界の中で、護は新たな決意を胸に刻んだ。
第三章 完結